花婿が差し替えられました

凛江

文字の大きさ
24 / 48
それぞれの役割

初めてのデート①

しおりを挟む
「ああ、この傷は『サウルの反乱』の折にガイモス将軍の剣で付いた傷と言われているんです」
クロードが博物館館内の柱の、小さな傷を撫でながらそう言った。
「まぁそうなんですの?旦那様は物知りなんですのね」
「この甲冑は伝説の騎士アーチーのものですね。大昔のものなのに、こんな完璧な状態で残っているなんて、素晴らしいと思いませんか?」
「ええ、本当に素晴らしいですわね」
クロードはアリスの返事に満足そうに頷くとやっと隣の展示に目を移した。

開館してすぐにこの博物館に来たのだが、もう何時間ここにいるのだろう。
クロードは一つ一つの展示の前からなかなか動かず、まだ三分の一も見終えていない。
結婚してこうして二人で外出するのは、例の夜会以外初めて。
要するに、初めてのデートである。
アリスとしてはデートらしいエスコートを少しだけ期待したのだが、やはりクロードはクロードだ。
正直アリスは疲れてきてもいたが、少年のように目を輝かせてはしゃぐクロードを見ているのも、案外楽しいと思った。

「あ、あそこは古代王国の遺物が展示してあるスペースですね。ちょっと見てきていいですか?」
「ええ。私はここで待っていますわ」
先の方に人だかりが出来ていて、クロードが迷わず向かう。
人気のあるコーナーは所々人が集まっていて、そこに突っ込んで行くクロードをアリスは少し離れたところで待っている。
最初はクロードに誘われたが、アリスは人混みが苦手だから気にせず見て来て欲しいと話したのだ。

古代王国の遺物を前に、クロードは食い入るように展示を眺めた。
本当はあらゆる角度から堪能したいが、やはり人気のあるコーナーは人が多く、なかなか身動きが取れない。
(それにしても…)
クロードは今日のデートは成功だと、すっかり満足していた。
以前から騎士仲間のミハエルにアリスをデートに誘い出せと発破をかけられていたが、そんなことは出来るわけがないと思い込んでいた。
あの、美しく聡明な女性が、自分のような堅物の騎士とデートする姿が想像できなかったのだ。
だが、子犬のタロをきっかけに話す機会も増え、彼女に笑顔が増えた。
自分に対する雰囲気も柔らかくなり、来訪を喜んでくれているような素振りも見える。
それに、先日の夜会でナルシスと対峙する彼女を見て、激しく思ったのだ。
こいつにだけは、彼女を渡したくないと。
彼女は俺の妻なのだ、と。
今はまだ…、ではあるが。

意を決してデートに誘ってみれば、彼女はすんなりとOKしてくれた。
しかも、クロードが好きな博物館に行こうとまで提案してくれたのだ。
この後はレストランで遅い昼食をとって、ブティックで正装し、劇場に向かうことになっている。
正に、完璧なデートコースである。

遺物を堪能して人混みから抜け出ると、先程アリスがいた辺りに彼女の姿はなかった。
違う展示でも見ているのかと辺りを見回したが、アリスの姿は見えない。
(馬鹿か、俺は…っ)
つい展示に夢中になって、長い時間アリスを放置してしまった。
呆れて帰ってしまったのか、時間を持て余して先に進んでしまったのか。
先の方に人だかりがあり、もしかしたら人気の展示があってアリスがいるかもしれないと寄って行ってみれば、なんと人だかりの中心にいたのは展示ではなくクロードの妻アリスだった。
アリスの周りを囲んでいるのは若い男たちで、どうやら一緒に見て回ろうと誘っているようだ。

「アリス!」
クロードは人だかりを掻き分けてアリスの元へ辿り着くと、彼女の手を取った。
「大丈夫ですか?」
焦ったようにたずねるクロードに、アリスはにっこり笑った。
「ええ。私が一人だと思って、皆さんご親切に案内を申し出てくださっていたの」
「案内…?」
ギロリと眼光鋭く辺りを見回せば、男たちはビクリと肩をすくめた。
「気づかいありがとう。世話になりました」
「い、いえ…」
クロードに睨まれた男たちは、そそくさとその場を去った。

「すみません、一人にして」
「私なら大丈夫ですわ。どうぞ展示の続きをご覧になって」
「いや、二人で来ているのに離れて申し訳ありませんでした。それに、貴女を一人にするべきではなかった。貴女は目立ちすぎるのに…」
クロードはそう言うと唇を噛んだ。
アリスの容姿は異性を惹きつける。
それをわかっていながら放置するとは、とんだ馬鹿者である。

「またはぐれるといけないので」
小さく言い訳しながら、クロードはアリスの手を握った。
繋がれた手から熱を感じ、アリスは体中体温が上がるのを自覚していた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】呪言《ことほぎ》あなたがそうおっしゃったから。

友坂 悠
恋愛
「君はまだ幼い、私は君を大事にしたいのだ」  あなたがそうおっしゃったから。  わたくしは今までお飾りの妻でがまんしてきたのに。  あなたがそうおっしゃったから。  好きでもない商会のお仕事を頑張ってこなしてきたのに。  全部全部、嘘だったというの?  そしたらわたくしはこれからどうすればいいっていうの?  子供の頃から将来の伴侶として約束された二人。  貴族らしく、外あたりが良く温厚に見えるように育ったラインハルト。  貞淑な令嬢、夫を支えるべき存在になるようにと育てられたアリーシア。  二人は両家に祝福され結婚したはず、だった。  しかし。  結婚したのはラインハルトが18になった歳、アリーシアはまだ14歳だった。  だから、彼のその言葉を疑いもせず信じたアリーシア。  それがまさか、三年後にこんなことになるなんて。  三年間白い結婚を継続した夫婦は子を残す意思が無いものと認められ、政略的な両家のしがらみや契約を破棄し離縁できる。  それがこの国の貴族の婚姻の決まりだった。  元は親同士の契約に逆らって離縁しやり直すための決まり事。  もちろん、そんな肉体的繋がりなど無くても婚姻を継続する夫婦は存在する。  いや、貴族であれば政略結婚が当たり前、愛はなくても結婚生活は続いていく。  貴族の結婚なんて所詮そんなもの。  家同士のつながりさえあれば問題ないのであれば、そこに愛なんてものがなくってもしょうがないのかも、知れない。  けれど。  まさかそんなラインハルトから離婚を言い出されるとは思ってもいなかったアリーシア。  自分は傾いた家を立て直すまでのかりそめの妻だったのか。  家業が上手くいくようになったらもう用無しなのか。  だまされていたのかと傷心のまま実家に戻る彼女を待っていたのは、まさかのラインハルトと妹マリアーナの婚約披露。  悲しみのまま心が虚になったまま領地に逃げ引き篭もるアリーシアだったが……  夫と妹に、いや、家族全てから裏切られたお飾り妻のアリーシア。  彼女が心の平穏を取り戻し幸せになるまでの物語。

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

処理中です...