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突然の花婿交替劇
妻の寝室で
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扉をノックする音にアリスが返事をすると、クロードはゆっくりと寝室に入って来た。
心なしか顔が赤い気がする。
普段細身に見えるクロードだが、薄手の寝衣で現れた彼はかなり筋肉質であることがわかる。
さすがは騎士様だけあって、とてもよく鍛えているのだろう。
相変わらずの仏頂面だが、美麗で知られるコラール侯爵家の令息だけあって顔も整っている。
彼に対して恋愛感情は全くないが、これならイケるだろうとアリスは思う。
政略結婚ではあるが、やはり嫌悪感を抱くような相手と身体を重ねるのは苦痛であるから。
一方クロードは、ベッドの端に腰掛けていたアリスを見ると一瞬息を飲んだ。
薄手の、透けてしまいそうな寝衣に身を包み、先程まで結い上げていた髪をはらりと落とした姿は、なんだか儚くさえ見える。
しかも昼間と違ってほぼ素顔の彼女は幼くも見え、まだ少女のように見えた。
クロードは瞬時にアリスから目をそらすと、そのまままた扉を開けて戻ってしまおうとした。
そんなクロードを見たアリスは慌てて立ち上がる。
「今日はお疲れ様でした、旦那様」
声をかけながら小走りで駆け寄れば、彼は体を引き気味に振り返った。
しかしアリスを直視はせず、目を泳がせている。
どうやらクロードは、寝衣姿のアリスを見て目のやり場に困っているらしい。
(本当に、何から何までナルシスとは違うのね)
これがナルシスならすぐに押し倒されていたことだろう。
婚約中もナルシスは何かとアリスに触れたがり、そういう雰囲気に持っていきたがる彼を何度制してきただろうか。
「結婚までは」と押しのけなんとか死守してきたが、こうなってみると本当に操を守り通して良かったと思う。
クロードは一つ深呼吸をし、意を決したようにアリスの方に向き直ると、突然深々と頭を下げた。
「アリス嬢、この度のこと、本当に申し訳ありませんでした。愚兄がしでかしたこと、それからコラール侯爵家が貴女にしたこと、侯爵家を代表してあらためて謝罪いたします」
真摯に謝罪するクロードの姿に、アリスは少々驚いた。
式の最中も披露パーティーの最中の彼もずっと怒った顔をしていたから、まさか謝られるとは思わなかったのだ。
「クロード様に謝罪していただくことではありません。貴方だって被害者なのですから」
「しかし…」
俯き、唇を噛んだクロードは、再びキッと顔を上げてアリスを見据えた。
「式直前に新郎が差し替えられるなど、貴女には本当に酷い恥をかかせてしまいました。しかし私も…、私は考える間も無くこんな事態になってしまい、正直今激しく戸惑っています。故に、貴女とはしばらく距離を置き、落ち着いてこれからのことを考えてみたいと思います」
「距離を?」
きょとんと首を傾げたアリスがクロードを見上げれば、彼は即座に目を逸らした。
「とにかく。もう式まで挙げてしまったのだから逃げようとは思いません。ただ、心の整理をしたいと…」
「…心の整理?」
アリスはクロードの端正な横顔を見つめる。
「…なるほど。もしかしてクロード様にはお心に決めた方がいらっしゃったのですね?それは申し訳ないことを…」
「違います!私にそのような女性はおりません。私は自分のこれからの身の振り方を考えたいと言っているのです」
距離を置きたいとか心の整理をしたいとか、新婚初夜には似つかわしくない言葉が並ぶ。
とにかくクロードは、婿入りさせられて騎士への道が断たれたことに絶望しているのだろう。
それなら、その憂いを取ってやることがまずはアリスのするべきことなのだろう。
アリスは「とりあえず、座りませんか?」とベッドの方を指し示した。
「いや、だから、それは…」
少しの間目を泳がせていたクロードに、アリスは小さく微笑んだ。
「こんな突っ立ったままでは話ができません。それに私は首が痛くなってしまうわ」
立っていると二人の身長差が大き過ぎ、アリスは見上げたまま話さなくてはならない。
それを聞いたクロードは、やがて諦めたようにアリスと並んでベッドに腰をおろした。
ただし、人一人分以上間を空けてだが。
アリスはそんなクロードに向かって、口を開いた。
「実は明日ゆっくり話し合うつもりでしたが…、婿入りしてくださったからと言って、私はクロード様に騎士をやめていただくつもりはございません」
「それは、どういう…?」
「サンフォース家の切り盛りは今まで通り私が行います。貴方に事業や領地経営に関わっていただきたいとは思っておりませんので、どうぞクロード様はこのまま騎士の道を精進くださいませ」
アリスの言葉に、クロードは酷く驚いた顔をした。
「騎士を?だが、貴女は事業や領地経営に役立つ配偶者が欲しかったのでは?」
兄ナルシスは女癖は悪かったが、飛び抜けた話術と社交性で男女問わず人の心を掴む要素があった。
きっと傍に立っていればそれなりに役には立っていたことだろう。
だが、アリスはクロードにそれさえも求めないようだ。
「それは、私が事業については素人だから、役立たずだということですか?」
仏頂面でたずねるクロードに、アリスは首を傾げる。
(騎士を続けていいと言えば喜ぶと思ったのに、おかしいわね)
「クロード様は優秀な騎士だとお聞きしております。そんな方を伯爵家に婿入りしたからと言ってやめさせてしまうのは王国にとっても損失です。それに、騎士として身を立てるのは貴方の夢だったのでしょう?」
「何故、それを…、」
「ナルシス様からお聞きしましたわ。一応、一年余り婚約者でしたから」
「兄の名前を、サラッと出すのですね」
「それは…、そもそもこんな事態になっているのはナルシス様のせいですし。とにかく貴方が騎士までやめて犠牲になることはないと私は、」
そこまで言ってアリスは口を噤んだ。
たしかに初夜の場で、しかもベッドの上で他の男の名前を出すのはさすがに無神経だったと思ったから。
心なしか顔が赤い気がする。
普段細身に見えるクロードだが、薄手の寝衣で現れた彼はかなり筋肉質であることがわかる。
さすがは騎士様だけあって、とてもよく鍛えているのだろう。
相変わらずの仏頂面だが、美麗で知られるコラール侯爵家の令息だけあって顔も整っている。
彼に対して恋愛感情は全くないが、これならイケるだろうとアリスは思う。
政略結婚ではあるが、やはり嫌悪感を抱くような相手と身体を重ねるのは苦痛であるから。
一方クロードは、ベッドの端に腰掛けていたアリスを見ると一瞬息を飲んだ。
薄手の、透けてしまいそうな寝衣に身を包み、先程まで結い上げていた髪をはらりと落とした姿は、なんだか儚くさえ見える。
しかも昼間と違ってほぼ素顔の彼女は幼くも見え、まだ少女のように見えた。
クロードは瞬時にアリスから目をそらすと、そのまままた扉を開けて戻ってしまおうとした。
そんなクロードを見たアリスは慌てて立ち上がる。
「今日はお疲れ様でした、旦那様」
声をかけながら小走りで駆け寄れば、彼は体を引き気味に振り返った。
しかしアリスを直視はせず、目を泳がせている。
どうやらクロードは、寝衣姿のアリスを見て目のやり場に困っているらしい。
(本当に、何から何までナルシスとは違うのね)
これがナルシスならすぐに押し倒されていたことだろう。
婚約中もナルシスは何かとアリスに触れたがり、そういう雰囲気に持っていきたがる彼を何度制してきただろうか。
「結婚までは」と押しのけなんとか死守してきたが、こうなってみると本当に操を守り通して良かったと思う。
クロードは一つ深呼吸をし、意を決したようにアリスの方に向き直ると、突然深々と頭を下げた。
「アリス嬢、この度のこと、本当に申し訳ありませんでした。愚兄がしでかしたこと、それからコラール侯爵家が貴女にしたこと、侯爵家を代表してあらためて謝罪いたします」
真摯に謝罪するクロードの姿に、アリスは少々驚いた。
式の最中も披露パーティーの最中の彼もずっと怒った顔をしていたから、まさか謝られるとは思わなかったのだ。
「クロード様に謝罪していただくことではありません。貴方だって被害者なのですから」
「しかし…」
俯き、唇を噛んだクロードは、再びキッと顔を上げてアリスを見据えた。
「式直前に新郎が差し替えられるなど、貴女には本当に酷い恥をかかせてしまいました。しかし私も…、私は考える間も無くこんな事態になってしまい、正直今激しく戸惑っています。故に、貴女とはしばらく距離を置き、落ち着いてこれからのことを考えてみたいと思います」
「距離を?」
きょとんと首を傾げたアリスがクロードを見上げれば、彼は即座に目を逸らした。
「とにかく。もう式まで挙げてしまったのだから逃げようとは思いません。ただ、心の整理をしたいと…」
「…心の整理?」
アリスはクロードの端正な横顔を見つめる。
「…なるほど。もしかしてクロード様にはお心に決めた方がいらっしゃったのですね?それは申し訳ないことを…」
「違います!私にそのような女性はおりません。私は自分のこれからの身の振り方を考えたいと言っているのです」
距離を置きたいとか心の整理をしたいとか、新婚初夜には似つかわしくない言葉が並ぶ。
とにかくクロードは、婿入りさせられて騎士への道が断たれたことに絶望しているのだろう。
それなら、その憂いを取ってやることがまずはアリスのするべきことなのだろう。
アリスは「とりあえず、座りませんか?」とベッドの方を指し示した。
「いや、だから、それは…」
少しの間目を泳がせていたクロードに、アリスは小さく微笑んだ。
「こんな突っ立ったままでは話ができません。それに私は首が痛くなってしまうわ」
立っていると二人の身長差が大き過ぎ、アリスは見上げたまま話さなくてはならない。
それを聞いたクロードは、やがて諦めたようにアリスと並んでベッドに腰をおろした。
ただし、人一人分以上間を空けてだが。
アリスはそんなクロードに向かって、口を開いた。
「実は明日ゆっくり話し合うつもりでしたが…、婿入りしてくださったからと言って、私はクロード様に騎士をやめていただくつもりはございません」
「それは、どういう…?」
「サンフォース家の切り盛りは今まで通り私が行います。貴方に事業や領地経営に関わっていただきたいとは思っておりませんので、どうぞクロード様はこのまま騎士の道を精進くださいませ」
アリスの言葉に、クロードは酷く驚いた顔をした。
「騎士を?だが、貴女は事業や領地経営に役立つ配偶者が欲しかったのでは?」
兄ナルシスは女癖は悪かったが、飛び抜けた話術と社交性で男女問わず人の心を掴む要素があった。
きっと傍に立っていればそれなりに役には立っていたことだろう。
だが、アリスはクロードにそれさえも求めないようだ。
「それは、私が事業については素人だから、役立たずだということですか?」
仏頂面でたずねるクロードに、アリスは首を傾げる。
(騎士を続けていいと言えば喜ぶと思ったのに、おかしいわね)
「クロード様は優秀な騎士だとお聞きしております。そんな方を伯爵家に婿入りしたからと言ってやめさせてしまうのは王国にとっても損失です。それに、騎士として身を立てるのは貴方の夢だったのでしょう?」
「何故、それを…、」
「ナルシス様からお聞きしましたわ。一応、一年余り婚約者でしたから」
「兄の名前を、サラッと出すのですね」
「それは…、そもそもこんな事態になっているのはナルシス様のせいですし。とにかく貴方が騎士までやめて犠牲になることはないと私は、」
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