ネイビーブルー・カタストロフィ――誰が○○○を×したか――

８ それから（その３）

　当然のようにネイビーブルー・カタストロフィは回避されず、ブルマは一九九〇年代の絶滅連鎖により学校文化から消失した。
　それが歴史的にどんな意味を持つのかは静刻にはわからない。
　ただ、考えてみれば、たとえ“誤認”であったとしても“エロ目線が理由でネイビーブルー・カタストロフィが発生して日常的存在だったはずのブルマが駆逐された”のだとしたら、それはそれで第六エロ魔王の言う“日常”がエロに屈した希有な事例と言えるのかもしれない。

　そんなことをとりとめもなく考える静刻のかたわらで一台の軽自動車が止まった。
　助手席の窓が開き、運転席から身を乗り出しているのは山葵坂中学校にカウンセラーとして勤務する“旧姓”飯詰みどり。
「ほーい」
　二十八年前とはまるで別人のように中年カウンセラーは屈託のない笑顔を見せる。
「乗ってく？」
　静刻が答える。
「いや、すぐそこだから。ありがと」
「そーなんだ」
　少し残念そうな表情を浮かべる。
「聞きいことがあったんだけど」
「いいよ、なんでも聞いてくれ」
「小幌ってどーして卒業アルバムに載ってないの？」
「それはな――」
　もったいぶって言葉を切る。
「――オレはみんなの心の中だけにいるクラスメートだからだ」
「なにそれ、バカみたい。あはは」
　ひとしきり笑って、続ける。
「こないだ偶然だけど真澄にあったの」
　記憶をかき回すとすぐ“結い髪トリオ”のツインテールが浮かんだ。
「で、なつかしーねーって話になって。真澄もギィアちゃんに会いたがってたけど、住所録のどこにも残ってないって不思議がってたよ」