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突然の花婿交替劇
コラール侯爵家の四兄弟
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コラール侯爵家の四兄弟は、良くも悪くも社交界で有名だった。
揃いも揃って美丈夫で、夜会などでは令嬢たちの視線をさらったものだ。
長男で侯爵家跡継ぎのパトリスはいかにも真面目で少々堅物な男だ。
頭も良く誠実な人柄で、事業の件で彼と何度も話したことがあるアリスも彼には信頼をおいている。
「本当に結婚相手はナルシスでいいのか」と何度も確認してくれたことも、パトリスの実直さの現れだ。
彼は昨年政略的な結婚をしたが、とてもそうとは思えないほど妻を慈しんでいる。
人柄は悪くないが少々見栄っ張りで小物のコラール侯爵にしては、良い跡継ぎに恵まれたともっぱらの評判だ。
そして次男ナルシスは、兄パトリスとは正反対の生き物だ。
貴族たちは「ナルシスが来たら娘を隠せ」と揶揄するくらい女好きなのだ。
侯爵家としては早いところ良い婿入り先を見つけたかったのだろうが、遊び人の彼になかなか良縁はなかった。
だから、ここに来て飛ぶ鳥を落とす勢いのサンフォース家と縁が結べるなど、コラール侯爵は感涙にむせたと聞く。
三男レイモンは、悪く言えば長兄パトリスのスペアだった。
要するに、パトリスが嫡子をもうけるまでの保険である。
レイモンもコラール侯爵家の息子らしく華やかな容姿にそこそこ頭も良いようだが、兄二人の陰に隠れ地味な印象は拭えない。
彼は父侯爵が持つ爵位の一つを譲られ、分家すると聞く。
男爵家の令嬢と婚約していて、近いうちに結婚するらしい。
男爵位と小さな領地をもらい、コラール侯爵家を盛り立てていくのがレイモンに望まれる役割である。
そして四男クロードは、幼い頃より騎士として身を立てることを望んでいた。
四男で継ぐべき爵位もない彼は次兄ナルシスのように良い婿入り先を探すか、三兄のように兄の下で働くか、または己で身を立てるか選ばなくてはならない。
一見恵まれていないようにも見えるが、自分の道を自分で切り拓いていける自由さもある。
クロードはその自由さを選び、己の腕一本で生きて行こうという希望を持っていたのだ。
早くから侯爵家を出て騎士学校の寄宿舎に入っていたクロードは、優秀な成績で卒業すると同時に近衛騎士団に配属された。
滅多に実家には寄り付かなかったのだが、今回次兄の結婚式で久々に戻ってきたのだ。
まさか、その場でクロードの未来が歪められることになろうとはー。
クロードは父から次兄の代わりに結婚しろと言われた時、まさか悪い冗談だろうと思った。
結婚式当日に…。
兄が不祥事を起こしたから弟が代わりに結婚してくれと。
そんなバカな話があってたまるものか、とクロードは思う。
自分はこれから、騎士として名を上げるのである。
それは家族も了承している話であって、事実周りにも優秀な騎士として認められつつある。
精進して精進して掴んだ今の居場所を、兄の尻拭いのために捨てろと言うのだろうか?
父はクロードに、強制ではなく懇願した。
「今サンフォース家と縁を切るわけにはいかない」
「頼む、クロード」
「おまえだってコラール侯爵家の男だろう」
「おまえだけが頼みの綱なのだ」
結局クロードは、頷くしかなかった。
コラール侯爵家の息子であるクロードは、実家を見捨てることができなかったのだ。
そうしてコラール侯爵は、サンフォース伯爵家に花婿の差し替えを申し出た。
貴族として恥ずかしい、屈辱的な姿であり、こんな父の姿をクロードは忘れないであろう。
そして父にこんな思いをさせた次兄ナルシスを軽蔑するとともに、兄を抑えられなかった父をもまた尊敬はできないとも思う。
父が申し出た時、次兄の花嫁になるはずだったアリスは驚愕に目を見開いていた。
花婿が突然相手の弟…、しかも自分より年下の男に差し替えられるのだ。
こんな屈辱的な話はないだろう。
当然怒り、罵られることを想定していたが、彼女はこちらが驚くほど冷静だった。
「お受けいたします」
そう答えた彼女は、悲しくなるほど美しかった。
揃いも揃って美丈夫で、夜会などでは令嬢たちの視線をさらったものだ。
長男で侯爵家跡継ぎのパトリスはいかにも真面目で少々堅物な男だ。
頭も良く誠実な人柄で、事業の件で彼と何度も話したことがあるアリスも彼には信頼をおいている。
「本当に結婚相手はナルシスでいいのか」と何度も確認してくれたことも、パトリスの実直さの現れだ。
彼は昨年政略的な結婚をしたが、とてもそうとは思えないほど妻を慈しんでいる。
人柄は悪くないが少々見栄っ張りで小物のコラール侯爵にしては、良い跡継ぎに恵まれたともっぱらの評判だ。
そして次男ナルシスは、兄パトリスとは正反対の生き物だ。
貴族たちは「ナルシスが来たら娘を隠せ」と揶揄するくらい女好きなのだ。
侯爵家としては早いところ良い婿入り先を見つけたかったのだろうが、遊び人の彼になかなか良縁はなかった。
だから、ここに来て飛ぶ鳥を落とす勢いのサンフォース家と縁が結べるなど、コラール侯爵は感涙にむせたと聞く。
三男レイモンは、悪く言えば長兄パトリスのスペアだった。
要するに、パトリスが嫡子をもうけるまでの保険である。
レイモンもコラール侯爵家の息子らしく華やかな容姿にそこそこ頭も良いようだが、兄二人の陰に隠れ地味な印象は拭えない。
彼は父侯爵が持つ爵位の一つを譲られ、分家すると聞く。
男爵家の令嬢と婚約していて、近いうちに結婚するらしい。
男爵位と小さな領地をもらい、コラール侯爵家を盛り立てていくのがレイモンに望まれる役割である。
そして四男クロードは、幼い頃より騎士として身を立てることを望んでいた。
四男で継ぐべき爵位もない彼は次兄ナルシスのように良い婿入り先を探すか、三兄のように兄の下で働くか、または己で身を立てるか選ばなくてはならない。
一見恵まれていないようにも見えるが、自分の道を自分で切り拓いていける自由さもある。
クロードはその自由さを選び、己の腕一本で生きて行こうという希望を持っていたのだ。
早くから侯爵家を出て騎士学校の寄宿舎に入っていたクロードは、優秀な成績で卒業すると同時に近衛騎士団に配属された。
滅多に実家には寄り付かなかったのだが、今回次兄の結婚式で久々に戻ってきたのだ。
まさか、その場でクロードの未来が歪められることになろうとはー。
クロードは父から次兄の代わりに結婚しろと言われた時、まさか悪い冗談だろうと思った。
結婚式当日に…。
兄が不祥事を起こしたから弟が代わりに結婚してくれと。
そんなバカな話があってたまるものか、とクロードは思う。
自分はこれから、騎士として名を上げるのである。
それは家族も了承している話であって、事実周りにも優秀な騎士として認められつつある。
精進して精進して掴んだ今の居場所を、兄の尻拭いのために捨てろと言うのだろうか?
父はクロードに、強制ではなく懇願した。
「今サンフォース家と縁を切るわけにはいかない」
「頼む、クロード」
「おまえだってコラール侯爵家の男だろう」
「おまえだけが頼みの綱なのだ」
結局クロードは、頷くしかなかった。
コラール侯爵家の息子であるクロードは、実家を見捨てることができなかったのだ。
そうしてコラール侯爵は、サンフォース伯爵家に花婿の差し替えを申し出た。
貴族として恥ずかしい、屈辱的な姿であり、こんな父の姿をクロードは忘れないであろう。
そして父にこんな思いをさせた次兄ナルシスを軽蔑するとともに、兄を抑えられなかった父をもまた尊敬はできないとも思う。
父が申し出た時、次兄の花嫁になるはずだったアリスは驚愕に目を見開いていた。
花婿が突然相手の弟…、しかも自分より年下の男に差し替えられるのだ。
こんな屈辱的な話はないだろう。
当然怒り、罵られることを想定していたが、彼女はこちらが驚くほど冷静だった。
「お受けいたします」
そう答えた彼女は、悲しくなるほど美しかった。
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