ネイビーブルー・カタストロフィ――誰が○○○を×したか――

古間降丸

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3 むかしのがっこう(その4)

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 二年一組を出て同様に賑やかな一年生の教室の前を過ぎ、階段を上がる。
 二階には進路指導室や自習室や生徒会室といった共用室が並び、その向こうに三年生の四クラスが続いて突き当たりはそのまま体育館に通じている。
 三年生の教室が並ぶ奥の方は一階同様に賑やかだが共用室の並ぶ手前側は閑散としている。
 そんな人気のない廊下を静刻はギィアについて歩きながら窓外へと目をやる。
 図書室から体育館に向かっていた特別教室棟の廊下とは反対方向になる一般教室棟こっちの窓からは住宅街と商店街が見える。
 商店街の向こうに突きだしている看板は遠山ブックセンター。
 駅前にあるこの書店は静刻の行きつけ店である。
 背の低い建物が多い田舎で無駄に大きな看板はこの当時からあったらしい。
 そんな具合に記憶にある二十一世紀の町並みと脳内で比較してみる。
 農地と山しか見えなかった特別教室棟の時よりもその変貌振りは明らかだった。
 所々に見慣れた建物や看板がなかったり、見慣れない建物や看板があったりする。
 しかし、この変貌振りが二十八年という時間に対して大きいのか小さいのか、あるいは適切なのかは静刻にはわからない。
 ただ、静刻にとっては今眺めている景色が“自身が生まれるはるか以前のもの”と思えば、その変貌振りが物足りないのも事実だった。
 それはやはりこの町が田舎だからなのだろう。
 静刻は目線を窓から前を歩いているギィアへと向ける。
 すでにギィアは三年一組の教室前にさしかかっていた。
 当然のように教室前の廊下は立ち話や行き来する生徒で賑わっている。
 生徒たちは一階の時と同様に男女問わずギィアと静刻を見る。
 その目線は一階で受けたものとなんら変わらない。
 一年生の教室前を通った時も同様だった気がする。
 静刻は思い出す。
 認識誘導膏は、使用者をその環境に違和感なく溶け込ませる催眠波を周囲に出すとギィアは言っていた。
 つまり、二年生の中にいれば二年生に、一年生の中にいれば一年生に、三年生の中にいれば三年生に、静刻とギィアを擬装するのだろう。
 じゃあ職員室へ行けば教師に擬装するのか?
 さらに発想を飛躍させる。
 もしオレが女子更衣室にいれば女生徒に擬装されるんだろうか、と。
 そんなくだらないことを考えている間に三年生最後の教室である四組の前にさしかかる。
 同時に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。
 廊下の三年生たちはばたばたと、あるいはだるそうに教室へと入っていく。
 それらとは無関係に体育館へと足を進めるギィアと静刻の背に、目を留めた女生徒が声を掛ける。
「どこ行くの? 始まるよ」
「なにがなのです」
 ギィアがきょとんと振り向く。
「いいからいいから」
 静刻は慌ててその手を引き、階段を駆け下りる。
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