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病室から
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白く無機質な天井、四方の壁、床。
全て入院当時から変わらない。
唯一、四季の変化を確認できる窓からの眺望は、病院の耐震工事の足場で遮断されている。
部屋には二人。
幼い頃から体の弱い私と少々活発的な幼馴染、蓮見 波留。
着崩した制服と長い茶髪、楽観的な性格――一言で表すと、ギャルだ。
「相変わらず殺風景な部屋……死体安置所みたい」
波留のブラックジョークが飛ぶ。
「それ、入院中の病弱美少女の前で言う?」
「美少女がベッドの上で胡坐かいたりするかな?」
痛いところを突かれた。
波留は派手なキーホルダーがジャラジャラ付いた鞄から、数枚のプリントを取り出す。
それを空の花瓶が置かれた机に放り、いつもの言葉を発する。
「ほら、今日の分のプリント」
今日は小テストが多かったらしい。
「……で? ユキっち、次はいつ学校来れんの?」
波留はテーブルに肘をつき、興味津々な様子でこちらに視線を向ける。
「来週くらいには保健室登校……かな? 安定してればだけどね」
高校一年生になってから約半年が経過したが、教室で放課後まで学業に励めた日は二十日程度。
ほぼ毎日、見舞いに来てくれる波留が居なければ、今頃は不遇な自分に嫌気が刺して登校すら億劫になっていただろう。
「じゃ、アタシは弟達のお守りあるから! また明日な!」
「別に、毎日来なくてもいいのに……」
高校と家の間に病院があるとはいえ、毎日というのは相当な労力と時間を要する。
ましてや、彼女の家は三姉弟の母子家庭。ただでさえ自由な時間が限られているというのに、その時間すら私に配分してくれているのだ。
私自身、申し訳ないという気持ちは持っている。
面白い会話の一つや二つくらい飛ばしてやりたいのは山々だが、一日中代り映えのない病室に居ては不可能に近い。
「今日の点滴、タカダ製薬のだったよ!」と報告したところで、「あっ……そうなんだ、ははっ」で会話に終止符が打たれるだろう。
「波留ん家、育ち盛りの弟二人いるよね? バイトも始めたって聞いたし……学校の友達とも買い物行ったりしたいでしょ?」
私との時間を減らせば、アルバイトの時間を増やして家計に助力することができる。
私との時間を減らせば、部活や趣味に打ち込む時間を増やすことができる。
私との時間を減らせば、学友と噂話で盛り上がりながらショッピングを楽しむ時間を増やすことができる。
私との時間を減らせば……。
言葉に表すと、増々自分が波留の足枷になっていることを実感してしまう。
そうだね、と肯定されることを望んでの問いかけだったが、実際に肯定されたら結構……くるだろう。
愛想笑いを浮かべる私に対し、癖っ毛を弄っていた波留は――
「だってアタシら親友じゃん?」
表情も、口調も、声色も、何も変えずに応答した。
まるで私の見舞いに来ることは、日常生活のルーティーンの一部であるかのような反応だ。
ここまで素直な反応をされると、嬉しさより恥ずかしさに苛まれてしまう自分がいる。
「それにユキっちくらいだもん。逃げずにアタシの愚痴、聞いてくれるの」
「私がベッドの上から逃げられないの知ってるよねぇ!?」
「アッハッハッハッ!! いつもサンドバックになってくれてご苦労!」
――それから談笑は続き、気が付けば夕陽が登り切っていた。
波留は、定期健診で訪れた看護師と入れ替わりで帰っていった。
乾いた口内を水で潤し、若干の疲れを見せる身体をベッドに投げ出す。
「? これって」
ふと、プリントの束に一枚の写真が挟まっていることに気が付く。
「確か私、この時は咳が止まらなくて保健室に……」
写真には、桜の下で初々しく佇むクラスの面々と担任が写っていた。
入学当時にクラス全員で撮影した集合写真。
そして目に入る。
同じギャル仲間と肩を組み、満面の笑みを浮かべる波留の姿が。
「…………」
もし、私の身体が言うことを聞いてくれれば――
全て入院当時から変わらない。
唯一、四季の変化を確認できる窓からの眺望は、病院の耐震工事の足場で遮断されている。
部屋には二人。
幼い頃から体の弱い私と少々活発的な幼馴染、蓮見 波留。
着崩した制服と長い茶髪、楽観的な性格――一言で表すと、ギャルだ。
「相変わらず殺風景な部屋……死体安置所みたい」
波留のブラックジョークが飛ぶ。
「それ、入院中の病弱美少女の前で言う?」
「美少女がベッドの上で胡坐かいたりするかな?」
痛いところを突かれた。
波留は派手なキーホルダーがジャラジャラ付いた鞄から、数枚のプリントを取り出す。
それを空の花瓶が置かれた机に放り、いつもの言葉を発する。
「ほら、今日の分のプリント」
今日は小テストが多かったらしい。
「……で? ユキっち、次はいつ学校来れんの?」
波留はテーブルに肘をつき、興味津々な様子でこちらに視線を向ける。
「来週くらいには保健室登校……かな? 安定してればだけどね」
高校一年生になってから約半年が経過したが、教室で放課後まで学業に励めた日は二十日程度。
ほぼ毎日、見舞いに来てくれる波留が居なければ、今頃は不遇な自分に嫌気が刺して登校すら億劫になっていただろう。
「じゃ、アタシは弟達のお守りあるから! また明日な!」
「別に、毎日来なくてもいいのに……」
高校と家の間に病院があるとはいえ、毎日というのは相当な労力と時間を要する。
ましてや、彼女の家は三姉弟の母子家庭。ただでさえ自由な時間が限られているというのに、その時間すら私に配分してくれているのだ。
私自身、申し訳ないという気持ちは持っている。
面白い会話の一つや二つくらい飛ばしてやりたいのは山々だが、一日中代り映えのない病室に居ては不可能に近い。
「今日の点滴、タカダ製薬のだったよ!」と報告したところで、「あっ……そうなんだ、ははっ」で会話に終止符が打たれるだろう。
「波留ん家、育ち盛りの弟二人いるよね? バイトも始めたって聞いたし……学校の友達とも買い物行ったりしたいでしょ?」
私との時間を減らせば、アルバイトの時間を増やして家計に助力することができる。
私との時間を減らせば、部活や趣味に打ち込む時間を増やすことができる。
私との時間を減らせば、学友と噂話で盛り上がりながらショッピングを楽しむ時間を増やすことができる。
私との時間を減らせば……。
言葉に表すと、増々自分が波留の足枷になっていることを実感してしまう。
そうだね、と肯定されることを望んでの問いかけだったが、実際に肯定されたら結構……くるだろう。
愛想笑いを浮かべる私に対し、癖っ毛を弄っていた波留は――
「だってアタシら親友じゃん?」
表情も、口調も、声色も、何も変えずに応答した。
まるで私の見舞いに来ることは、日常生活のルーティーンの一部であるかのような反応だ。
ここまで素直な反応をされると、嬉しさより恥ずかしさに苛まれてしまう自分がいる。
「それにユキっちくらいだもん。逃げずにアタシの愚痴、聞いてくれるの」
「私がベッドの上から逃げられないの知ってるよねぇ!?」
「アッハッハッハッ!! いつもサンドバックになってくれてご苦労!」
――それから談笑は続き、気が付けば夕陽が登り切っていた。
波留は、定期健診で訪れた看護師と入れ替わりで帰っていった。
乾いた口内を水で潤し、若干の疲れを見せる身体をベッドに投げ出す。
「? これって」
ふと、プリントの束に一枚の写真が挟まっていることに気が付く。
「確か私、この時は咳が止まらなくて保健室に……」
写真には、桜の下で初々しく佇むクラスの面々と担任が写っていた。
入学当時にクラス全員で撮影した集合写真。
そして目に入る。
同じギャル仲間と肩を組み、満面の笑みを浮かべる波留の姿が。
「…………」
もし、私の身体が言うことを聞いてくれれば――
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