今時異世界如きは、言葉さえ通じればどうとでもなる

はがき

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第2章 コロラドリア王国編

第四十七話

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~~ダリア視点~~

 勝てるわけがない、レッドドラゴンだ。それは厄災と同義で、通常はこんな少人数で戦うものではない。
 それなのにこの男は、無謀にも倒すと言う。
 
 馬鹿だ、身の程知らずにも程がある。
 そりゃ、ここまで本当によくしてもらった。正に英雄だとも思った。だが英雄なら何にでも勝てるってことじゃない。ランドドラゴンはドラゴンと言っても名ばかりの物で、レッドドラゴンは正真正銘の大陸の覇者だ。そりゃ討伐された記録はあるけど、発見報告だって何十年に一度、討伐するなら1000人単位で当たる魔物だ。それをあたしらだけで?出来るわけがない。
 
 


 あたしは火袋を持ち帰らなければならない。妹の石化病を治すにはどうしても必要だ。石化病の進行はゆっくりだけど、それでも完全に治すにはあと一年以内には持ち帰る必要がある。それ以上かかると後遺症が残る。
 ランドドラゴンは南の土地にしか生息していなく、ランドドラゴンの火袋をアイシクルランドで買おうと思えば、とんでもない金額になってしまう。そんな金はあたしには作れない。だから自分で取りに来た。

 そして火袋はあっけなく手に入った。感謝した。すごい男だ。火袋を手に取るまでは、ギリギリで大金を要求されるかもとも思っていたが、本気で何も要求してこなかった。まるで小鬼の魔石とおなじような扱いをする。こんな男は初めて見た。

 しかし感謝の気持ちでいっぱいだったあたしは、いきなり裏切られた気持ちになった。何故ならこの男は誇りある決闘を侮辱した。
 アリサまでは良い。まだ始まっていなかったし、1対1の環境を作ってくれただけだ。でもこの男はあたしが負けそうになると手を出してきた。こんなのはあり得ない、それをしてしまったらギルディンはどうしたら良いというのだ。ギルディンから見たら負けるまでやらされているだけの決闘になってしまう。誇り高き巨人族の決闘を邪魔するなんて……。

 それでもここまでの恩がある。妹が助かるのはこの男のおかげだと言っても良い。良いだろう、忘れてやる。その代わりここまでの恩とチャラだ、もう恩人とは思わない。

 少しぼーっとしてしまっていると、変な流れになってしまった。仇であるギルディンは、自分が呼んだレッドドラゴンに食われ、レッドドラゴンだけがこの場に残った。
 なんでこんなことにと思っていると、この男はレッドドラゴンをやると言う。
 
 無知にも程がある、英雄気取りが。
 もうあたしとお前との間にあった恩はチャラになった。やりたいならやれば良い。あたし一人なら逃げるくらいは出来る。それこそこいつらを置いてでも逃げるつもりだ。だから言ってやった。

「あんたが死んだら逃げる。それで良いね?」
「ああ」

 よし、言質は取った。後は逃げる準備をするだけだ。いきなり逃げ出さないのが神獣様のご友人としての最後の義理返しだと思っておくれよ。

 だが……、なんだアレは……。
 なんであんなに速く動ける。
 今まで手を抜いていたのか?
 何故あれを避けることが出来る?
 奴は未来が見えているのか?

「な、何故……」
「ダリア!ボサッとしないで!援護するのよ!」

 あたしはゆっくりアリサを見て、

「必要か?アレに?」

 あたしには神獣様のような強さに見える。だかアリサは必死の形相で、

「ライトは全力なの!一瞬のミスでどうなるかわからない!少しでも隙を作るのよ!」
「……ああ、わかったよ……」

 あたしは矢を放った。アリサに気圧される形で次々と矢を射る。あの男は更に速度を上げて、レッドドラゴンとまともに戦っている。

「そんな馬鹿な……」

 本気で目の前で英雄を見ているようだ。もうあの男の姿は目で追うのもギリギリで、あたしはドラゴンの収束された炎を避けるので精一杯だ。

「アリサ、ダリア!俺は動けなくなる!あとは頼んだぞ!」
「ちょっ!どういうことよ!」

 無理をするな。これ以上何をすると言うのだ。お前は充分英雄たる力を示した。それでもなおドラゴンはドラゴンなのだ、勝てるわけがない。

「引け!生きていれば次がある!」

 すると奴は《詠唱》を唱えた。その瞬間だ、黒い影が揺れたかと思うと、レッドドラゴンの尻尾が宙を舞った。そして驚く暇もなく、レッドドラゴンの二本の足が切断され、レッドドラゴンは腹を地につけた。そして、あたしの目でやっと確認出来たのは、今にも死にそうなライトスプリングと、虚な目で空を見上げるレッドドラゴンの生首だ。

「アリサ……、奴は今何をした?」

 アリサも目を見開いている。どうやらアリサも知らないようだ。

「わからないわ……、でも助けなきゃ!!」

 アリサが涙目で走り出したので、あたしも釣られるように追いかけて走った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


~~ダリア視点~~

 目の前にレッドドラゴンの死体がある。あり得ない、あり得ない光景が目の前にある。

「緑川!!……、た、体温が……、……、なんで水?……、考えるのよ……」

 死んだように倒れたライトにアリサは駆け寄った。心配するな、アリサ。そいつは生きている。今はな。
 そしてアリサは、ボソボソと何かを呟き、ライトの身体に触ったり周囲を見たりしている。

「アリサ、そいつはもう……」

 レッドドラゴンと一人で差し違えたんだ、充分英雄だった。するとアリサは、鬼気迫る顔であたしを睨んだ。

「火よ!!火を消して!」
「はぁ?」
「わかったのよ!急いで!とにかく火を消してよ!!」
「……」

 あまりの形相にあたしはアリサに従った。ライトの周囲にゴロゴロと転がる水樽を拾い、そこらでまだ燃えあがっている炎に水をかけていく。

 粗方の火を消して、アリサの元へ戻ると、アリサは綿の敷物を取り出してそこにライトを寝かせ、ライトの衣類を乱暴に剥ぎ取っていく。そして自分も下着まで全て脱ぎ捨て、ライトに身体を重ねた。

「死んじゃダメよ緑川!絶対に死なせない!」

 そして綿の敷物を半分に折り、自分とライトを敷物で包むと、ゆさゆさと動き始めた。
 初めは死ぬ前の思い出作りかと思った。だけどあたしはアレを知っている。アイシクルランドでは、山で遭難するとああやって身体を暖め合って命を繋ぐと聞いたことがある。だけどここは南の地だ、寒くもないのに何故そんなことをするのか分からなかった。

「お願い緑川!私を置いていかないで!!」

 アリサの顔は涙でぐちゃぐちゃだ。

「体温が低下している?この南の地で?」

 だがアリサの行動はそうとしか考えられない。あたしも手伝った方が良いのだろうか、いや、義理は返した。そこまでする必要はない。それに周囲を警戒する者も必要だろう。あたしは木に寄りかかって座り、アリサの行動を遠目で眺めた。
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