妖精を舐めてはいけません

りんご飴

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女は恐い

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 一人で裏庭の池に向かおうとして、ルリナは困惑していた。

 裏庭にはもう何度か一人で来たことがある。レグルスが一緒でなくても、一人で移動出来る唯一の場所だ。

 魔術師棟の裏門を出てすぐ、ルリナは知らない女性達に囲まれてしまった。華やかなドレスを着た女性達は、ルリナをじっと見ている。

 青緑色のドレスの女性が、ふっと笑った。目が冷たくて少し怖い。

「あなた、最近レグルス様に纏わりついて、失礼じゃないかしら?」

「……失礼?」

 ルリナはこてんと首をかしげた。
 レグルスと一緒にいることが失礼なのか。

「そうよ。レグルス様が迷惑しているわ!」

 脆弱な妖精が、レグルスを親鳥にして側にいるのは、迷惑なのか。

 人間が揃って同じ事を言うのだから、女性の言う事はその通りなのだろう。
 確かに…保護され、魔力も貰い、気持ちいい事もしてくれて…ルリナが貰うばかりでレグルスには何の利もない。

「ちょっとレグルス様に優しくされているからって、勘違いしないでちょうだい!」

「私達はレグルス様と身体の関係があるのよ! あなただけが特別だなんて思わないで!」

「……身体のかんけい?」

「そうよ! レグルス様の逞しいモノが、私を愛してくれたわ」

「レグルス様の熱い吐息が色っぽくて……」

「顔に似合わず、モノは立派で……」

 女性達は次々とうっとりした表情で話し出す。

 身体の関係……。いつもレグルスとする気持ち良いことか。
 この女性達ともレグルスは、気持ち良いことをしているんだ。

 何だか少し寂しい気がする。
 親鳥のレグルスは、自分だけのレグルスではない。契約者として魔力をくれたら、問題ないはずなのに。

 少し寂しい。

 知らない方が良かった。知らなければ、寂しくなかったのに。

 自分だって、レグルス意外の人間とキスをした。もう少し気持ち良いこともした。
 これは絶対に内緒だ。
 レグルスも今の自分と同じ気持ちになったら、魔力をもらえないかもしれない。

「ちょっと、あなた聞いてるの?」

「……は…い?」

「もうレグルス様に近付かないと約束しなさい!」

 それは無理だ。
 魔力をもらえないなければ困る。レグルスか契約者であるかぎり、近付かないなんて無理だ。

「……できないわ」

 ぽつりと呟いた言葉に、女性達は揃って目をつり上げる。

「なんですって!」

 ドンと肩を押されて、ルリナはよろけて尻もちをついた。
 たいして痛くはない。不意打ちで驚いたくらいだ。


「おい! 何してる!」

 突然、大きな声がして、ルリナも女性達もビクリと肩を震わせた。

 赤茶色の髪の男が、すごい速さで近づいて来る。
 走っていないのに、あっという間にルリナの腕を掴んで、立たせてくれた。
 女性達とルリナの間に入って、ルリナからは男の背中しか見えなくなる。
 恐い顔の女性達が視界から消えて、少しホッとした。

「オ、オスカー様!」

 女性達は顔を青くして、オロオロと身を寄せあった。

「お前達、集団でこいつに何してんだ」

 男の声に怒気を感じる。女性達が必死に言い訳をしているが、男の怒気は消えなかった。
 ルリナからは男の顔も女性の顔も見えない。
 けれど、女性達が必死に言い訳を続けているのを聞くと、男は相当恐い顔をしているのだろう。

 急にクルリと振り向いてルリナの方を向いたので、驚いて小さな悲鳴を出してしまった。

「行くぞ」

 手を取られて歩き出す。ただでさえ長い足が、大股でずんずん進む。手を掴まれているため、ルリナも必死について行くしかない。小走りどころではなく、全力疾走だ。

「ちょ、ちょっと……まって……はぁはぁ」

 生まれて初めての全力疾走に、心臓がついて行かない。

「あ、悪い」

 ルリナの状態にやっと気付いた男は、すぐに足を止めた。

 いろいろ言いたいことはあるが、今は呼吸をすることで精一杯だ。
 荒い息を必死に繰り返して肺に酸素を送る。
 男はルリナの背中を撫でて、落ちつくのを待ってくれた。

 しばらくして、ようやく呼吸が整った時、男に抱きしめられていることに気がついた。
 厚い胸板は、甘くてスパイシーな香りがする。
 ……何だか胸が落ちつかない。ざわざわする。
 

「大丈夫か?」

 男がルリナの顔を覗き込んだ。
 もう恐い顔をしていない。もう怒っていないようだ。

 前科があるので警戒する相手だが、助けてもらったお礼は言わなくては。

「……ありがとう」

 まだ抱きしめられたままだったことに気がついて、腕の中から抜け出そうともぞもぞと動いてみる。

「う~~っ、抜け出せないよ~~ぅ」

「ふはは。当たり前だろ。騎士の筋力なめんなよ」

 男はにかっと笑った。
 意地悪な顔と怒った顔意外、初めて見る。

「礼なら、キス一つだな」

「ぅえっ?」
  
 思わず変な声が出てしまった。
 これ以上、内緒を増やしたくない。でも、この男を口止めしないと、レグルスに内緒がバレてしまう……。
 ルリナが眉間に皺を寄せてウンウン唸っていると、男はぷっと吹き出して、眉間を指先で撫でた。

「いちいち可愛いな。
 そう深く悩まなくてもいい。キスなんて減るもんじゃないんだ。
 心配しなくても、俺はレグルスには言わねぇよ。お前も言う必要はない。
 ……これはキスだ」

 男の顔が近づいてきて、ルリナは身体を固くした。

 お礼のキス。

 ギュっと目を瞑ると、唇に男の唇が重なった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※

エロスが足りん!
……とお思いの方、今後のエロスに必要な回なので、箸休め的な気持ちで……。
 次は半分オスカー、半分レグルスです。

ちなみにルリナはこの時、オスカーの名前を知らない(笑)

本日は22時にも更新します。
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