43 / 48
近づく、離れる
空から降ってきた妻
しおりを挟む
(アリス…っ!頼む、間に合ってくれ!)
クロードは全力で走った。
オーヴはたしかに『おまえの兄と』と言った。
それが、次兄ナルシスを指すのか三兄レイモンを指すのかわからないが、どちらの男もアリスに執着していたのは間違いない。
だとしたら…。
もし、彼らのうちの一人と、部屋に閉じ込められたのだとしたら…。
クロードは、ルイーズ王女の狙いがアリスの醜聞にあることを悟った。
王女はアリスをクロードから引き離すため、他の男との醜聞を利用しようとしているのだ。
(まさか、そこまでするなんて…!)
クロードは、あらためて自分の甘さを呪った。
愚かな自分のせいで、アリスが傷つけられるなど、あってはならないことだ。
(万が一アリスが傷つけられるようなことがあったら、その時は、たとえ王女でも…!)
全速力で走ってきたクロードは、ようやく旧後宮の棟に着いた。
しかしエントランスの扉は固く閉ざされ、近くに入れるような入口も無い。
これは別の棟に回り込んでから入るしかなさそうだが、それらは騎士たちがそれぞれの入口を厳重に守っているため、すぐには通してもらえないだろう。
いくら王女の護衛騎士を名乗ったとしても、騎士にはそれぞれ管轄があるのだから。
クロードは棟の裏手に回ってみた。
現在使用されていない後宮は警備も手薄で周囲には騎士の姿も見えないため、窓でもあれば破って侵入しようと思ったのだ。
(あれは…!)
クロードが後宮の裏手に回った瞬間、紐のような物がぶら下がっているのを発見した。
目線を上げると、三階辺りの窓かと思われる所から下がっていて、途中に何かヒラヒラしたものがぶら下がっている。
高さで言えば、二階より少し高いくらいの位置だ。
(まさか…!)
ドレスの裾を切ったのか白い足を剥き出しにして紐にぶら下がっている女性…、そう、それは、正しくクロードの妻アリスの姿だった。
「アリス!」
クロードはアリスの真下付近に急いだ。
その時、ビッと紐が嫌な音を立てる。
あきらかにアリスが掴んでいる辺りの紐が細くなっていて、切れそうになっているのがわかる。
(間に合ってくれ…!)
クロードがさらに全速力で走る最中にも、紐は嫌な音を鳴らし続けた。
そしてとうとう紐は耐え切れずに千切れた。
「きゃあ!!」
「アリス…!」
クロードはアリスの落下地点と思しき場所に向かって両手を広げ、突っ込んだ。
ドッ!!
一瞬の後、アリスはクロードの腕の中にいた。
クロードは落ちてくるアリスを、危機一髪受け止めたのだ。
「ああ、アリス…」
クロードはアリスをギュッと抱きしめたまま、その場に座り込んだ。
「…旦那様…?」
未だに何が起きたのかよく把握していないアリスは目を丸くしている。
「ああ、アリス、良かった…」
クロードの声が震えている。
その声と強い抱擁に、アリスはようやくクロードが落ちた自分を受け止めてくれたのだと理解した。
「旦那様、私…」
「ああ、怪我は⁈怪我はない?アリス」
「ええ……。私は大丈夫です。助けてくれて、ありがとう、旦那様」
「よかった、本当によかった…」
アリスを抱きしめる腕も声も震えているクロードに、アリスの胸には申し訳ない気持ちと、それ以上にあたたかい気持ちが広がった。
だからアリスも、クロードの首に腕を回した。
そして、彼の抱擁に負けないくらい強く、抱きついたのだ。
かくして、アリスの身体と純潔は守られた。
後にクロードはこの時のことを、『降ってきた妻』ならぬ、『舞い降りた天使』のようだったと話している。
◇◇◇
その後間も無く、別ルートでアリスを探していた王太子妃ゾフィーの騎士たちがナルシスを保護した。
王宮内で起きた事件のためアリスもいちおう王宮の医官に診察を受けたが、逃げる際についた擦り傷程度しかなかったようだ。
当然、ルイーズ王女が企てた陳腐な強姦未遂事件は国王の耳に入り、極秘で処理されることになった。
これまでも小さな騒ぎは起こしてきたお騒がせ王女ルイーズだったが、今回ばかりは王太子妃ゾフィーが激怒し、妻に同調した王太子も国王に迫り、お咎めなしというわけにはいかなかった。
ルイーズは国王に甘やかされ、何をしても許されると勘違いしていたのだろう。
結局、『こんな不出来な王女をよその国に嫁がせては国益を損ねる』との判断から、タンタル王子との縁談も解消になった。
この後ルイーズは厳しい監視の元、北の離宮に送られて再教育を受けるらしい。
ルイーズに従って悪事に手を染めたオーヴは、騎士の職を解雇された。
一歩間違えば大変なことになっていたのだから甘い処分とも取れるが、王女の命令に背くことは出来なかったのだろうという判断からだ。
しかし一概に解雇とは言っても、ずっと騎士の仕事しかしてこなかったオーヴが突然市井に放り出され、実家からも縁を切られたらしいから、これから苦難の道が待っていることは間違いない。
クロードは全力で走った。
オーヴはたしかに『おまえの兄と』と言った。
それが、次兄ナルシスを指すのか三兄レイモンを指すのかわからないが、どちらの男もアリスに執着していたのは間違いない。
だとしたら…。
もし、彼らのうちの一人と、部屋に閉じ込められたのだとしたら…。
クロードは、ルイーズ王女の狙いがアリスの醜聞にあることを悟った。
王女はアリスをクロードから引き離すため、他の男との醜聞を利用しようとしているのだ。
(まさか、そこまでするなんて…!)
クロードは、あらためて自分の甘さを呪った。
愚かな自分のせいで、アリスが傷つけられるなど、あってはならないことだ。
(万が一アリスが傷つけられるようなことがあったら、その時は、たとえ王女でも…!)
全速力で走ってきたクロードは、ようやく旧後宮の棟に着いた。
しかしエントランスの扉は固く閉ざされ、近くに入れるような入口も無い。
これは別の棟に回り込んでから入るしかなさそうだが、それらは騎士たちがそれぞれの入口を厳重に守っているため、すぐには通してもらえないだろう。
いくら王女の護衛騎士を名乗ったとしても、騎士にはそれぞれ管轄があるのだから。
クロードは棟の裏手に回ってみた。
現在使用されていない後宮は警備も手薄で周囲には騎士の姿も見えないため、窓でもあれば破って侵入しようと思ったのだ。
(あれは…!)
クロードが後宮の裏手に回った瞬間、紐のような物がぶら下がっているのを発見した。
目線を上げると、三階辺りの窓かと思われる所から下がっていて、途中に何かヒラヒラしたものがぶら下がっている。
高さで言えば、二階より少し高いくらいの位置だ。
(まさか…!)
ドレスの裾を切ったのか白い足を剥き出しにして紐にぶら下がっている女性…、そう、それは、正しくクロードの妻アリスの姿だった。
「アリス!」
クロードはアリスの真下付近に急いだ。
その時、ビッと紐が嫌な音を立てる。
あきらかにアリスが掴んでいる辺りの紐が細くなっていて、切れそうになっているのがわかる。
(間に合ってくれ…!)
クロードがさらに全速力で走る最中にも、紐は嫌な音を鳴らし続けた。
そしてとうとう紐は耐え切れずに千切れた。
「きゃあ!!」
「アリス…!」
クロードはアリスの落下地点と思しき場所に向かって両手を広げ、突っ込んだ。
ドッ!!
一瞬の後、アリスはクロードの腕の中にいた。
クロードは落ちてくるアリスを、危機一髪受け止めたのだ。
「ああ、アリス…」
クロードはアリスをギュッと抱きしめたまま、その場に座り込んだ。
「…旦那様…?」
未だに何が起きたのかよく把握していないアリスは目を丸くしている。
「ああ、アリス、良かった…」
クロードの声が震えている。
その声と強い抱擁に、アリスはようやくクロードが落ちた自分を受け止めてくれたのだと理解した。
「旦那様、私…」
「ああ、怪我は⁈怪我はない?アリス」
「ええ……。私は大丈夫です。助けてくれて、ありがとう、旦那様」
「よかった、本当によかった…」
アリスを抱きしめる腕も声も震えているクロードに、アリスの胸には申し訳ない気持ちと、それ以上にあたたかい気持ちが広がった。
だからアリスも、クロードの首に腕を回した。
そして、彼の抱擁に負けないくらい強く、抱きついたのだ。
かくして、アリスの身体と純潔は守られた。
後にクロードはこの時のことを、『降ってきた妻』ならぬ、『舞い降りた天使』のようだったと話している。
◇◇◇
その後間も無く、別ルートでアリスを探していた王太子妃ゾフィーの騎士たちがナルシスを保護した。
王宮内で起きた事件のためアリスもいちおう王宮の医官に診察を受けたが、逃げる際についた擦り傷程度しかなかったようだ。
当然、ルイーズ王女が企てた陳腐な強姦未遂事件は国王の耳に入り、極秘で処理されることになった。
これまでも小さな騒ぎは起こしてきたお騒がせ王女ルイーズだったが、今回ばかりは王太子妃ゾフィーが激怒し、妻に同調した王太子も国王に迫り、お咎めなしというわけにはいかなかった。
ルイーズは国王に甘やかされ、何をしても許されると勘違いしていたのだろう。
結局、『こんな不出来な王女をよその国に嫁がせては国益を損ねる』との判断から、タンタル王子との縁談も解消になった。
この後ルイーズは厳しい監視の元、北の離宮に送られて再教育を受けるらしい。
ルイーズに従って悪事に手を染めたオーヴは、騎士の職を解雇された。
一歩間違えば大変なことになっていたのだから甘い処分とも取れるが、王女の命令に背くことは出来なかったのだろうという判断からだ。
しかし一概に解雇とは言っても、ずっと騎士の仕事しかしてこなかったオーヴが突然市井に放り出され、実家からも縁を切られたらしいから、これから苦難の道が待っていることは間違いない。
174
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】呪言《ことほぎ》あなたがそうおっしゃったから。
友坂 悠
恋愛
「君はまだ幼い、私は君を大事にしたいのだ」
あなたがそうおっしゃったから。
わたくしは今までお飾りの妻でがまんしてきたのに。
あなたがそうおっしゃったから。
好きでもない商会のお仕事を頑張ってこなしてきたのに。
全部全部、嘘だったというの?
そしたらわたくしはこれからどうすればいいっていうの?
子供の頃から将来の伴侶として約束された二人。
貴族らしく、外あたりが良く温厚に見えるように育ったラインハルト。
貞淑な令嬢、夫を支えるべき存在になるようにと育てられたアリーシア。
二人は両家に祝福され結婚したはず、だった。
しかし。
結婚したのはラインハルトが18になった歳、アリーシアはまだ14歳だった。
だから、彼のその言葉を疑いもせず信じたアリーシア。
それがまさか、三年後にこんなことになるなんて。
三年間白い結婚を継続した夫婦は子を残す意思が無いものと認められ、政略的な両家のしがらみや契約を破棄し離縁できる。
それがこの国の貴族の婚姻の決まりだった。
元は親同士の契約に逆らって離縁しやり直すための決まり事。
もちろん、そんな肉体的繋がりなど無くても婚姻を継続する夫婦は存在する。
いや、貴族であれば政略結婚が当たり前、愛はなくても結婚生活は続いていく。
貴族の結婚なんて所詮そんなもの。
家同士のつながりさえあれば問題ないのであれば、そこに愛なんてものがなくってもしょうがないのかも、知れない。
けれど。
まさかそんなラインハルトから離婚を言い出されるとは思ってもいなかったアリーシア。
自分は傾いた家を立て直すまでのかりそめの妻だったのか。
家業が上手くいくようになったらもう用無しなのか。
だまされていたのかと傷心のまま実家に戻る彼女を待っていたのは、まさかのラインハルトと妹マリアーナの婚約披露。
悲しみのまま心が虚になったまま領地に逃げ引き篭もるアリーシアだったが……
夫と妹に、いや、家族全てから裏切られたお飾り妻のアリーシア。
彼女が心の平穏を取り戻し幸せになるまでの物語。
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる