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女神と王子
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黄金の神殿では、まばゆい金の髪の美女がゆったりと椅子に寄りかかっている。
運命の女神ファタ。
アストロン王国にある黄金の神殿を気に入る女神だ。彼女の深い青の瞳には、人の運命が見えるという。
アレクシスは片膝をついて頭を下げた。
「ただいま戻りました」
女神はその瞳を細めた。
「ふむ。頭をあげよ」
ゆっくりと身体を起こしたアレクシスは、ファタから微妙に視線を反らす。真っ直ぐにファタの目に自分の運命を見透かされるのが、今は辛い。
「クククッ、なんて顔をしている。色男が見る影もないな。
ふむ。リアはお前を選ばなかったか」
容赦なく抉る女神の言葉に、握りしめた拳が震える。
仕方なかった。
彼女の運命の相手は自分ではなくなったから。どんなに彼女を求めても、彼女は自分を選ばない。
彼女が女神でなかったら、ただの人間の女だったなら……その心を得る為にいくらでも愛を囁いて、なんなら土下座して、すがり付いてでも、自分を選んでくれと言うだろうに。
「ふむ、諦めるか。リアが他の男を選び子をなしても、お前は指を咥えて見ているに甘んじるのか」
「……いえ、そんなことは…………」
出来るはずがない。
自分にとってリアは初めて愛した女性だ。リアに出会った瞬間、ずっとぽっかり空いていた心の穴が塞がったような気がしたのに。
リアが他の男と愛しあい子供を作るなんて、考えただけで苦しい。
「私は……」
おそらく嫌われてはいないはずだ。それどころか、気のせいでなければ、多少は好意を持たれている……かもしれない。
あの夜、アレクシスが失態をしなければ、リアと自分の運命は繋がっていただろう。
大地の女神リアの伴侶として隣にいることを許され、抱きしめて、キスをして、柔らかな身体をまさぐって、声が枯れるほど愛して喘がせて、彼女に似た可愛い子供を生んでもらう。そんな夢のようなことが現実になっていたかもしれない。
夢のような運命を台無しにしたのは、他ならぬ自分自身だ。
いつの間にか噛みしめていた奥歯が、ゴリッと嫌な音を立てた。
「……諦めるつもりはありません」
掠れた絞りだすような声。
これが自分の声かと思うと可笑しい。
生まれてこのかた、女に苦労したことはない。女の方からすり寄って来たから。思えば、自分から求めたことは一度もなかった。
初めて求めた女性が女神とは、理想の高さに自分でも呆れる。
けれど、もうアレクシスの心にはリアしかいない。
簡単に諦められる訳がない。
アレクシスは小さく息を吐いてから、少しだけ口角を上げた。
「すがり付いてでも、リア様に私を選んでもらいます」
運命の女神はわずかに目を細め、そうかと呟いた。
※※※※※※※※※※※※※※※
そんなこんなで今、リアの前には、顔のいい男が長身の身体を小さく折り畳んで、土下座をしていた。
「え~~と、顔をあげて? ね?」
何がどうなってアレクシスが土下座をしているのか、リアには分からない。
森の神殿を出た後、各国を回って、いろいろな人と出会って、またアストロン国の丘の上の大木に戻って来た。そこに待ち構えるようにいたのがアレクシス。リアの姿を見るなり、土下座、という流れだ。
「リア様。発言をお許し下さい」
「ええと……あなた、そんな感じでしたっけ?」
顔が綺麗という印象が一番だったけれど、思えば出会い頭にキスをして来るし、女性慣れしているかと思えばすぐに顔を赤くするし、しまいには突然泣き出すし……。
「ふふっ。そういえばあなたの行動はいつも不思議だったわ」
アレクシスの綺麗な顔が少し赤くなった。
こういうところが可愛いと思ってしまうから、困る。おかげで、大人の色気漂う男性も、快活な青年も、硬派で誠実な男性も、気弱だけれど優しい青年にも、リアの気持ちは動かなかった。
(ウニ様の言う通りだわ。私の気持ちはもう決まっているのね。……だけど)
一度切れた赤い糸は、アレクシスに反応しない。
両膝をついたままリアの返事を待つアレクシスは、まるで忠犬のようで、胸がキュンとする。
「……発言を許します」
「ありがとうございます。
リア様が俺を伴侶に選べないことは、分かります。全て俺のせいですから。
だからーーー」
立ち上がってニコリと笑う顔は、とても綺麗だ。
「あなたを全力で口説くことにします」
アレクシスがキラキラと輝いて見えた。
運命の女神ファタ。
アストロン王国にある黄金の神殿を気に入る女神だ。彼女の深い青の瞳には、人の運命が見えるという。
アレクシスは片膝をついて頭を下げた。
「ただいま戻りました」
女神はその瞳を細めた。
「ふむ。頭をあげよ」
ゆっくりと身体を起こしたアレクシスは、ファタから微妙に視線を反らす。真っ直ぐにファタの目に自分の運命を見透かされるのが、今は辛い。
「クククッ、なんて顔をしている。色男が見る影もないな。
ふむ。リアはお前を選ばなかったか」
容赦なく抉る女神の言葉に、握りしめた拳が震える。
仕方なかった。
彼女の運命の相手は自分ではなくなったから。どんなに彼女を求めても、彼女は自分を選ばない。
彼女が女神でなかったら、ただの人間の女だったなら……その心を得る為にいくらでも愛を囁いて、なんなら土下座して、すがり付いてでも、自分を選んでくれと言うだろうに。
「ふむ、諦めるか。リアが他の男を選び子をなしても、お前は指を咥えて見ているに甘んじるのか」
「……いえ、そんなことは…………」
出来るはずがない。
自分にとってリアは初めて愛した女性だ。リアに出会った瞬間、ずっとぽっかり空いていた心の穴が塞がったような気がしたのに。
リアが他の男と愛しあい子供を作るなんて、考えただけで苦しい。
「私は……」
おそらく嫌われてはいないはずだ。それどころか、気のせいでなければ、多少は好意を持たれている……かもしれない。
あの夜、アレクシスが失態をしなければ、リアと自分の運命は繋がっていただろう。
大地の女神リアの伴侶として隣にいることを許され、抱きしめて、キスをして、柔らかな身体をまさぐって、声が枯れるほど愛して喘がせて、彼女に似た可愛い子供を生んでもらう。そんな夢のようなことが現実になっていたかもしれない。
夢のような運命を台無しにしたのは、他ならぬ自分自身だ。
いつの間にか噛みしめていた奥歯が、ゴリッと嫌な音を立てた。
「……諦めるつもりはありません」
掠れた絞りだすような声。
これが自分の声かと思うと可笑しい。
生まれてこのかた、女に苦労したことはない。女の方からすり寄って来たから。思えば、自分から求めたことは一度もなかった。
初めて求めた女性が女神とは、理想の高さに自分でも呆れる。
けれど、もうアレクシスの心にはリアしかいない。
簡単に諦められる訳がない。
アレクシスは小さく息を吐いてから、少しだけ口角を上げた。
「すがり付いてでも、リア様に私を選んでもらいます」
運命の女神はわずかに目を細め、そうかと呟いた。
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そんなこんなで今、リアの前には、顔のいい男が長身の身体を小さく折り畳んで、土下座をしていた。
「え~~と、顔をあげて? ね?」
何がどうなってアレクシスが土下座をしているのか、リアには分からない。
森の神殿を出た後、各国を回って、いろいろな人と出会って、またアストロン国の丘の上の大木に戻って来た。そこに待ち構えるようにいたのがアレクシス。リアの姿を見るなり、土下座、という流れだ。
「リア様。発言をお許し下さい」
「ええと……あなた、そんな感じでしたっけ?」
顔が綺麗という印象が一番だったけれど、思えば出会い頭にキスをして来るし、女性慣れしているかと思えばすぐに顔を赤くするし、しまいには突然泣き出すし……。
「ふふっ。そういえばあなたの行動はいつも不思議だったわ」
アレクシスの綺麗な顔が少し赤くなった。
こういうところが可愛いと思ってしまうから、困る。おかげで、大人の色気漂う男性も、快活な青年も、硬派で誠実な男性も、気弱だけれど優しい青年にも、リアの気持ちは動かなかった。
(ウニ様の言う通りだわ。私の気持ちはもう決まっているのね。……だけど)
一度切れた赤い糸は、アレクシスに反応しない。
両膝をついたままリアの返事を待つアレクシスは、まるで忠犬のようで、胸がキュンとする。
「……発言を許します」
「ありがとうございます。
リア様が俺を伴侶に選べないことは、分かります。全て俺のせいですから。
だからーーー」
立ち上がってニコリと笑う顔は、とても綺麗だ。
「あなたを全力で口説くことにします」
アレクシスがキラキラと輝いて見えた。
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