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第1話 出会いと探し物
しおりを挟む最近、婚約破棄が流行っている。
爵位の高い貴族家のご子息達の流行りらしい。
ここ、ティント王国では、夜会などの王室行事において、パートナー同伴が推奨されることが多い。
パートナーなしで参加できなくもないのだが、周りからちょっと白い目で見られる風潮があるのだ。
そしてこの国では、戦後の人口増加・結婚促進戦略のために作られた「3回同伴したら婚約申し込みしなければならない」という慣例が今なお残っていて……。
貴族の間では夜会に参加できる17になると男女ともに婚約せざるを得ない状況に陥るのである。
そこで、平和になりつつあるこの時代、逃げ道として格差婚約+婚約破棄が流行りだした。
まだまだ遊びたい、決めたくないという爵位の高い方々が、形式だけの為に後で婚約破棄しても問題の出ない爵位の低いお家から婚約者をたてるのだ。
ということで、その悪循環のしわ寄せは、周りまわって爵位の低い貴族令嬢たちへと来ている。
特に、外見もそこそこよくって、おとなしくって文句も言わなくって、家の力もなくって、ちょっとの慰謝料ですむと思われるようなおうちの子が被害にあいやすい。
そこそこ慰謝料がもらえるのでWin-Winな気もするから被害といっていいのか微妙なんだけど。
でも、破棄された令嬢令息になんのダメージもないわけではない。
高位の令嬢+低位の子息というパターンもあるにはあるけど、婚約破棄のダメージが大きいのは、やはり女性側だ。
破棄された令嬢は、その後どうなるかは、推して知るべし。ちょっとした社会問題になっていた。
なあんてことも世の中にはあったようだけど、この時初めての恋に浮かれてた私は、そんな世の中の様子なんて全く気にしてなかった。
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私、レイア=ジェン=ボノセッティが、彼、レン=ヤードと出会ったのは半年前。お菓子に使う外国の香辛料を街に見に行った時だった。
私は男爵家の3女で家は普通の男爵家と比べても裕福だったけど、お父様はそんなに貴族の伝統や型にこだわるような方ではなくて、結構自由に街に出かけたりすることが許されていた。
買い物が終わった帰り、街の広場のそばに設置された馬車留めで迎えの馬車を待っていると、彼の姿が目に付いたのだ。
一言でいうと挙動不審。あっちに行ったりこっちに行ったり、隅っこをのぞき込んだり。探し物をしているのか人を探しているのか、よくわからない。
年は私よりは下、16,7くらいだろうか?
麦わら帽子みたいな色の髪と、茶色い瞳の目立たない容姿の子だったが、きゅっと口を結んで表情を変えずに、さっきから広場の場所を変えて同じようなことをしている。
私は人の感情を読むのが結構得意だ。表情を変えずにいた彼だが、そんな彼の瞳に、不安の影がよぎったのを感じ取って、声をかけることにした。
「どうしたの?」
彼は、不審者をみるような目でこちらをにらみつける。
人見知りかしら?警戒してる?安心させるように微笑んで見せる。
「困ってるように見えたんだけど。私、迎えがくるまでちょっと時間があるから、少しなら手伝えるわよ?」
よく言われるが、私は特別美人ではないので、周りの人はリラックスしやすいらしい。
今日は人の目を引かないよう、無難な町娘風の服装だし、平々凡々な顔に能天気で人の好さそうな笑顔は、よく子供にも馬鹿にされ……いや、無害そうに見えることは自負している。自分で言ってて悲しくなってくるからこの辺でやめておく。
彼は、ちょっと警戒を解いて、目をそらした。
「大事なものを、なくしてしまった」
どうも大事な魔道具の魔石を落っことしてしまったらしい。
魔術の師匠からの預かり物で、貴重な品だそうだ。
魔道具はうちにもいくつかあるが平民の家ではまだ珍しいものだ。おまけに預かり物ときたらそれは必死になるのもわかる。それの動力源として使われる魔石もしかり。さらに魔道具と魔石は相性があって、どんな魔石でも替えがきくというわけではないのだ。
「探し物手伝うよ」
表情を変えないけど、ちょっとうれしそう。
私は、彼の年下の男の子にちょっとお姉さん風を吹かせてみたのだった。
彼は、広場の方をすでにだいぶ探したようだが見つからなかったらしい。
そこで彼が通ってきたルートを逆にたどっていく。
私は、周りに聞き込みをし、彼は無表情のまま周りをにらみつつもくもくと歩いていく。
しばらくいくと、彼が魔道具を落としたと言う場所のあたりに来た。
お猫様達の集会エリアらしく、あたりには猫がたむろしている。
?
「あの猫!首に絡まっているの魔石じゃない?」
魔石は、ペンダントにして持ち運ぶことも多いため、鎖がついているものが多い。
猫が首にひっかけてしまったのだ!
「あれだ!」
大きな声に猫がびっくりしてこちらを見る。
「待って待って!警戒されたら大変」
「にゃー」
私の猫の鳴きまねは、なかなかだったと思う。
ポシェットから猫のおやつになりそうなお菓子を出してみる。私の力作だ。バターのにおいが周りに漂う。
「にゃー」
彼が口を押えている。
笑うな、こら!
猫は体を低くしてゆっくり寄ってくる。
「にゃー」
私の無害オーラは猫にも効くのだ。
足元にすり寄ってきて、お菓子をねだる。
私はゆっくりと体を落として、猫の体を撫でてそっと魔石をはずした。
猫は満足そうにお菓子を食べている。
やった!
私が得意そうに顔を上げると、彼と目が合った。
そして、ずっと無表情だった彼がくったくなく笑ったのをみて、大満足したのだった。
彼からお礼をするから、と言われてまた会う約束をした。
そして、それからも私たちは、週に一度、彼が魔術の師匠の家から帰る途中、二人の時間を過ごすことになったのだった。
だんだん、なつかない野良犬をなつかせるように、彼の心をゆさぶり、その変えない表情から感情を引き出すのに快感を覚えはじめて。
そして、徐々に見せてくれる彼の素の表情に、私はすっかりやられてしまったのだった。
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