1 / 24
月光花
しおりを挟む今日も日銭を稼ぐ。
俺の稼ぎは護衛と用心棒がほとんどだ。
例えば、晩餐会列席上での護衛、都市間の輸送の護衛、御貴族様の狩猟会などの用心棒などだ。
要は暗殺、盗賊、対人間の護衛が主となる。
だが、都市間の護衛や狩猟会なども、主力は魔鋼機だ。魔物が出たら魔鋼機でなければ対応が出来ない。
なら何故護衛が必要か?
それは盗賊のボウガンが一発も当たらないとは限らないからだ。魔鋼機の股ぐらをすり抜ける盗賊が居ないとは限らないからだ。
要は保険の保険だ。
当然、護衛の花形は魔鋼機だ。保険の保険は報酬も扱いも安い。
一番面倒なのが晩餐会などの護衛だ。
この世界には銃がある。だが銃は高い。
大体都市にある一軒家が5000万エル、小さい魔導車が1000万エルするのに、小型の拳銃でさえ500万エルはするのだ。銃弾でさえ高級ホテルの一泊と一発が同価値だ。
そんなものは御貴族様しか使えない。
でも晩餐会には御貴族様がくる。ここで暗殺を狙われると、銃弾から守らなければならない。
いくら俺が達人クラスでも、銃弾を手掴みは出来ない。
俺は冒険者ギルドに付くと、依頼の張り出されている壁を覗く。
(・・・ないか・・・)
「あの・・・」
「ん?」
不意に背中から声を掛けられる。
「ジンさんですよね?」
「・・・・・・人違いだ」
「嘘です!その帽子に着流し!ジンさんしか居ませんよね?!」
「俺は指名の依頼は受けない。そっちの良い子ちゃんたちに頼みな」
指名の依頼は大抵が面倒事だ。多少高くても割に合わないことが多い。
昔金に飛び付いて受けたことが何度かあるが、全て偉い目に会っている。
「お願いです、貴方しか居ないんです・・・」
依頼人は涙を流す。
最悪なことに依頼人は女だ。
(くそが、俺も35だろ。いい加減に慣れろ)
「・・・・・・報酬は?」
女はパアッと花開くように笑顔になる。
「これが全財産ですっ!」
女は金貨1枚を差し出してきた。
金貨は大銀貨10枚分、10万エルだ。
そこそこのまとまった金だが、この女はそんなに金持ちそうには見えない。それが10万も払うとなればやっかいごとに決まっている。
「・・・・・・内容は?」
「それが・・・月光花が必要で━━━」
「じゃあな」
俺が立ち去ろうとすると、女は俺の着流しの袖を掴む。
「待って!」
「お嬢ちゃん、月光花を知ってるのか?」
「・・・はい・・・」
「それが魔物が大量に生息する、森の奥と言うこともか?」
「・・・はい・・・」
「なら、話は早い、魔鋼機を持ってるやつに頼め。俺のことは知ってるんだろ?」
「頼みましたっ!・・・・・・でも・・・」
「・・・だろうな」
月光花は魔獣の森の奥地だ。いくら魔鋼機なら魔物に勝てると言っても、たどり着くまでに何体の魔物と遭遇するのか。金貨1枚じゃメンテナンス代にもなりゃしねえ。
「足りないのはわかってます!ジンさんは魔物と戦わなくても魔物から逃げられますよね!」
「お嬢ちゃん、絶対はねえんだ。特に魔物を相手ならな」
女は意を決する。
「足りない分は、なんでもっ!何でもしますからっ!」
女は目に涙を浮かべる。
俺は女を見る。
年は20を超えた辺りか、細すぎず太すぎず、それでいて出るところのボリュームはある。
「意味をわかって言ってるのか?」
「・・・もちろん、です・・・」
女は顔を赤らめる。
「期日は?」
「5日でなんとかなりますか?」
「無理だ、魔鋼機でも10日はかかる」
「10日では間に合わないんですっ!10日━━━」
俺は掌を女に向け、言葉を遮る。
(事情を聞くのは一番最悪だ。いざというときの判断が狂う)
「ギリギリだ」
「っ!、お願いします!」
女は頭を大きく下げる。
豊満な谷間が目に入る。
「5日後にここに来い」
「っ!、ありがとうございます!」
また女は大きく頭を下げた。
(やれやれだ、どうも女の涙には慣れねえ・・・)
俺は森を駆け抜ける。
常人ではあり得ない速度だ。
猪やサイのタイプならまだいい。ふりきれるだろう。
問題は虎だ。
あれに狙われたら戦うしかない。
道中2度夜営をして、月光花の群生地にたどり着く。
魔鋼機でも片道5日のところを、三日目にしてたどり着いた。これも体術のチートの力だ。
背中からリュックを下ろし、採取ボックスに月光花を10枚ほど入れると、またリュックを背負ってすぐに帰路にかかる。
その日は良かった。ゾウタイプの魔物ばかりだった。
だが、出会ってはいけない、森の悪魔に見つかってしまった。
「くそ・・・つけられてやがる」
俺はあきらめて息を整える。すると数十秒で魔物は現れた。
体高は5mほど、体長は10m、俺の身長と同じくらいの口を開き、虎は咆哮する。
ゴアアアアアアアアア!!!!
キラータイガーだ。
魔鋼機でも、しっかり装備をしてないと危ない魔物だ。
見ろあの爪を。一撃でも貰えばこちとらお陀仏だ。
俺が身構えると同時に、虎は全社しながら、右の前足を振り下ろす。俺はそれを左によけ、前足に蹴りを入れる。
虎はなにされたのかわからないとでも言わんばかりに、すぐに体制を整え鋭い牙を向けてくる。
俺は即座にジャンプして、頭上の枝を掴み、ぐるんと1回転してから、虎の眉間に飛び蹴りを入れる。
虎は数センチほど頭を沈めたが、すぐに頭を起こしてきた。その勢いで、俺は後方に投げ出される。
俺が着地し、虎をみると虎はもう目の前に大きな口を開いていた。
それを横に転がって避けると、すぐさま前足で追撃がくる。それをまた転がり、また追撃がくる。
三度ほどすると、大木を利用して追撃を止めることが出来た。すぐさま虎の脇腹に入り込む。
(死角だっ!)
「くらえ━━━━ぐわっ!」
なんと虎は尻尾で俺を叩きつけてきた。俺は虎の前方に吹っ飛ばされる。
「ぐふっ!」
宙に浮いている間に、虎の前足によりうつ伏せに踏み潰される。
俺はうつ伏せのまま、首だけで虎を見上げると、虎は笑っているように見える。
「最悪だ・・・、これだから指名依頼はうけるもんじゃねえ」
虎は大きな口を開けて俺を食おうとするが、俺は俺を押さえつけてる虎の前足の小指に、背中側にパンチをする。
「振動痛撃拳!」
ゴアアアアアアアアア!
虎はあまりの痛みに、俺を解放してしまう。
俺はその隙を逃すはずはない。
すぐさま立ち上がり、虎の脇腹に回り込む。
「食らえっ、通背掌!!!」
俺は両手の掌を虎に付け、浸透系の発勁を全力で打ち込む。
ゴハッ!!!!
虎は大きく口を開け、滝のように吐血した。
尻尾が再度襲ってきて、俺はそれを後方にジャンプして避ける。
数秒虎とにらみ会う。
虎は口から血を垂らしたまま、ゆっくりと森の中へ帰っていく。
俺は気を抜かずにそれを見送る。
俺は止めをささない。手負いの獣ほど危ないものはなく、倒したとしても実入りがないからだ。
虎の気配が消えたのを確認してから、また俺は走り出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
依頼を受けてから5日目、俺は都市に戻ったその足で冒険者ギルドに向かう。
そこには女が待っていた。
「ジンさん!!」
女は不安そうに、嬉しそうに俺を見る。
「これだ」
「っ!!!ありがとうございます!」
俺は月光花の入った採取ボックスを、女に手渡す。
「ジンさん・・・、怪我を・・・」
「ああ、一張羅が台無しだ」
俺は虎に押さえつけられたとき、背中に3本の爪痕を残されていた。コップ一杯程度の血はまだいい。だが、着流しが切れてしまっている。
「・・・お約束通り、何でもします・・・」
女は顔を赤らめる。
(別にこの女を抱きたかった訳じゃない。だが、貰えると言うなら貰っておくべきか。なんでもすると言うしな・・・。いや、まて、処女か?処女は面倒だ)
「女、お前は処女か?」
女は目を見開いたが、ゆっくりと笑顔に戻る。
「安心してください。まだ誰とも寝てないです」
女はにっこりと微笑む。もう覚悟が出来たのだろう。
「いや、それは困る。どこかで処女を捨ててこい。いや、それを待つのも面倒だ。ケツですることにしよう。ちゃんとホースで腸内を洗っておけ、実がつくと萎えるからな。ローションはあるか?ないか、なら自慰をしてたっぷり濡らすんだ。それをケツに塗りたくれ。多少痛いかも━━━━━」
パンッ!!!!
女は俺をビンタし、金貨を投げつけて出ていった。
「この異世界は何もかもくそったれだ・・・・」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる