5 / 48
突然の花婿交替劇
代打、四男クロード
しおりを挟む
さて、下半身の緩すぎるミツバチとの結婚は取りやめるけれどー。
アリスは頭を抱えていた。
ナルシスの父であるコラール侯爵が泣きついてきたのだ。
なんと、花婿をナルシスの弟クロードに差し替えてほしいと言って。
あれからすぐ、泣き縋るナルシスと泣き喚く女性はコラール侯爵家の騎士によって退出させられた。
コラール侯爵は結婚取りやめの意思が固いアリスと激怒するサンフォース伯爵家の者たちを前に、結婚を強行することも息子を庇うこともできない。
だが、結婚式の参列者たちはすでに集まっている。
当然参列者には高位貴族の面々が並び、今更結婚式を無かったことになど出来ない。
ナルシスのことはともかく、このままではコラール侯爵家の面目丸つぶれである。
せっかく繋げたサンフォース家との縁も切れてしまう。
そこで苦肉の策として捻り出したのが、近衛騎士隊に所属している、まだ婚約者のいない四男を代打に立てることだった。
まさかそんな変化球…、いや、隠し球を投げてくるとは思わず、アリスをはじめサンフォース伯爵家の面々は呆気にとられた。
当然アリスの両親である伯爵夫妻は「アリスをバカにするのもいい加減にしろ」とばかりに激怒していたが、アリスははたと考えた。
たしかに目の前に迫っている結婚式を今から取りやめるのは相当の労力を要する。
結婚式の準備に金も時間もかけてきたのに、それも全て無駄になる。
コラール侯爵家やそれに連なる家とつめてきた事業協力、業務提携、全て見直さなくてはならない。
後々のことを考えれば、愚かでも、今はこの策に乗るのが一番スムーズで面倒のないことなのかもしれない。
元々、夫は誰でもいいと思っていたくらいだし…。
そんな気持ちでコラール侯爵の隣に立つ男を見れば、彼は仏頂面で押し黙っていた。
コラール家の四男クロードである。
たしか近衛騎士団に所属し、年齢は十九歳だったと記憶している。
彼は目を伏せ、唇を噛み、拳を握りしめていた。
(お気の毒に)
アリスは彼に深く同情した。
突然兄の尻拭いをさせられることになった被害者である。
大方この短時間の間に、よくよく父に諭され、懇願されてきたのだろう。
侯爵家を救うためとでも言われれば、逃げ道はないだろうから。
「お受けいたしましょう」
そう答えたアリスの言葉に、クロードは初めて顔を上げた。
いずれ義弟になるはずだった彼の顔はもちろん見知っている。
何度か挨拶を交わした程度だが、いつも爽やかで礼儀正しい印象を受けていた。
だから、こんな彼の顔を見るのは初めてだった。
彼は驚愕に目を見開いた後、キッとアリスを睨んだ。
そして一瞬の後、クロードの瞳は絶望の色に染まっていったのである。
結局、結婚式は花婿を差し替えて挙行された。
両親もサンフォース伯爵家の使用人たちも激しく反対したが、結局は最後には折れた。
おそらくここで結婚を取りやめようと花婿を差し替えようと王都中に醜聞が広がるのは同じこと。
どっちにしろアリスが醜聞に晒されるなら、被害は最小限に食い止める方がいい。
そして当の本人であるアリスが花婿差し替えの方を選ぶなら、そちらを選ぶしかないのだろうと。
こうして、挙式当日に花婿が差し替えられるという前代未聞の結婚式が挙行された。
新郎クロードは兄の結婚式に列席するために着てきた騎士用の礼服のままである。
新たな花婿は兄のキラキラしい婚礼衣装を身につけるのだけはどうしても嫌だったのだ。
おそらく多くの参列者たちは、式が始まってもしばらく花婿の差し替えに気づかなかっただろう。
雰囲気は全く違うが、さすが兄弟だけあってナルシスとクロードは面差しが良く似ていたのだ。
たしかにいつものナルシスにしてはかなり地味な婚礼衣装であったが、それも花嫁を際立たせるための演出とも思える。
しかし参列者たちがにわかにざわめき出したのは、神父が新郎の名を読み上げた時であった。
言われてみれば、花嫁と共に礼拝堂に入ってきた花婿はあきらかに仏頂面で、いつも微笑みをたたえているようなナルシスとは雰囲気が全く違っていた。
(なぜ、花婿が四男に⁈)
(クロード殿はまだ十代ではなかったか⁈)
ざわつく中、新郎神父は神の前で、言葉だけの永遠の愛を誓う。
花婿からは当然誓いの口づけも、笑顔さえもない。
そして美しく着飾った花嫁を、一瞥さえしなかった。
何から何まで前代未聞の結婚式は、翌日には王都中の噂になっていた。
アリスは頭を抱えていた。
ナルシスの父であるコラール侯爵が泣きついてきたのだ。
なんと、花婿をナルシスの弟クロードに差し替えてほしいと言って。
あれからすぐ、泣き縋るナルシスと泣き喚く女性はコラール侯爵家の騎士によって退出させられた。
コラール侯爵は結婚取りやめの意思が固いアリスと激怒するサンフォース伯爵家の者たちを前に、結婚を強行することも息子を庇うこともできない。
だが、結婚式の参列者たちはすでに集まっている。
当然参列者には高位貴族の面々が並び、今更結婚式を無かったことになど出来ない。
ナルシスのことはともかく、このままではコラール侯爵家の面目丸つぶれである。
せっかく繋げたサンフォース家との縁も切れてしまう。
そこで苦肉の策として捻り出したのが、近衛騎士隊に所属している、まだ婚約者のいない四男を代打に立てることだった。
まさかそんな変化球…、いや、隠し球を投げてくるとは思わず、アリスをはじめサンフォース伯爵家の面々は呆気にとられた。
当然アリスの両親である伯爵夫妻は「アリスをバカにするのもいい加減にしろ」とばかりに激怒していたが、アリスははたと考えた。
たしかに目の前に迫っている結婚式を今から取りやめるのは相当の労力を要する。
結婚式の準備に金も時間もかけてきたのに、それも全て無駄になる。
コラール侯爵家やそれに連なる家とつめてきた事業協力、業務提携、全て見直さなくてはならない。
後々のことを考えれば、愚かでも、今はこの策に乗るのが一番スムーズで面倒のないことなのかもしれない。
元々、夫は誰でもいいと思っていたくらいだし…。
そんな気持ちでコラール侯爵の隣に立つ男を見れば、彼は仏頂面で押し黙っていた。
コラール家の四男クロードである。
たしか近衛騎士団に所属し、年齢は十九歳だったと記憶している。
彼は目を伏せ、唇を噛み、拳を握りしめていた。
(お気の毒に)
アリスは彼に深く同情した。
突然兄の尻拭いをさせられることになった被害者である。
大方この短時間の間に、よくよく父に諭され、懇願されてきたのだろう。
侯爵家を救うためとでも言われれば、逃げ道はないだろうから。
「お受けいたしましょう」
そう答えたアリスの言葉に、クロードは初めて顔を上げた。
いずれ義弟になるはずだった彼の顔はもちろん見知っている。
何度か挨拶を交わした程度だが、いつも爽やかで礼儀正しい印象を受けていた。
だから、こんな彼の顔を見るのは初めてだった。
彼は驚愕に目を見開いた後、キッとアリスを睨んだ。
そして一瞬の後、クロードの瞳は絶望の色に染まっていったのである。
結局、結婚式は花婿を差し替えて挙行された。
両親もサンフォース伯爵家の使用人たちも激しく反対したが、結局は最後には折れた。
おそらくここで結婚を取りやめようと花婿を差し替えようと王都中に醜聞が広がるのは同じこと。
どっちにしろアリスが醜聞に晒されるなら、被害は最小限に食い止める方がいい。
そして当の本人であるアリスが花婿差し替えの方を選ぶなら、そちらを選ぶしかないのだろうと。
こうして、挙式当日に花婿が差し替えられるという前代未聞の結婚式が挙行された。
新郎クロードは兄の結婚式に列席するために着てきた騎士用の礼服のままである。
新たな花婿は兄のキラキラしい婚礼衣装を身につけるのだけはどうしても嫌だったのだ。
おそらく多くの参列者たちは、式が始まってもしばらく花婿の差し替えに気づかなかっただろう。
雰囲気は全く違うが、さすが兄弟だけあってナルシスとクロードは面差しが良く似ていたのだ。
たしかにいつものナルシスにしてはかなり地味な婚礼衣装であったが、それも花嫁を際立たせるための演出とも思える。
しかし参列者たちがにわかにざわめき出したのは、神父が新郎の名を読み上げた時であった。
言われてみれば、花嫁と共に礼拝堂に入ってきた花婿はあきらかに仏頂面で、いつも微笑みをたたえているようなナルシスとは雰囲気が全く違っていた。
(なぜ、花婿が四男に⁈)
(クロード殿はまだ十代ではなかったか⁈)
ざわつく中、新郎神父は神の前で、言葉だけの永遠の愛を誓う。
花婿からは当然誓いの口づけも、笑顔さえもない。
そして美しく着飾った花嫁を、一瞥さえしなかった。
何から何まで前代未聞の結婚式は、翌日には王都中の噂になっていた。
161
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】呪言《ことほぎ》あなたがそうおっしゃったから。
友坂 悠
恋愛
「君はまだ幼い、私は君を大事にしたいのだ」
あなたがそうおっしゃったから。
わたくしは今までお飾りの妻でがまんしてきたのに。
あなたがそうおっしゃったから。
好きでもない商会のお仕事を頑張ってこなしてきたのに。
全部全部、嘘だったというの?
そしたらわたくしはこれからどうすればいいっていうの?
子供の頃から将来の伴侶として約束された二人。
貴族らしく、外あたりが良く温厚に見えるように育ったラインハルト。
貞淑な令嬢、夫を支えるべき存在になるようにと育てられたアリーシア。
二人は両家に祝福され結婚したはず、だった。
しかし。
結婚したのはラインハルトが18になった歳、アリーシアはまだ14歳だった。
だから、彼のその言葉を疑いもせず信じたアリーシア。
それがまさか、三年後にこんなことになるなんて。
三年間白い結婚を継続した夫婦は子を残す意思が無いものと認められ、政略的な両家のしがらみや契約を破棄し離縁できる。
それがこの国の貴族の婚姻の決まりだった。
元は親同士の契約に逆らって離縁しやり直すための決まり事。
もちろん、そんな肉体的繋がりなど無くても婚姻を継続する夫婦は存在する。
いや、貴族であれば政略結婚が当たり前、愛はなくても結婚生活は続いていく。
貴族の結婚なんて所詮そんなもの。
家同士のつながりさえあれば問題ないのであれば、そこに愛なんてものがなくってもしょうがないのかも、知れない。
けれど。
まさかそんなラインハルトから離婚を言い出されるとは思ってもいなかったアリーシア。
自分は傾いた家を立て直すまでのかりそめの妻だったのか。
家業が上手くいくようになったらもう用無しなのか。
だまされていたのかと傷心のまま実家に戻る彼女を待っていたのは、まさかのラインハルトと妹マリアーナの婚約披露。
悲しみのまま心が虚になったまま領地に逃げ引き篭もるアリーシアだったが……
夫と妹に、いや、家族全てから裏切られたお飾り妻のアリーシア。
彼女が心の平穏を取り戻し幸せになるまでの物語。
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる