今時異世界如きは、言葉さえ通じればどうとでもなる

はがき

文字の大きさ
8 / 53
第1章 異世界に立つ

第八話

しおりを挟む
「すいません、やっぱり帰って良いですか、メイリーちゃん」
「あらあら、この子は大丈夫よ。もう三百年も一緒にいるのですから」

 三百年って、一体いくつなんだよメイリーちゃん。それにこの獣も三百歳かよ。

 そう、婆さんの家に着き、敷地を囲う木の柵の門を開けると、俺を睨むかのような目つきの獣が居た。魔物なのだろうか。
 その魔物の見た目は完全にチーターだった。大きな猫のような風貌、長い尻尾にしなやかな身体、豹柄の斑点の毛並みに、チーターのトレードマークである目から口元までのほうれい線のようなラインもある。まんま動物園で見たチーターだ。
 だがサイズが違う。目の前のこいつはベンガルトラ並みの大きさだ。チーターのサイズは大型犬ぐらいだったはずなのだが、こいつは頭から尻までで優に3mはある。長い尻尾の先まで入れたら5m超えそうだ。大型の虎並みの迫力だし、背中にも乗れそうなサイズだ。

「タイガーちゃん、今日から新しくここに住むアキハルさんよ。仲良くしてね」
「タイガーちゃんはねえだろ……」

 何故チーターにタイガーと名付けるのか。チーターは俺の顔をじっと見ると興味がなくなったかのように、家の敷地内に戻って行った。一応滞在許可は貰えたってことだろうか。

 敷地内に入る。敷地は莫大な広さだった。パッと見で400mトラックぐらいあり、それを木の柵で囲んでいる。街の壁を見た後でなくても、この木の柵ではかなり頼りなく思える。

「婆さん、この辺に魔物はいないのか?」

 婆さんは何でもないことのように答える。

「居るわよ」
「この柵で安全なのか?」
「うちにはタイガーちゃんがいるから」
「あー」

 極大の納得感だ。確かにあのチーターとまともに戦える魔物はそうそう居ないだろう。きっと近づく魔物は、チーターが速攻殺しているか、その威圧感で寄せ付けないかのどちらかなのだろう。

「もうすぐお夕飯の時間よ。さあ、とりあえずお家に入りましょう」

 敷地内の一番奥に、大きなログハウス風の建物が経っている。俺はリアカーを押して、しばらくの拠点にさせてもらえる家に向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「おおおお!」

 ログハウスはやはりデカかった。外観や造りはまんまログハウスだが、室内はシックでいながらゴージャスさも取り入れた美しい家だ。床にはじゅうたんが貼られ、壁には随所に絵が飾ってあり、天井には照明が取り付けられている。そう、照明だ。ランタンでもろうそくでもなく照明だ。

「これは?」
「魔道具よ。照明の魔法陣と魔石が入ってるのよ。この世界は魔道具を家具にしている文化なの」
「なるほど」

 その設定もラノベで良くある。照明以外にもキッチン、コンロ、風呂、冷蔵庫など様々な魔道具があるらしい。これなら電気なんて要らねえな。家の大きさは、日本の感覚で言う所の8LDKらしく、そのうちの一室を俺用に、チーターと婆さんも自室を持っているらしい。魔物の癖に。

「ここが食堂よ。お夕飯を作ってくるからここで待っていてくださいね。あらあらあら、タイガーちゃんと仲良くね」

 婆さんは俺を食堂に案内した。そこにはテーブルの近くにさっきのチーターが寝そべっていた。俺と婆さんが入ってくると、チーターはチラリとこちらを見たが、後は興味なさげにまた寝そべる。

「……、いきなりチーターと2人きりにするのはどうかと思うよ、メイリーちゃん……」

 魔法も教えてくれる。この世界の情報もくれるらしい。この家も自分の家だと思って良いと言われた。だからって、間違いなく俺を秒で殺せる魔物と2人きりにさせるのはどうなのだろうか。そこまでの信頼、この場合は婆さんがチーターを信頼していると言うことだが、いわゆる魔物をそこまで信じて良いのですか?

「……、くそっ、上等だよ」

 俺は意地を張り、最もチーターに近い椅子に座った。少し挑発するような顔で寝そべるチーターを見下ろすと、チーターはむくりと起き上がる。
 デカい。椅子に座っていると、チーターのデカい顔が俺を見下ろしてくる。

「……、な、なんだよ」

 怖いならやるなってのは最もな話だが、もうやってしまった。今更イモ引くことは出来ない。すると身体が浮き上がる感じがした。

「っ!なっ!」

 俺の胴体にチーターの尻尾が巻き付き、俺を持ち上げている。どんだけ力があるんだ、これでも俺は175cmあるんだぞ?デブではないが尻尾で持ち上がる重さではない。

「てめっ!おい、待て……、冗談だろ。っうわああああああ!!」

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!

 チーターは俺を尻尾で持ち上げると、振りかぶってから、部屋の隅へと投げつけた。俺は床をゴロゴロと転がる。

「っっぅぅぅぅ!」

 痛い、身体のあちこちが痛い。だが、大怪我はしていないようだ。絨毯のせいだろうか。いや、チーターが気を遣ったのだろう。あの高さから真下に叩きつけられたら、死にはしなくても骨折くらいはしただろう。それに奴は俺を殺そうと思えば殺せるのだ、間違いなく手加減してる。俺がチーターを見ると、チーターはこちらを見もしないでまた寝そべっていた。

「ったまきた。、のやろぅ」

 俺は何故だかわからないが意地になり、また同じ椅子に座ろうとした。椅子の背もたれに手をかけたところで、また浮遊感が襲う。

「うわっ!」

ドン!

 足払いをされた。尻尾で足を払われ、俺は尻から落下する形になった。今度はかなり痛かった。尾骶骨を直撃したのだ。俺が痛みに床を転げ回っていると、フッと鼻で笑うような音がして、音の発生源に目線を向ける。
 チーターはなんだか、馬鹿にしたように笑っている気がする。

「……、上等だよ。あんまインキャ舐めんなよ。インキャはキレたら何するかわからねえぞ」

 俺は立ち上がって尻尾を思いっきり踏みつける。だが、俺のストンピングは余裕で避わされ、チーターはまた嘲笑うかのような顔をする。いや、魔物に感情なんてないだろう。そう俺が見てしまってるだけだ。

「このっ!このっ!」

 尻尾を追いかけ、何度も踏みつける。その度に逃げる尻尾。

ガチャリ

 部屋のドアが開く。チーターはくるっと振り返り、婆さんが入ってきたドアを見た。止まる尻尾。

ムギュ

ギニャアアアアギニャアアアア!!』
「あっ」

 思いっきり踏んでしまった。チーターがゆっくりと起き上がる。明らかに怒っている。

「やめろ……、悪かった……、で、でもお前も投げただろ?おあいこだろ?」

 だがチーターは止まらなかった。また尻尾で足払いをし、俺が床に倒れると、今度は前足を鳩尾に勢いよく降ろしてくる。

「ぐはっ!」

 まだ止まらない。次は金的を踏み潰し、最後に顔を前足で踏んづけてきた。俺は痛みにもがこうとするも、胸と顔を踏んづけられているため、もがくことも出来ない。

「あらあら、遊んでもらっているの?」
「っ!ふざけんな!やめさせろ!」
ンナウ誰が!!』

 婆さんは両手で持つお盆をテーブルに置く。

「さてお夕飯にしましょう。タイガーちゃん。降りてあげて」

 婆さんに言われると、チーターはすぐに俺の上から降りた。俺は身体を確かめる。まだ股間などはかなり痛いが、骨折もなく玉もつぶれてないようだ。どうやら手加減はギリギリを狙えるほどプロらしい。

「……このチーターめ……」

 俺が椅子に座ろうとすると、

「あらあら、なるほどね。アキハルさん、そこは私の席なの。多分タイガーちゃんはそれで怒ったのね」

 どうやら席が決まっているらしい。でもそれならば、

「ちっ、それならそうと先に言えよ、クソチート野郎」
ンナアアウわからせただろうが
「あんなんでわかるか!口で言え!」
ウナウ言えるか!』
「言えてんじゃねえ────、あれ?」

 今俺は誰と会話した?
 え?だって【翻訳】は動物に通じないんじゃ?
 婆さんは、こぼれ落ちそうになるほど目を見開いている。チーターも何かに気づいたように目を見開いた。俺も冷静になる。俺は室内をキョロキョロとするが、他に誰も居ない。居るのは婆さんとチーターだけだ。ってことはさっきの言葉はこのチーターが話したことになる。俺はゆっくりとチーターを見る。

「まさか……」
「……アキハルさん、タイガーちゃんの言葉がわかるのね?」
「…………婆さんもわかるんだろ?」

 婆さんはゆっくり首を横に振る。

「わからないわ。タイガーちゃんは私の言葉をわかってるみたいだけど、私にはタイガーちゃんの言葉はわからない……」
「マジか……」

 つうことはやっと【翻訳】が仕事したってことか?何故突然?条件はなんだ?
 するといきなりチーターに押しかかってこられた。チーターは俺を床に押し倒し、両肩に両前足を乗せて俺を見下ろしてくる。

ンナ、ンナアアアウナウ答えろ、貴様は妾の言葉がわかるのか!!』
「妾?ずいぶん偉そうだな」
ンナアアアアアわかるのだな!!!』
「……、ああ、不本意ながらな……」

 どうやら俺の【翻訳】は、間違いなく機能しているようだ。するとチーターは俺から降りて、伝言を頼むと言ってきた。

「あー、婆さん」
「……何かしら?」
「このクソ猫から伝言だ。親は名誉ある戦いに敗れただけだ、自分は気にしていない。それよりも三百年前のあの日、自分を拾ってくれてありがとう。メイリーには何度も迷惑をかけた。今までも、これからも感謝してるだとよ」

 婆さんは肩を震わせながら静かに涙を零した。そしてチーターに抱きつき、子供のように謝りながらワンワンと泣き出した。チーターは尻尾で婆さんの頭を優しく撫でていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

構造理解で始めるゼロからの文明開拓

TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。 ​適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。 だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――! ​――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

処理中です...