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回想、オレリアン
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セリーヌとは、俺が下っ端騎士の頃に出会ってからの付き合いだ。
彼女が乗っていた馬車が脱輪して困っているところに偶然通りかかり手助けした、というなんともベタな出会いだった。
彼女は少々気が強いが明るく朗らかな人で、俺はそんな彼女に惹かれ、かなり早い段階で結婚を決意したように思う。
彼女も俺を好いてくれ、俺たちは上手くいっていたのだ、あの頃までは。
伯爵家を継いで忙しくなった俺だが、それでも忙しい中都合をつけてなんとかセリーヌに会う時間を作っていた。
だが、彼女には物足りなかったらしい。
彼女からしてみれば、会いたい時に会えず、しかもなかなか結婚を言い出さない俺に焦れていたのだろう。
とにかく、義父の喪が明けるまでは色々待って欲しいとばかり言っていたから。
それに、俺の義母になった元伯爵夫人カレンは、セリーヌが男爵家の娘であることに難色を示していた。
不釣り合いだなどともっともらしい理由をつけてはいたが、ただ俺を自分の元に囲いたかっただけかもしれないが。
セリーヌに会えば嫌味を言ったり嫌がらせをし、彼女の両親をも貶めるようなことを平気で言っていたらしい。
そして、義母と俺が、まるで男女の関係であるかのようなことも匂わせながら。
その頃から、セリーヌは会えば俺を問い詰めた。
彼女からすれば当然の権利であるが、身に覚えのない俺は彼女の勘ぐり過ぎと一笑に付した。
仲を疑われることさえ、忌々しいと思っていたから。
だが、そんな俺の態度も、セリーヌにとっては気に入らなかっただろう。
不満が溜まったセリーヌは会うたびに俺に当たり、彼女はいつからか俺の中で、愚痴っぽく、気の短い女性になっていった。
騎士団にいながら伯爵家の仕事を覚えるだけでも大変なのに、義母を避け、恋人を宥め、2人の仲を仲裁し、俺の神経も磨り減っていたのだ。
だから、自分で思うより周りが見えていなかったのかもしれない。
かなりのスピードで、歯車は狂い始めていたのに。
義父が亡くなって半年過ぎた頃からだったか…、騎士団の友人から、セリーヌに浮気の噂があると聞かされた。
相手は俺の友人でもあったから悪い冗談だとその時は聞き流したのだが、その後しばらくしてセリーヌから別れを切り出され、俺は噂が真実だったことを知った。
相手は俺の友人でもあり、商売を手広くやっている裕福な子爵家の嫡男だった。
俺とセリーヌを別れさせたかった義母は、俺に隠れて色々画策していた。
昔の男…、それも高位の貴族を使って、彼女と彼女の両親、そして友人の家に、縁談を持ち込ませたのだ。
名のある貴族の紹介なら無碍には出来ないし、セリーヌの両親も、相手が裕福な家なら反対はしない。
寧ろ、義母という厄介な小姑がいる俺よりよっぽど条件がいいと乗り気になったらしい。
最初は反発していたセリーヌも、俺への疑心暗鬼から不満や切ない想いをその男に相談するうち、だんだんと気を許すようになっていったようだ。
それにつれて、俺への気持ちも薄れていく。
男の方は以前からセリーヌに少なからず好意を持っていたようだが、今までは友人の恋人だからと必要以上に近づかないようにしていたらしい。
だが、きちんと持ち込まれた縁談であるなら話は別だ。
最初は俺に遠慮する気持ちもあったのだろうが、彼女と会ううちそんな罪悪感はだんだんと薄れていったと言う。
別れ話の席に彼も同席し、2人からそんな話を聞かされた。
もう完全に、セリーヌは彼との未来を見ていた。
口を挟む余地はなく、言い訳も、謝罪も、聞いてはもらえなかった。
最早、2人を責める気さえ起きなかった。
それまで自分の周りで何が起きているかもわからず、愚かにもただ恋人を信じていた俺は、呆然とするしかなかったのである。
俺はたしかに彼女を愛していた。
彼女も俺を愛していると思っていた。
騎士として功績を挙げたかったのも、義父の養子に入ったのも、セリーヌと結婚したかったからだった。
彼女はそんな俺を信じて待ってくれているとばかり思っていた。
彼女との小さなすれ違いなど、仕事や勉強が一段落すればなんとでもなると思っていたのだ。
『待て待てってそればかり。
貴方を待ってるうちに、私はおばあさんになっちゃうわ』
別れ話をされた時、彼女にそんなことも言われた。
結局は、裏で義母が小細工しようと、彼女の気持ちが離れていったのは俺自身に問題があったのだろう。
恋を失った俺は、それまで以上に仕事に没頭した。
義母はさらに鬱陶しくなったが、元伯爵夫人で現在もいちおう伯爵家の女主人である義母を簡単に追い出すことは出来ない。
だが、俺がもっと力をつけて名実共に伯爵家の当主になったら…。
そうして騎士の仕事と領地経営に没頭していた俺に突然縁談が降って湧いたのは、セリーヌと破局して3ヶ月も経たない頃だった。
彼女が乗っていた馬車が脱輪して困っているところに偶然通りかかり手助けした、というなんともベタな出会いだった。
彼女は少々気が強いが明るく朗らかな人で、俺はそんな彼女に惹かれ、かなり早い段階で結婚を決意したように思う。
彼女も俺を好いてくれ、俺たちは上手くいっていたのだ、あの頃までは。
伯爵家を継いで忙しくなった俺だが、それでも忙しい中都合をつけてなんとかセリーヌに会う時間を作っていた。
だが、彼女には物足りなかったらしい。
彼女からしてみれば、会いたい時に会えず、しかもなかなか結婚を言い出さない俺に焦れていたのだろう。
とにかく、義父の喪が明けるまでは色々待って欲しいとばかり言っていたから。
それに、俺の義母になった元伯爵夫人カレンは、セリーヌが男爵家の娘であることに難色を示していた。
不釣り合いだなどともっともらしい理由をつけてはいたが、ただ俺を自分の元に囲いたかっただけかもしれないが。
セリーヌに会えば嫌味を言ったり嫌がらせをし、彼女の両親をも貶めるようなことを平気で言っていたらしい。
そして、義母と俺が、まるで男女の関係であるかのようなことも匂わせながら。
その頃から、セリーヌは会えば俺を問い詰めた。
彼女からすれば当然の権利であるが、身に覚えのない俺は彼女の勘ぐり過ぎと一笑に付した。
仲を疑われることさえ、忌々しいと思っていたから。
だが、そんな俺の態度も、セリーヌにとっては気に入らなかっただろう。
不満が溜まったセリーヌは会うたびに俺に当たり、彼女はいつからか俺の中で、愚痴っぽく、気の短い女性になっていった。
騎士団にいながら伯爵家の仕事を覚えるだけでも大変なのに、義母を避け、恋人を宥め、2人の仲を仲裁し、俺の神経も磨り減っていたのだ。
だから、自分で思うより周りが見えていなかったのかもしれない。
かなりのスピードで、歯車は狂い始めていたのに。
義父が亡くなって半年過ぎた頃からだったか…、騎士団の友人から、セリーヌに浮気の噂があると聞かされた。
相手は俺の友人でもあったから悪い冗談だとその時は聞き流したのだが、その後しばらくしてセリーヌから別れを切り出され、俺は噂が真実だったことを知った。
相手は俺の友人でもあり、商売を手広くやっている裕福な子爵家の嫡男だった。
俺とセリーヌを別れさせたかった義母は、俺に隠れて色々画策していた。
昔の男…、それも高位の貴族を使って、彼女と彼女の両親、そして友人の家に、縁談を持ち込ませたのだ。
名のある貴族の紹介なら無碍には出来ないし、セリーヌの両親も、相手が裕福な家なら反対はしない。
寧ろ、義母という厄介な小姑がいる俺よりよっぽど条件がいいと乗り気になったらしい。
最初は反発していたセリーヌも、俺への疑心暗鬼から不満や切ない想いをその男に相談するうち、だんだんと気を許すようになっていったようだ。
それにつれて、俺への気持ちも薄れていく。
男の方は以前からセリーヌに少なからず好意を持っていたようだが、今までは友人の恋人だからと必要以上に近づかないようにしていたらしい。
だが、きちんと持ち込まれた縁談であるなら話は別だ。
最初は俺に遠慮する気持ちもあったのだろうが、彼女と会ううちそんな罪悪感はだんだんと薄れていったと言う。
別れ話の席に彼も同席し、2人からそんな話を聞かされた。
もう完全に、セリーヌは彼との未来を見ていた。
口を挟む余地はなく、言い訳も、謝罪も、聞いてはもらえなかった。
最早、2人を責める気さえ起きなかった。
それまで自分の周りで何が起きているかもわからず、愚かにもただ恋人を信じていた俺は、呆然とするしかなかったのである。
俺はたしかに彼女を愛していた。
彼女も俺を愛していると思っていた。
騎士として功績を挙げたかったのも、義父の養子に入ったのも、セリーヌと結婚したかったからだった。
彼女はそんな俺を信じて待ってくれているとばかり思っていた。
彼女との小さなすれ違いなど、仕事や勉強が一段落すればなんとでもなると思っていたのだ。
『待て待てってそればかり。
貴方を待ってるうちに、私はおばあさんになっちゃうわ』
別れ話をされた時、彼女にそんなことも言われた。
結局は、裏で義母が小細工しようと、彼女の気持ちが離れていったのは俺自身に問題があったのだろう。
恋を失った俺は、それまで以上に仕事に没頭した。
義母はさらに鬱陶しくなったが、元伯爵夫人で現在もいちおう伯爵家の女主人である義母を簡単に追い出すことは出来ない。
だが、俺がもっと力をつけて名実共に伯爵家の当主になったら…。
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