【完結】転生魔女、逆ハー狙いの転生聖女から国を救います

瀬里@SMARTOON8/31公開予定

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魔女、再び立ち上がる(挿し絵あり)

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「おい魔女! ぼけてんな、しっかりしろ!」

 沈み込みかけたメリルを支えた声は、口の悪い人狼の暗殺者のものだった。
 はっと顔を上げたメリルには、剣を切り結ぶロウガの姿が目に入った。

(そうだ。ロウガは、私が巻き込んだんだ)

 ロウガは、本当ならこの場にいなかった。聖女の暗殺のために雇われた彼は、彼一人だけならこんな窮地に陥ることなんてなかった。メリルが巻き込んだために、魔獣と戦い怪我を負い、今またデュークと死闘を演じている。

(私の信じたもののために、私が巻き込んだ)

 そんな自分が、先に折れて落ち込むだなんて、巻き込んだロウガに対してなんて失礼なんだろう。情けないんだろう。

「おい、くそったれ王子! あの魔女は俺が連れて行く。てめえもあの魔法使いも全部倒して連れて行く」

 ロウガはまだ、こんな情けないメリルを、守ろうと、支えようとしてくれている。
 立ち上がらなければならない。

 でも、まだ体が動かなかった。

(だって、だって、あれが全部、まやかしで、幻で、偽りだとしたら、私は何を信じて、何のためにここまで――)

 その時、じわりとにじんだ視界の先にいる、デュークと――目が合った。

 勘違いだろうか?
 いや、違う。
 デュークは、メリルの視線の先で、目を逸らさない。
 金の瞳の奥の灯が揺れるのは、何故だろう。

 メリルは、今までのデュークの行動を思い出す。
 優しい人だ。まっすぐな人だ。
 魅了にかかったのが本当だとしても、その前にデュークが積み重ねて来たものは全て本物だった。
 積み重ねて来た過去の全てがあったから、メリルは彼を信じ、彼の側に居場所を求め、彼の役に立ちたいと願ったのだ。
 あれが全部嘘なんて、その方が嘘だ。
 そんな嘘に揺るがされて、自分は何を見失っていたのだろう。

 デュークはきっと戦ってる。今も魅了に抗って戦っているはずだ。
 それをメリルが信じなくて誰が信じるんだろう?

 メリルは眼前の魔法使いを見上げた。

「私は諦めないわ。だって、あなたが言うのは事実だけど、きっと真実じゃない。私は諦めない。だって、デュークは負けてないし、今も戦ってるから」

  ◇◇◇◇◇◇

「はっ、それでこそ俺の見込んだ魔女だ」

 立ち上がり強い視線で魔法使いを見返したメリルを見て、ロウガは不敵な笑みを浮かべ、デュークを見据えた。

「魔女はてめえを信じるってさ。魔女に応えたかったら証明して見せろ! てめえの敵は俺じゃねえ、あの魔法使いだ。だが、俺は気が長くねえ。証明できねえんなら、さっさと寝とけ! あの魔法使いは、俺が倒す。てめえは邪魔だ!」

 ロウガは、短剣を手に、デュークの懐に切り込む。
 二本の双剣で、いなすことはせず、初めてデュークの大剣を受け止めた。
 腕だけを獣化させ膂力を強化する。

「連れて……かせない。渡さ……ない」
「はっ、意識あんのかよ。なら話ははええな。誰に渡したくないんだ? 俺じゃねえだろ、あの魔法使いにだろ! 間違えんな!」
「渡さ……い、メリルは」

 その言葉と共に、デュークがロウガの短剣を弾き飛ばした。
 デュークの剣速が急激に早まり、ロウガは目を見開く。

「ちっ」

  ◇◇◇◇◇◇

 メリルは立ち上がり、玉座に座ったままのロドニーに挑む。
 手の奥に風の魔法陣を描き、投げつけると、魔法壁によってそれは阻まれる。
 王城の中は側に土がなく、メリルの得意な大地の魔術はほとんど役に立たない。

「あなたは魔法で私に勝つことはできないのはおわかりでしょう。かといって、武術に秀でているわけでもないのは一目瞭然です。あなたが私に勝つには、あなたがなくしたと言っているあの力を使うしかないでしょう――そうですね、こじ開ける前に試してみるといいかもしれません。例えば、命が危険にさらされれば、力は再び目覚めるかもしれません」

 ロドニーは、玉座に座ったままメリルに手の平を向けた。
 メリルも得意とする風魔法が、メリルを襲う。暴風がメリルにたたきつけられ、メリルは壁まで吹っ飛んだ。

「風魔法とは、このように使うのです」
「かっ……はっ」

 痛みと衝撃で頭がくらくらして何も考えられなかった。

「どうです、力は目覚めませんか? ほら、目覚めないと大変ですよ。あなたの大事な暗殺者が、あのように」

(ロウガ)

 メリルの視線の先では、床に仰向けに転がるロウガに向かって、今まさにデュークの大剣が振り下ろされようとしていた。

「まだ足りない? ではこれも試してみましょう」

 ロドニーの手の平の上では、電撃がバチバチと爆ぜている。
 メリルに向かい、今度は雷撃が投げつけられた。

(助けたい。助けなきゃ。ロウガ、ロウガだけでも)

 けれど、メリルはただ、ただそれを見つめる事しかできなかった。
 そして、目の前が轟音と共に白い光に覆われる。

(終わりなの? 私は、私の大事な人達に何もしてあげられないの?)

 不思議と、雷撃による衝撃も、痛みも、熱さも、何も感じなかった。
 メリルは目を閉じる。
 そのまま沈み込みそうになる意識を――けれど、引き留める声がした。

「君はほんとに詰めが甘い。見極めが甘い。だからダメなんだ。おとなしく僕が来るまで待っていればよかったのに――これだから目が離せない」

 嫌味を言っているのに、育ちの良さがにじみ出る品のある声は、聞いたことのあるものだった。
 でも、ここで聞くはずのない声だった。

(ヴァレ……リウス?)

 メリルの前の白い光の壁は魔法の防御壁だった。
 ぼんやりとした頭に、ヴァレリウスは魔法は使えないのに、きっと、魔法のスクロールを使ったのだ、などとどうでもよいことが浮かんでくる。
 ヴァレリウスは、銀色の光輝く銃身に魔法の弾丸を込めて使う、愛用の改造銃を構えていた。
 神経質そうな顔立ちにいつもの余裕はないように見えるのは気のせいだろうか。

「デュ、……ク」
「大丈夫。彼の剣は、僕が止めた。それに、聖女二人が魅了を解く術を見出した――成功したようだね」

 ヴァレリウスの持つ銃は、銃身から白煙を立ち上らせていた。
 デュークは、ロウガに振り上げていた剣を下ろし、床に突き立てていた。彼の後ろには聖女マリアとクローディアの姿、そして、侍従のイアンの姿があった。彼女達の試みが成功したのだ。
 聖女一人の力なら、魅了を防ぐ効果しかないが、聖女と同種のクローディアの力、そして破損した解呪のアーティファクトの力を重ねれば、解呪が可能ではなかろうか? そんな推測をしたクローディアが、見事に実験を成功させたのだろう。

「よ、……かっ」
「また自分の心配より他人の心配? だから君は放っておけないんだ……こんなに、……ついて」

 ヴァレリウスの顔が近い。いつの間にか床に倒れたメリルは抱き上げられていた。ヴァレリウスは、険しい顔のまま唇をかみしめ、懐から別のスクロールを取り出すとメリルの前で広げた。治癒のスクロールだ。壁にたたきつけられて、ずきずきと痛んだ肺と頭から痛みが引いていく。メリルの体に力が行き渡り、やっと物事をまともに考えられるようになる。
 メリルはぶつぶつ言うヴァレリウスの膝の上から起き上がった。服はボロボロ。床には結構な血が流れた跡がある。ヴァレリウスの洋服も血塗れで、思ったより凄惨な光景だった。険しいヴァレリウスの顔を見て、もしかして結構危ない状況だったのかも、と思う。メリルに何かあると、ヴァレリウスはともかく彼の祖父のパーセン公爵はとても悲しむ。きっとメリルの窮地を知った公爵閣下が彼をよこしてくれたに違いない。

「ヴァレリウス、ありがとうって公爵様に伝えて。魔女メリルがとても感謝していたと」
「……なんで公爵様……君は、予言以外は対した力はないのだから身の程をわきまえることを少しは学んだらどうかな?」
「そこまで言わなくったっていいじゃない。自分だって強くないくせに!」
「そう、だから準備に時間がかかったんだ。大魔導士に頼み込んで最高レベルの破壊魔法に、照準追尾魔法を組み込んでもらったからね。僕に力があれば、もっと早くっ」
「え、大魔導士って、あのがめついおじいちゃん……いくらかかったの」
「……それはそれは恐ろしいほどだよ。ただの魔女には一生かかっても返せないほどのね。君は借りを作るのが嫌いだったよね。この借りは将来公爵家に入り、閣下の義理の孫として返してもらう以外ないね。期待してるよ、婚約者殿」
「婚約者じゃないっていつも言ってるでしょ!」
「時間の問題だろう? 閣下の命令なんだから。閣下に借りを返したいんだろう? まさか借りを返すって、口先だけじゃないだろうね?」
「ううっ」

 ヴァレリウスと話すといつもこうなってしまう。少しは嫌味を押さえてくれたらもう少しまともな会話が成り立つと思うのだ。

 そうこうするうちに、メリルを守るように、デューク、ロウガが玉座に座るロドニーの前に立ち塞がった。
 広間の端に目を向けると、クローディアとマリアが王太子達の所へ向かうのがわかった。魅了に侵されて、離れで拘束されていたはずのイアンが付き従っている。イアンの魅了を解けたなら、きっと大丈夫だ。

「サアヤ、すまない」
「デューク……ううん、大丈夫」

 声を聞くだけで涙が出そうになる。
 デュークは、振り返らない。けれど、これでもう安心なのだと、声だけでわかった。魅了の悪夢は終わったのだ。
 ヴァレリウスも涙ぐむメリルの脇から立ち上がり、銃を構える。
 けれど、魔法使いロドニーは余裕の表情を崩さなかった。

「おやおや、これは失敗してしまったようですね。仕方ありません。勝負は預けましょう。魔女メリル、また日を改めてあなたを迎えに来ます。――そうだ、最後に手土産を差し上げましょう」
「てめえ、ふざけんな!」

 ロドニーの正面の床に大きな魔法陣が浮かび上がる。
 覚えのあるそれに、メリルは目を見開いた。
 その中央に、浮かび上がるのは、鈍色の大きな影。
 固いうろこでおおわれた猛獣の体躯に、蜥蜴の頭と丸太のような尾。
 うろこが所々削り取られているのは、ロウガのミスリルナイフによってつけられた傷だ。
 
「魔獣テキーラ」

 ロドニーは、従順に差し出されたテキーラの頭をなでる。

「第三王子に魔獣の刻印をつけた主だ。お互い惹き合うのを感じるだろう――さあ、テキーラ。わかるだろう。お前の贄だ。そろそろ熟しているだろう。――貪り尽くせ」

 召喚の陣の中から現れたのは、地下神殿の祭壇の間から消え去った魔獣テキーラだった。
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