KOKORO再誕

歴 悠輔

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プロローグ

第十九話 希望への跳躍

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 灰色の岩山が夕日でこんがりと色付いていた。サパトマ山麓は穏やかな夕刻を迎えている。

 馬車の荷台に腰かけたユミヨは、所在なげに地面に靴を這わせていた。

「散歩完了。草も食べさせてきたよ」
 馬車馬に乗ったモズルフが現れる。その隣の馬上にはドワーフのロコモンの姿があった。

「ロコモンさん! どうしてここに?」

「増援に決まってまさぁ。ユミヨさんをしっかり守らねぇとな」
 立ち上がったユミヨがロコモンと握手を交わす。

「水も汲んできたし、湯を沸かそう」
 馬から降りたモズルフが、革袋の水筒を持ち上げた。


 夜が訪れ、ユミヨとモズルフは焚火を囲んでいた。その傍らでは、ロコモンが見張り役を務めている。

「今までご苦労だった。君は明日の朝帰還してもらう。ドワーフにはそのために来てもらったのさ」
 モズルフが控えめな口調で語ると、ユミヨは静々と肩を落とした。

「そうですよね。記事を作らなきゃだし……」

「タイムリーにね。だが、心残りがありそうだね?」
 頷くユミヨだが、それ以上の言葉は出てこなかった。

(最終目的まであとわずかなのにもどかしい。それに、これ以降の展開は知らないからなぁ)
 ユミヨが立ち上がり、ゾナーブル城砦の方角に遠い視線を向ける。

(真意を伝えたいと言っていた魔王……。だけど、この世界から帰還するだけなら、ゲームクリアが条件かもしれない)
 逡巡するユミヨをよそに、モズルフは自身の手帳にペンを這わせている。

「明日は日の出と共に出立だ。今日は早く休みなさい」

「じゃあ、お言葉に甘えて。お休みなさい」
 途端に瞼に重みを感じたユミヨは、そのまま寝袋に向かった。


 夜が深まり、山麓は闇に包まれていた。小岩の上に置いたオイルランプの横で、見張り役のモズルフもウトウトしている。

 テント内で眠るユミヨの瞼を、淡い光が撫でるように照らす。薄っすらと目を開くと、目前の空中にホタルが浮かんでいた。
 驚いたユミヨが覚醒すると、ホタルはテント外へスルリと飛び去っていく。釣られたユミヨが半袖ジャケットを羽織り、テント外へ踊り出る。ホタルは目前で彼女を待ち構えていた。

 ホタルが一際強い輝きを放ち、ユミヨは思わず両目をつむる。
「起こしちゃってごめんなさいね。ちょっと急用があってさ」

 ユミヨが目を開くと同時に、反射的に後ずさる。声の主を知っていたからだ。
「ビリーディオ。悪いけど、レカーディオはここには居ないわよ」

 声の主はあのピエロだった。空中で腕と足を組み、リラックスしている。先ほどのホタルは照明代わりに漂っていた。

「あなたに用があって来たのよ。異世界の住人のユミヨさんにね」

「何故そのことを……」
 不意をつかれたユミヨが狼狽する。

「なら教えて欲しいの。元の世界には、どうすれば戻れるの?」
 仮面に描かれたピエロの顔がおどけた変顔になる。

「その答えは自分で見つけるべきだ……」
 レカーディオが闘牛士の様にマントを広げると、その内部に亜空間が広がる。ユミヨたちを森の深部へ誘った時と同じギミックだろう。

「レカーディオは魔王の臓腑を抜けて、ゾナーブル城砦へ侵入した。あなたもその後を追うのよ」
 マントを見つめるユミヨが生唾を飲む。

 亜空間の先には、城砦内部を一人彷徨うレカーディオの姿があった。全身の節々に汚れが目立ち、見るからに憔悴している。

「どうしたの。あなたの思い通りの展開でしょう?」

「到底信用ならないわ。私たちにドブロニャクをけしかけたでしょう!」
 ビリーディオがやれやれと頭を振る。

「森の時もそうだったけど、私は解決不可能な課題は提示しない。あとはあなた次第よ」
 両膝に手を置き、屈んだユミヨが口を引き結ぶ。

(あの映像が本物だとしたら、レカーディオは何故一人なの?)
 意を決したユミヨがビリーディオを見つめる。

「行くわ。用意するから、少しだけ待って」

「それは構わない。だけど、一言忠告しておくわ……」
 ユミヨに肉薄したビリーディオが、人差指をユミヨのおでこにくっつける。

「あなたがここで死ねば、魂は潰え元の世界には戻れない。その覚悟をしておくことね」
 ユミヨのこめかみを冷や汗が流れ落ちた。

 身なりを整えたユミヨは、再度ビリーディオと対峙していた。彼は闘牛士の様に両手でマントを構えている。
(テント内には私を探さないよう手紙も残した。準備は万端)

 目前の亜空間内には、レカーディオの後ろ姿が見える。ユミヨは助走をつけると、走り幅跳びの要領でマントの内部に飛び込んだ。その姿が忽然と消えると、ビリーディオがマントから手を離す。

「私の部下をどこにやったのかね?」
 ホタル火がモズルフの横顔を照らし出す。その右手には抜き身のサーベルを握っている。

「勇者の元へ送り届けたのよ。彼女の意思を尊重してね」
 モズルフが顎に手を当てる。

「思えば彼女は不可思議な存在だった。この世界の全てを見通している様な……」
 そう言いつつ、サーベルの切っ先を持ち上げる。

「あの子は今から歴史の転換期に立ち会う事になる。私も特等席でそれを傍観させてもらうわ」
 モズルフの鋭い打ち込みが届く寸前に、サーベルの切っ先がグニャリと曲がった。

「過激な特ダネを提供してあげるわ。さよなら、新聞屋さん」
 道化がマントを翻すと、その渦の中に姿を消した。
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