今時異世界如きは、言葉さえ通じればどうとでもなる

はがき

文字の大きさ
14 / 53
第1章 異世界に立つ

第十四話

しおりを挟む
 あれからババアと虎子は、ババアの部屋から一歩も出てこない。既に1週間が経過している。
 俺は頭を掻きむしる。俺が悪いのか、謝ったほうが良いのか。だが別に俺が何かをしたわけでも無いのに、謝る事で神経を逆撫でする事にならないだろうか。
 いや、それとももうここを出ていけば良いのか。それはそうだ。虎子を怒らせ、ババアも泣かせ、それでもここに居座り続けるのは、あまりにも厚顔無恥すぎるだろう。
 
「……お礼だけでも……」

 顔を出せばまた怒られるかもしれない。だが、ここまで世話になっておいて、黙って出て行くのは自分で自分を許せない。異世界に来て、右も左もわからなく、その日の食事の当てさえなかった俺を衣食住の世話までしてくれ、生きるために必要な訓練までしてくれた。

「…………、マヌケだな、俺……」

 恩を仇で返したのだろう。あまり泣くタチではないが、流石に涙が込み上げてくる。悲しいやら、情けないやら、寂しいやら、悔しいやら。
 
 自分の部屋で荷物をまとめる。服は貰っていっても良いだろうか。買って貰って貯まった着替えと、異世界に来た時に来ていたブレザーの制服を畳み、

「……あっ、リュックは食堂か……」

トントン

 するとドアをノックされた。俺はビクリとして声を出せずにいると、2秒ほどで勝手にドアが開く。そこには虎子が居た。

「……虎子、あの、本当にご────」
『来い、メイリーが会いたいそうだ』
「……」

 逆にタイミングが良かった。俺は黙って虎子に着いていき、ババアの部屋のドアを虎子が開けたので、俺はそのまま入室した。

「……婆さん……」
「アキハルさん。座ってもらえます?」
「はい……」

 婆さんの部屋に初めて入った。婆さんの部屋には婆さんが寝ているベッド、小さな丸いテーブル、ベッドの側にある椅子、それだけしかなかった。
 俺は婆さんを直視出来なくて、部屋を見渡していたのだ。茶味がかった金髪だった婆さんの髪は、絵の具で塗ったように真っ白になり、一気に歳を取ったかのようにシワが増えていた。婆さんはベッドから上体だけを起こし、壁を背もたれにして寄りかかっている。

「あの、────」
「ごめんなさい、アキハルさん。本当にごめんなさい」
「っ!いや!俺が悪くて。俺がここに来たから。俺がここに来なければ……」
「違うのよ、アキハルさん」

 涙で霞んで何も見えない。俯いていると、俺の膝にポタポタと雫が垂れる。

ふわっ

 頭を優しく抱かれた。そして、シワシワの手がゆっくりと頭を撫でてくれる。

「ごめんね……、私の最後の未練も解消してくれた人に……、ごめんなさい」
「っ、婆さん、俺!」
「大丈夫。アキハルさんは悪くないのよ。大丈夫だから」
「うぅ……、ううぅぅぅぅ!!」

 俺たちは2人で抱き合って、2人で泣きはらした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 婆さんは昔話をしてくれた。
 婆さん、メイリー=フォレスターは、100歳の時にとある遺跡で奇妙な宝箱を見つけた。その箱は鉄でも木でもなく、素材が何かさえわからない箱だった。開ける事も叶わず、中を見る事も出来ずガラクタのように見えたが、メイリーはなぜかその箱が気になり、仲間との分配の時にその箱を貰った。
 家に持ち帰ると、どうやっても開かなかったその箱がいつのまにか開いていた。中には真新しい一冊の本が入っていた。本を開くと全く未知の文字で書かれていたが、長年の勘からこれが魔法に関わる本に思えたのだ。その当時でもメイリーはそこそこの魔法の開発に成功しており、未知の本を手に入れた事により、研究熱に火がついた。
 そこから50年後、資金不足に陥りダメ元で本が入っていた箱をオークションに出すと、驚くほど高い値で売れ、それは古代の魔法遺物だと判明した。メイリーはそこから狂ってしまった。古代遺物に入っていたのならば、この本は古代の魔導書で間違いないだろう。なんとしてでも古代の本を解明したい、これが解明出来れば、自分は歴史に名を残す魔法使いになれる。いや、それどころではない、失われた魔法が復活するのなら、なんでも思いのままではなかろうか。
 メイリーは更に50年を費やすも、手がかりさえ見つけることが出来ない。
 既にメイリーは200歳、このままでは時間寿命が足りない。ならばエルファリアエルフの国に伝わるエルフの秘宝、アンブロシアで寿命を伸ばすしかない。だがそれに手をつけることはエルファリアの最大の禁忌だ。アンブロシアは古からハイエルフだけに許される特権だったからだ。それを行えば一族共々斬首、仮に許されても一族ごとエルファリアを追放だ。それでもメイリーは諦めることが出来なかった。
 
 メイリーは夫と娘と絶縁し、アンブロシアを盗んだ。それがバレてメイリーに指名手配がかかるも、先に家族と絶縁していたことにより、メイリーの両親、親族など全員、斬首は免れてエルファリアを追放となった。その後すぐに両親は他界した。親族はわからない。メイリーは一族には相当恨まれ、エルファリアからの追手もかかり、身を隠しながらセントフォーリア教国まで逃げて来た。
 
 だが、現実は無常だ。ここまでしても古代の書の解読は出来なかった。エルフの寿命を考えれば、きっと夫も娘も既に寿命が尽きている。全てを裏切っても、何も手に入れることが出来なかったのだ。

「でもね、アキハルさん。私は報われなかったけど、無意味ではなかったの。これは運命よ。私の人生は、あの本をアキハルさんに渡す為にあったの」
「そんな……」
「ごめんなさい、間違ってても良い。でもそう思わせてくれるかしら?私の人生を無意味にしないで。老先短い老人のわがままだけど、許してね」
「……はい」

 そう言われれば、はいとしか言いようがない。

「あの本も含めて、全部アキハルさんのものよ。もし、私のことを少しでも憐れだと思うなら、どうか私の人生の結晶を、アキハルさんに引き継いで貰いたいの。そうすれば私は報われるわ」
「……わかりました」
「……、ありがとう。少し寝るわね」

 俺が部屋から出ると、虎子も着いてきた。なんとなく家から出て、400mトラックほどの敷地を見つめると、

ヒュン

 虎子が尻尾で攻撃してきた。そして、俺も虎子も一言も発することなく、いつもの訓練が始まった。
 
 一通りの訓練を終え、俺が地面に座ると虎子も並んで地面に座った。

『エルフは歳を取らない。聞いたことあるか?』
「……取ってるだろ」

 事実婆さんは、俺と出会った時から老人の顔だ。歳を取らないってことはない。

『普通エルフの寿命は200~250年、そして20歳ぐらいから姿形が変わらぬ。それは死ぬ間際まで続く』
「そう言う意味か」
『だが、老いは必ず来る。それはエルフにもだ』
「……」
『エルフは寿命が尽きる10年前ほどから、急激に外見が老いていく。老いが始まったら10年以内に死ぬと言うことだ』
「そうか」

 ってことは婆さんももうすぐってことか。時間が無いとしょっちゅう口にしていたが、そう言うことだったか。

『メイリーは老化が始まって12年経つ』
「……、は?」

 俺は隣に座る虎子の顔を見る。虎子はまっすぐと夕日を見つめている。

「それって……」
『メイリーはこの世に未練がなくなった。今までは執念で生きていたが、メイリーの生気は急激に衰えている。……覚悟はしておけ』
「…………」

 虎子はスクッと立ち上がる。

「なあ」

 俺は歩き出す前の虎子に声をかけた。

「俺のせいだよな」

 すると虎子は俺の目の前まで歩いてきて、俺の前に四つ足で立ち、座っている俺を真っ直ぐ見下ろしてくる。

『驕るな。貴様に何がわかる。たかが半年程度顔を突き合わせただけでメイリーの何がわかると言うのだ。貴様のせいなどであってたまるか。メイリーの人生はそんなに軽いものではない』
「……そうか……」

 虎子は歩き出したが、ピタリと止まって俺に振り返り、

『それは妾と貴様の間にも言えることだ』
「そうだな……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

構造理解で始めるゼロからの文明開拓

TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。 ​適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。 だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――! ​――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

処理中です...