6 / 48
突然の花婿交替劇
コラール侯爵家の四兄弟
しおりを挟む
コラール侯爵家の四兄弟は、良くも悪くも社交界で有名だった。
揃いも揃って美丈夫で、夜会などでは令嬢たちの視線をさらったものだ。
長男で侯爵家跡継ぎのパトリスはいかにも真面目で少々堅物な男だ。
頭も良く誠実な人柄で、事業の件で彼と何度も話したことがあるアリスも彼には信頼をおいている。
「本当に結婚相手はナルシスでいいのか」と何度も確認してくれたことも、パトリスの実直さの現れだ。
彼は昨年政略的な結婚をしたが、とてもそうとは思えないほど妻を慈しんでいる。
人柄は悪くないが少々見栄っ張りで小物のコラール侯爵にしては、良い跡継ぎに恵まれたともっぱらの評判だ。
そして次男ナルシスは、兄パトリスとは正反対の生き物だ。
貴族たちは「ナルシスが来たら娘を隠せ」と揶揄するくらい女好きなのだ。
侯爵家としては早いところ良い婿入り先を見つけたかったのだろうが、遊び人の彼になかなか良縁はなかった。
だから、ここに来て飛ぶ鳥を落とす勢いのサンフォース家と縁が結べるなど、コラール侯爵は感涙にむせたと聞く。
三男レイモンは、悪く言えば長兄パトリスのスペアだった。
要するに、パトリスが嫡子をもうけるまでの保険である。
レイモンもコラール侯爵家の息子らしく華やかな容姿にそこそこ頭も良いようだが、兄二人の陰に隠れ地味な印象は拭えない。
彼は父侯爵が持つ爵位の一つを譲られ、分家すると聞く。
男爵家の令嬢と婚約していて、近いうちに結婚するらしい。
男爵位と小さな領地をもらい、コラール侯爵家を盛り立てていくのがレイモンに望まれる役割である。
そして四男クロードは、幼い頃より騎士として身を立てることを望んでいた。
四男で継ぐべき爵位もない彼は次兄ナルシスのように良い婿入り先を探すか、三兄のように兄の下で働くか、または己で身を立てるか選ばなくてはならない。
一見恵まれていないようにも見えるが、自分の道を自分で切り拓いていける自由さもある。
クロードはその自由さを選び、己の腕一本で生きて行こうという希望を持っていたのだ。
早くから侯爵家を出て騎士学校の寄宿舎に入っていたクロードは、優秀な成績で卒業すると同時に近衛騎士団に配属された。
滅多に実家には寄り付かなかったのだが、今回次兄の結婚式で久々に戻ってきたのだ。
まさか、その場でクロードの未来が歪められることになろうとはー。
クロードは父から次兄の代わりに結婚しろと言われた時、まさか悪い冗談だろうと思った。
結婚式当日に…。
兄が不祥事を起こしたから弟が代わりに結婚してくれと。
そんなバカな話があってたまるものか、とクロードは思う。
自分はこれから、騎士として名を上げるのである。
それは家族も了承している話であって、事実周りにも優秀な騎士として認められつつある。
精進して精進して掴んだ今の居場所を、兄の尻拭いのために捨てろと言うのだろうか?
父はクロードに、強制ではなく懇願した。
「今サンフォース家と縁を切るわけにはいかない」
「頼む、クロード」
「おまえだってコラール侯爵家の男だろう」
「おまえだけが頼みの綱なのだ」
結局クロードは、頷くしかなかった。
コラール侯爵家の息子であるクロードは、実家を見捨てることができなかったのだ。
そうしてコラール侯爵は、サンフォース伯爵家に花婿の差し替えを申し出た。
貴族として恥ずかしい、屈辱的な姿であり、こんな父の姿をクロードは忘れないであろう。
そして父にこんな思いをさせた次兄ナルシスを軽蔑するとともに、兄を抑えられなかった父をもまた尊敬はできないとも思う。
父が申し出た時、次兄の花嫁になるはずだったアリスは驚愕に目を見開いていた。
花婿が突然相手の弟…、しかも自分より年下の男に差し替えられるのだ。
こんな屈辱的な話はないだろう。
当然怒り、罵られることを想定していたが、彼女はこちらが驚くほど冷静だった。
「お受けいたします」
そう答えた彼女は、悲しくなるほど美しかった。
揃いも揃って美丈夫で、夜会などでは令嬢たちの視線をさらったものだ。
長男で侯爵家跡継ぎのパトリスはいかにも真面目で少々堅物な男だ。
頭も良く誠実な人柄で、事業の件で彼と何度も話したことがあるアリスも彼には信頼をおいている。
「本当に結婚相手はナルシスでいいのか」と何度も確認してくれたことも、パトリスの実直さの現れだ。
彼は昨年政略的な結婚をしたが、とてもそうとは思えないほど妻を慈しんでいる。
人柄は悪くないが少々見栄っ張りで小物のコラール侯爵にしては、良い跡継ぎに恵まれたともっぱらの評判だ。
そして次男ナルシスは、兄パトリスとは正反対の生き物だ。
貴族たちは「ナルシスが来たら娘を隠せ」と揶揄するくらい女好きなのだ。
侯爵家としては早いところ良い婿入り先を見つけたかったのだろうが、遊び人の彼になかなか良縁はなかった。
だから、ここに来て飛ぶ鳥を落とす勢いのサンフォース家と縁が結べるなど、コラール侯爵は感涙にむせたと聞く。
三男レイモンは、悪く言えば長兄パトリスのスペアだった。
要するに、パトリスが嫡子をもうけるまでの保険である。
レイモンもコラール侯爵家の息子らしく華やかな容姿にそこそこ頭も良いようだが、兄二人の陰に隠れ地味な印象は拭えない。
彼は父侯爵が持つ爵位の一つを譲られ、分家すると聞く。
男爵家の令嬢と婚約していて、近いうちに結婚するらしい。
男爵位と小さな領地をもらい、コラール侯爵家を盛り立てていくのがレイモンに望まれる役割である。
そして四男クロードは、幼い頃より騎士として身を立てることを望んでいた。
四男で継ぐべき爵位もない彼は次兄ナルシスのように良い婿入り先を探すか、三兄のように兄の下で働くか、または己で身を立てるか選ばなくてはならない。
一見恵まれていないようにも見えるが、自分の道を自分で切り拓いていける自由さもある。
クロードはその自由さを選び、己の腕一本で生きて行こうという希望を持っていたのだ。
早くから侯爵家を出て騎士学校の寄宿舎に入っていたクロードは、優秀な成績で卒業すると同時に近衛騎士団に配属された。
滅多に実家には寄り付かなかったのだが、今回次兄の結婚式で久々に戻ってきたのだ。
まさか、その場でクロードの未来が歪められることになろうとはー。
クロードは父から次兄の代わりに結婚しろと言われた時、まさか悪い冗談だろうと思った。
結婚式当日に…。
兄が不祥事を起こしたから弟が代わりに結婚してくれと。
そんなバカな話があってたまるものか、とクロードは思う。
自分はこれから、騎士として名を上げるのである。
それは家族も了承している話であって、事実周りにも優秀な騎士として認められつつある。
精進して精進して掴んだ今の居場所を、兄の尻拭いのために捨てろと言うのだろうか?
父はクロードに、強制ではなく懇願した。
「今サンフォース家と縁を切るわけにはいかない」
「頼む、クロード」
「おまえだってコラール侯爵家の男だろう」
「おまえだけが頼みの綱なのだ」
結局クロードは、頷くしかなかった。
コラール侯爵家の息子であるクロードは、実家を見捨てることができなかったのだ。
そうしてコラール侯爵は、サンフォース伯爵家に花婿の差し替えを申し出た。
貴族として恥ずかしい、屈辱的な姿であり、こんな父の姿をクロードは忘れないであろう。
そして父にこんな思いをさせた次兄ナルシスを軽蔑するとともに、兄を抑えられなかった父をもまた尊敬はできないとも思う。
父が申し出た時、次兄の花嫁になるはずだったアリスは驚愕に目を見開いていた。
花婿が突然相手の弟…、しかも自分より年下の男に差し替えられるのだ。
こんな屈辱的な話はないだろう。
当然怒り、罵られることを想定していたが、彼女はこちらが驚くほど冷静だった。
「お受けいたします」
そう答えた彼女は、悲しくなるほど美しかった。
167
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】呪言《ことほぎ》あなたがそうおっしゃったから。
友坂 悠
恋愛
「君はまだ幼い、私は君を大事にしたいのだ」
あなたがそうおっしゃったから。
わたくしは今までお飾りの妻でがまんしてきたのに。
あなたがそうおっしゃったから。
好きでもない商会のお仕事を頑張ってこなしてきたのに。
全部全部、嘘だったというの?
そしたらわたくしはこれからどうすればいいっていうの?
子供の頃から将来の伴侶として約束された二人。
貴族らしく、外あたりが良く温厚に見えるように育ったラインハルト。
貞淑な令嬢、夫を支えるべき存在になるようにと育てられたアリーシア。
二人は両家に祝福され結婚したはず、だった。
しかし。
結婚したのはラインハルトが18になった歳、アリーシアはまだ14歳だった。
だから、彼のその言葉を疑いもせず信じたアリーシア。
それがまさか、三年後にこんなことになるなんて。
三年間白い結婚を継続した夫婦は子を残す意思が無いものと認められ、政略的な両家のしがらみや契約を破棄し離縁できる。
それがこの国の貴族の婚姻の決まりだった。
元は親同士の契約に逆らって離縁しやり直すための決まり事。
もちろん、そんな肉体的繋がりなど無くても婚姻を継続する夫婦は存在する。
いや、貴族であれば政略結婚が当たり前、愛はなくても結婚生活は続いていく。
貴族の結婚なんて所詮そんなもの。
家同士のつながりさえあれば問題ないのであれば、そこに愛なんてものがなくってもしょうがないのかも、知れない。
けれど。
まさかそんなラインハルトから離婚を言い出されるとは思ってもいなかったアリーシア。
自分は傾いた家を立て直すまでのかりそめの妻だったのか。
家業が上手くいくようになったらもう用無しなのか。
だまされていたのかと傷心のまま実家に戻る彼女を待っていたのは、まさかのラインハルトと妹マリアーナの婚約披露。
悲しみのまま心が虚になったまま領地に逃げ引き篭もるアリーシアだったが……
夫と妹に、いや、家族全てから裏切られたお飾り妻のアリーシア。
彼女が心の平穏を取り戻し幸せになるまでの物語。
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる