KOKORO再誕

歴 悠輔

文字の大きさ
21 / 24
プロローグ

第二十話 謁見、そして邂逅

しおりを挟む
 夜の闇に曙光が溶け込み、空の一角が白みつつあった。その微かな光が城砦の天窓から差し込み、薄暗い城内を照らしている。

 城内を貫くメイン通路、その中央でレカーディオとユミヨが向き合っていた。

「あのピエロ、余計な真似を」

「レカーディオさん。皆はどこですか?」
 憤るレカーディオにユミヨが訊ねると、途端に肩を落とす。

「迷宮内で、魔物との混戦中にはぐれたきりだ。安否も分からない」

「そんな。じゃあ魔物たちに襲われたら……」
 怖気を覚えたユミヨが話を中断する。周囲を囲うただならぬ気配に目を配る。

 赤絨毯の一本道、その左右に設置されたオイルランプに一斉に火が灯る。道の左右には、直立不動の魔人兵が整然と立ち並んでいた。

 巨躯に鎧をまとった彼らは、各々両手で握った長剣を地面に突き立てている。一斉に襲い掛かられれば、一たまりもないだろう。

「どうやら俺に手をかける気はないらしい。今のところはな……」

「話し合いなら望むところ。向かいましょう」
 二人は想いを一つにし、足元の絨毯の先を見据える。

『いざ、エッゲンハイム王の元へ』


 赤絨毯の先には、巨大な門扉が待ち構えていた。そこを通るはずの魔人兵たちは、変わらず静観を保っている。

「おそらくここが……」
 ユミヨが言い終えるや否や、観音開きの門がゆっくりと左右に開く。誰も手を触れてはいなかった。
 怖気づくユミヨを尻目に、レカーディオがズカズカと入室する。

「ま、待って下さい」
 焦ったユミヨがその後を追う。

 正面の玉座の左右には一際異質な巨人兵が立ち並んでいる。

「見ろ。玉座に誰かがいる」
 レカーディオがユミヨに注意を促す。ユミヨが目を凝らすと、そこには老婆の亡骸が座っていた。血肉はなく、骸骨が衣服を纏った状態だ。

「その玉座にふさわしい人物は儂ではない……。レカーディオ、お前なのだ」
 優し気な口調がふわりと耳朶を撫でる。ユミヨたちが揃って振り返ると、そこには男性の老人が佇んでいた。

 厳めしい顔に刻まれた皺は、年輪のような渋みがある。張りのある銀髪は束感があり、どこかレカーディオを思わせる。

(間違いない。この男こそエッゲンハイム王。つまりレカーディオの……)

「お久しぶりです、お父上。城内が随分様変わりして驚きましたよ」

「レカーディオ。不遜な皮肉を叩くようになったものだな」
 老王の表情がニヒルにゆがむと、吹き抜けになった天井から鎖が三本降りてくる。それぞれに、勇者の仲間たちが吊るされていた。

「酷いっ! 話し合いをするつもりじゃないの?」

「彼らはこの謁見の生き証人として立ち会ってもらう。命の保証はできんがね」
 老王が冷然とユミヨを見下ろす。

 激昂したレカーディオが剣を抜くと、左右の魔人兵が同時に動く。長剣を交差させ、レカーディオの動きを抑制する。

「陛下! 目を覚まして下され」
 拘束されたヨタナンが叫ぶと、老王がその方向を仰ぎ見る。

「帝国は秘密裏に初代魔王と結託していた。他国の反発を抑えるため、魔物に侵略させたハルヴァードを資源ごと乗っ取るつもりだったのだ」

 父親の言に、レカーディオが小首を傾げる。

「では、魔王は二人いるのか?」

「違うな。魔王に殺された体が、その役目を引き継いだのだ」
 老王の背中から二本の触手が伸び、その片方がレカーディオの胸元を貫いた。突然の衝撃に全員が息を呑む。

「何て酷いことを……」
 鎖で縛られたミレニが悲痛な声を絞り出す。

「父上。何故わざわざこんな真似を……」
 口の端から吐血しながらも、レカーディオが問いかける。

「悪いが、私は別人格だ。ハルヴァード王の魂は天に召された」
 老王の皮膚の色は赤紫に変色し、人ならざる者に変貌を遂げていた。

「この肉体は長持ちしない。魔王の魂を引き継ぐ者が必要なのだ」
 彼を貫いた触手が巨大な翼となって広がる。

「自らの手で殺めた者のみ、魔王として転生させることができる。帝国には誤算だったようだがな」
 二人の体が折り重なるように倒れ込む。

「レカーディオ、目を覚まして!」
 咄嗟に、ユミヨがレカーディオに駆け寄る。

「ユミヨちゃん、私の鎖を断ち切って!」
 ユミヨが鎖で縛られたミレニを仰ぎ見る。

「無理よ。その高さじゃあ、手が出せないもの」

「まったく歯がゆいわい。せっかくの魔法が形無しじゃ」
 縛られたヨタナンが力なく頭を振る。ユミヨがヴァグロンに視線を移すと、彼はグッタリした様子でうなだれている。どうやら気を失っているようだ。

 その時、レカーディオの体がゆらりと立ち上がった。
「この肉体が欲しかったのだ。ハルヴァードの新王こそ、復讐の象徴にふさわしい」

 ユミヨが彼の胸を見ると、傷跡はふさがっていなかった。禍々しい光を帯びた瞳がユミヨを見据える。

「哀れな生き証人どもよ。全世界に発信せよ」
 両手を広げると、その背中から二つの巨大な翼が広がる。

「デルモンソの血は世界に一滴も残さない。復讐と世界の安寧のため、魔王軍が蹂躙すると!」
 高らかに宣言する魔王の体が緑の光に包まれる。魔王が振り返ると、その背後からミレニが抱き留めていた。

 ミレニの癒しの魔法がレカーディオの胸の傷跡を塞いでいく。

「レカーディオ、魔王の魂に打ち勝って! あなたは人の王として、この国を再興するのよ」
 ユミヨが懸命に声をかけると、魔王と化したレカーディオの瞼がゆっくりと閉じていく。

「まさか……そんな手段が」
 巨大な翼が収縮し、レカーディオの体が眠るように崩れ落ちる。

「ミレニさん。どうやって鎖をほどいたの?」
 ミレニが指さした先、鎖の先にはビリーディオが逆さまでぶら下がっていた。

 魔力を使い切ったミレニが片膝をつく。

「だ、大丈夫?」

「魔力を使い切っただけよ、問題ないわ」
 その時、傍らで横たわる老王が目を覚ます。その瞳からは怪しい光が消えていた。

「ユミヨちゃん、離れて!」
 ミレニが注意を促すが、ユミヨは冷静に老王の正体を見定めていた。

(さっきまでと気配がまるで違う。ひょっとして別人?)
 立ち上がった老王がユミヨに向き直る。そして、かすれた声で話し始めた。

「異世界からの使者よ。私の最期のメッセージを聞いてほしい」
 瞳を見開いたユミヨが、真剣な面持ちでうなずく。

「復讐への怨念、魂の悲鳴がすべての呼び水となる。相応の殺意なくば、人への受肉は叶わないのだから……」
 ユミヨは確信する。この人物こそ、ゲーム画面越しに語り掛けてきた、老王エッゲンハイム二世に違いなかった。

「心せよ。人心に絶望訪れし時、魔王は再誕するだろう」
 言い終えるや、その体が前のめりに崩れ落ちる。と同時に、地面に横たわる老王の体が灰の様に崩れ去っていった。

「異世界の使者? 思えばあなたは、預言者めいたところがあったわね」
 ミレニが意味深な流し目をユミヨに送る。

「や、止めて下さい。私は単なる一記者ですよ」
 焦るユミヨを見下ろすピエロがケラケラと笑う。ヨタナンとヴァグロンも地面にへたり込んでいた。

「茶番はそこまでにしておきなさい。主役が目を覚ましたわよ」
 ビリーディオが地面を指さすと、倒れていたレカーディオが半身を起こしていた。

「レカーディオ。体は大丈夫?」
 ミレニに頷いたレカーディオが、胸の傷に手を当てる。

「ミレニが助けてくれたのか。貸しが増えるばかりだな」
 ユミヨが手を貸し、レカーディオが立ち上がる。

「そしてユミヨ、あんたは心の恩人だ。最後の一線、あの言葉のお陰で踏みとどまれたぜ」
 レカーディオが握手を求め、ユミヨが両手でそれに応える。天窓から朝日が注ぎ、城内をたおやかな光で満たしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...