『オークヘイヴンの収穫祭』

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第2章 ― 朝のささやき ―(後半)

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エレノアは窓越しに行列を見送り、最後の住民が教会へ消えるのを確認した。その覆い隠された物体――不規則で有機的な形状、その比率がどこか懐かしくも不気味な――が彼女の心に不安を呼び起こしていた。しかし、彼女はその考えを押し込め、今すぐの課題、すなわちモートンの地下室に向かうことに集中した。

収穫宴まで、まだ2時間ある。サラの情報が正しければ、これが日記に触れる唯一の機会かもしれない。エレノアは小型の懐中電灯、写真撮影用のスマホ、そしてデジタルボイスレコーダーを手に取り、ポケットの中で重く感じる鍵を実感しながら歩みを進めた。まるで、その鍵自体が、秘密を地中深く沈めようとするかのようだった。

モートン雑貨店の裏口は、狭い路地に面していた。夕暮れの残光の中、影が不自然に深まる様子を確認しながら、エレノアは慎重に近づいた。鍵がロックに差し込まれると、しばしのためらいの後、軋む音とともに扉は静かに開いた。

店奥の部屋には、埃と保存食の匂いが漂い、石造りの瓶が並ぶ棚は、消えゆく太陽光を受けて奇妙な歪んだ影を落としていた。エレノアは、空き箱の山の奥に隠された地下室への扉を発見する。あの、どこにでも見られるねじれた木の彫刻が施された鍵穴を見つけるのに、ほんの少しの時間を要した。

地下室への階段を降りると、懐中電灯の光が木製の棚や樽を浮かび上がらせ、どこか熟しすぎた果実のような、甘い香りをもたらしていた。サラがかすかに言及していたピクルス樽が、向こう側の壁に独特な半円形に並んでいるのが目に入った。

「モートンさん…一体、何があなたを…消滅させたのですか?」
エレノアは、最初の樽を慎重に動かしながら、低い声でつぶやいた。その擦れる音は、地下室の閉ざされた空間に永遠にこだまするかのように響いた。樽の裏側には、最近動かされた形跡があり、床には擦り跡、そして何度も取り外され交換されたかのような、わずかに明るい石のパッチが見えた。

彼女の指が、緩んだ石の端を見つけ、その向こうに布で包まれた束――年月を経た日記が三冊、ひび割れた革の表紙に、50年前の日付が刻まれているもの――を捉えた。エレノアは震える手で一冊目を開き、かすかな文字が、かつての秘密を物語るかのように浮かび上がるのを感じた。

――「1973年10月12日
 オークヘイヴンに何かがおかしい。私は、ただ都会の混沌から逃れるため、素朴な田舎の店を営むためにここに来た。人々は奇妙でありながらも親切に見えた。しかし、今になって、その親切さが仮面であったことが分かる。収穫が迫るにつれ、彼らが畑で何をしているのか、その真実が…」

その瞬間、上階から足音が近づき、店内に誰かの声が響いた。男の声――モートンの声と、耳慣れぬ権威ある声が交互に響く。

「――どこもかしこも、しっかり調べたか?」
「はい、エルダー。地下室は…ずっと封印されておりました」
「もう一度、調べ直すのだ。あなたのおじいさまのような事件を、再び起こしてはならない。祝福は終わったが、収穫にはまだ準備が必要だ。もし、彼女が彼の日記を見つけたら…」

エレノアはすぐさま、日記を丁寧に包み、石を元の位置に戻すと、心臓が高鳴る中、地下室の扉が閉まるのを待った。上階からは、またもや黄色いランプの光が階段にこぼれ、鐘が深い共鳴音とともに鳴り始めた。

ようやく、路地に姿を現したエレノアの顔には、夕日の残光と不安が混じった表情が浮かんでいた。町の広場では、ランタンの明かりがちらつき、薪の煙と、どこか古びた寺院から漂う香が混じり合っていた。暗い服をまとった住民たちが、整然と教会へと向かって歩み始め、広場にはテーブルが設置され、収穫宴の準備が整いつつあった。

収穫宴は、今まさに始まろうとしていた。しかし、エレノアの胸に、ジャケットに押し付けられる日記の重みが、まるで錨のように引きずっていた。彼女は、モートンのおじいさまが何を発見し、なぜそれが彼を消し去ったのか、その真相を知る必要があった。

突然、影の中から一人の人物が現れた。サラが、依然として暗い服をまといながらも、ねじれたトウモロコシの皮の冠で飾られていた。

「見つけましたか?」サラは低い声で尋ねた。

エレノアは、ただ静かにうなずくと、
「部屋に戻って、すぐに読んでください。読み終えたら燃やしなさい」
と、サラは肩越しに後ろを見ながら告げた。「すぐに宴からあなたがいなくなったことに気づくでしょう。私は、あなたが体調不良だと伝えておきます。」

「サラ、祝福の際に持ち帰った、あの布の下には何があったのですか?」
すると、サラの顔は青ざめ、
「その質問は…どうかしないでください。お願いです。ただ、日記を読んで。そして、ミッチェル博士、今夜、何を聞いても、窓の外は絶対に見ないでください。どんなことがあっても」
と、サラは焦るように言い残し、教会へ向かって急いで歩き去った。

エレノアは一人、深まる闇の中に取り残されながらも、町の広場から聞こえる歌声に耳を傾けた。昨夜と同じ詠唱が、より多くの声とともに、そして明瞭さを増して流れていたが、なおも完全には聞き取れなかった。むしろ、その曖昧さが、かえって憂いと不安を一層際立たせるように思えた。

宿へと戻る道すがら、エレノアは日記の重さと、その秘密に引き寄せられるような感覚に耐えながら、階段を上った。部屋に戻ると、彼女は扉を閉め、カーテンを引き、初めの日記を開いた。これらのページに隠された真実――それが何であれ――知る必要があった。祭りが迫る中で、これまでにない暗い何かが、間違いなく近づいていると彼女は感じていた。

外では、詠唱が途切れることなく続き、どこか暗闇の奥で、再びあの13回の鐘の音が鳴り始めた。
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