ネイビーブルー・カタストロフィ――誰が○○○を×したか――

古間降丸

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3 むかしのがっこう(その6)

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 食事は簡単に終わった。
 もともとコンビニの弁当やサンドイッチが主食であることと外食はあまり好きではないことから凝ったものや時間のかかるものは好まないのである。
 ギィアは食べなかった。
 自身で発電して自身で充電するという自己完結型の電源システムを使っているのでバッテリーが劣化しない限り外からエネルギーを補給する必要はないのだという。
 だからじっと食事をとる静刻を眺めていた、楽しげに。
 空になったトレイを食器返却口に戻したらもうすることはない。
 並んでソファに座り――
「ちょっと引っかかったんだけどさ」
 ――校舎を歩いている時に覚えた違和感について訊いてみる。
 ここが田舎町であることと自分たちの目的の間にどうも齟齬が生じているような違和感について。
「なんなのです?」
「この学校のブルマ廃止を回避するんだよな」
「そうなのです」
「それが本当に二十世紀末の絶滅連鎖と結びつくのか?」
「納得いかないのです?」
「いや、たとえばさ、東京の有名な高校とかだとまだわかるんだよ。社会的な影響とか大きいだろうし。でも、こんな田舎の中学校で回避したところで全国的な廃止運動を阻止できるとは思えないんだよな」
「この学校が“百匹目の猿”だから、なのです」
 どこかで聞いたことがある。
「なんだっけ」
「ある島で一匹の猿が波打ち際で芋を洗ってから食べる習慣を身につけました。他の猿もそれを真似し始めました。その数が特定の数――たとえば百匹とか――を超えた時、その島の猿とはまったく交流がないはずの別の島の猿たちも芋を洗い出したのです。おわり」
「この学校が“百匹目の猿”だから、ここでブルマが廃止されれば、交流のない遠隔地でも廃止が始まると」
「そういうことなのです。だから阻止しなくてはならないのです」
 ギィアは自らの意志を鼓舞するように拳を握りしめた。
「なるほどねえ」
 一方の静刻はわかったようなわからないような話になんとなくではあるが納得してみせながら、食事を終えたことも関係あるのだろう、睡魔の到来を感じた。
 ギィアもまたそれを察したらしい。
「就寝をお勧めするのです。今日はいろいろあって、さぞやお疲れのことだと思うのです」
「ああ、ありがと」
 立ち上がって部屋の隅に置かれているベッドへ向かう。
 見渡すまでもなくベッドと呼べるものはこのセミダブルが一台だけ。
 ギィアはどうするつもりなのだろう。
 一緒に眠るのか、そもそも眠る必要があるのか。
 どこから聞いていいのかわからず、曖昧に問い掛ける。
「ギィアは?」
「睡眠は必ずしも必要とはしないのです。ただ、覚醒中に収集してため込んだ外部情報の整理やバッテリーの充電効率を上げるためには寝ないより寝た方がいいていどのものなのです」
「じゃ、せっかくだし寝ようか」
 明らかに誘いかけているその口調にギィアの表情が赤くなる。
「あ、あたしはここで寝るのです。静刻はベッドで寝るのです」
「なんで赤くなってるんだよ。ていうか、いいのか、そっちで」
「いいのです。そのベッドは心ならずも巻き添えにしてしまったことへのお詫びでもあるのです。だから静刻が寝るのです。未来科学の粋を集めた超快眠寝具セットなのです」
 そう言われてシーツを撫でてみるが、静刻には見た目も手触りもありがちなベッドとしか感じない。
 ギィアが続ける。
「一度横になったらどんなに興奮状態であろうと、どれだけカフェインを投与していようと、瞬く間に心地よい眠りの世界へ誘われるでありましょう、なのです。なので、おやすみなさい」
 言い終わると同時に照明の明度が落ちた。
「ああ、じゃあ、おやすみ」
 靴を脱ぎ捨て、半信半疑で横になる。
 ギィアの言葉通り、数回の呼吸を経た次の瞬間には――
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