屋根裏の魔女、恋を忍ぶ

如月 安

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第一部

第57話 直談判

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「……は?……アリスタというと、あの、令嬢とよく一緒にいる、若いメイドですか?」

 暫く沈黙が流れたあと、怪訝な声が届く。

 俯いたまま、頷く。

「……はい、あの日……わたくしは公爵様と姉との晩餐に遅れました。ホールに遅れて入った時、公爵様と姉はもうお食事を始めていらっしゃいました。
 覚えていらっしゃいますか? あの、海老とキャビアとハーブの前菜です。彩りが、とても綺麗でした。
 お二人をお待たせしてはいけないと思い、わたくしは、前菜には手を付けませんでした。
 毒は、あの前菜の皿に入っていました」

 ウェイン卿は、静かに頷いた。あの日のことを思い出しているのだろう。

「あの日は……帽子を、取りに戻ったのです。以前お尋ねになられた、顔を隠す理由ですが、……わたくしが五つになった時、父は言いました。これから先、決して、この髪と瞳を人に見せてはならないと。……わたくしは、父の娘ではないからです。両親は共に、ブランシュと同じ美しい金髪でした。それなのに、この髪は黒いのです。
 わたくしの存在は、伯爵家に醜聞を呼び、汚名となるので、これから一生、誰とも関わらず、隠れて暮らすように、父は命じました。
 そして、最近まで、それを守って生きてきました」

 ウェイン卿の目が見開かれたが、もういいや、という気持ちだった。

 わたしは伯爵令嬢ですらなかった。きっと、騙されたと思われたと思う。それとも、それほど驚いていないところを見ると、薄々勘付かれていたのだろうか。

 ――でももう、どっちだっていい。

 もうすぐ、何もかも終わるのだから――


「……その日の夜、公爵様と姉は、中毒で苦しまれました。
 わたくしには、その時はどうして、そんなことになったのか、さっぱりわかりませんでした。
 でも、後になって、アリスタが、その日にあったことを詳しく話してくれて、気付きました。
 あの日、料理人たちは目が回るほど忙しく、手が足りていなかったそうです。
 後になって思えば、わたくしが急に晩餐に出るなどと言ってしまったのが、いけなかったのでしょう」

 あの日、モーリーはたまたま通り掛かったアリスタに命じた。

『ちょっと畑まで行って、彩りや風味付けに良さそうな香草を見繕って、何種類か取ってきてくれ』

  薄暗い中、菜園に出たアリスタは、門をくぐってきた公爵の一団に気を取られながら、命じられた通り、ハーブを適当に見繕って摘んだ。

 同じ日の早朝、わたしは庭の片隅に広がり群生している水仙を見た。
 こんなにあるなら、一輪くらい構わないだろうと、部屋に飾るため一輪手折り、窓際に飾ったから、よく覚えている。


 ―――そのすぐ隣に、菜園があったことも。


「……アリスタは、ハーブと間違えて……猛毒のリコリンを含む、水仙の葉を摘んでしまったことなど、自分でも知りませんでした。
 今でも、気付いてはいません。水仙の葉は、香草とほとんど見分けがつきませんから」

 公爵とウェイン卿が交わしていた、わたしを始末するという恐ろしい話を聞いた時、もしかしたら、これはアリスタが犯した失敗かもしれない、と薄々思っていた。

 ――夜明け前。

 嵐の過ぎ去った後の菜園で、わたしは見た。セージやリーキに混じって、切り取られた水仙の葉。アリスタが間違えて摘んでしまったのだと、わかった。

 公爵とウェイン卿は、わたしだけを疑っている。他の容疑者の名は、一人も上がっていなかった。

 ――それなら、やるべきことはひとつしかない。

 このまま、わたしを疑わせておけばいい。

 わたしが疑われている間は、アリスタに疑いの目は向かない。

「……ですから、アリスタのしてしまったことが誰にも知られないよう、嵐の去ったあと、まだ土の緩んだ庭に行き、増えすぎて菜園にまで生えた水仙を全部、球根から掘り出しました」

 菜園に生えた水仙の証拠は、わたしが消した。

 嵐によって泥濘み、緩んだ土は柔らかく、非力なわたしにも簡単に掘ることができた。
 水仙はもうないのだから、同じ間違いは、もう起きない。
 黙っていても、問題はない。

 誰もが、わたしを疑っている。
 疑いの目を自分に向けたまま、上手く隠れて逃げ延びれば、何もかも上手く行く。その時は、それしかないと思った。


 ウェイン卿は眉を顰めていたが、黙ったままだった。
 最後に、どうしても聞いてもらいたい頼みがあった。

「それで……それで、ウェイン卿に、お願いがあります」

 ウェイン卿の顔を見上げると、意外にも、いつもの冷たく怒っているような目をしていなかった。絶対に激怒すると思っていたのに。

「はい」

「アリスタは……まだ十四歳で、お父様と妹さんはご病気で、ここを辞めさせられたら、ご家族の暮らしは成り立たず、生きていけないのだと言っていました。
 公爵様に誤ってとはいえ毒を盛ってしまった者とその家族を、もう雇ってくれる者はいないでしょう。これが明るみになったら、アリスタとご家族はお終いです」

 公爵の冷たい声が、頭の中で響く。

『どんな事情があろうとも、僕に毒を盛ったやつには、必ず報いを受けさせる』


 ――アリスタだけが、悪いんじゃない。


 水仙だと見抜けず、料理に入れたモーリーも、菜園にまで水仙を生やしたままにしていた庭師達にも咎はある。

『父さんと妹のステラの薬代が高くて、こうなったら、もう娘を身売りするしかない、って言ってたんですけど――』

 だけど、確かなことは、これが発覚したら、アリスタは屋敷を頸になる。
 紹介状だって、書いてもらえないだろう。王位継承権を持つ人に毒を盛ってしまったのだ。もう、まっとうな仕事には就けない。妹のステラと父親の薬代は払えなくなる。

 そうして、困窮のあまり、アリスタはクルチザン地区の店に売られるのだ。アリスタと両親と六人の弟妹、九人もの善良な人達を地獄に突き落とすことになる。

 ――そんなことだけは、させられない。


「ですから……わたくしが毒を入れたことにして、わたくしを始末して、それで、お終いにしていただきたいのです」


 どうせもう、嘘は通じない。
 それなら、全て打ち明けた上で、交渉した方がいい。
 これは、誰も損をしない話なのだから。


  ――わたしは、生きたい。


 今も、その気持ちに変わりはない。

 だけど、アリスタは恩人だ。
 あの深くて暗い、救いのない孤独の世界から連れ出してくれた、優しい友達。

 あの時、熱に浮かされて意識を失い、辿り着いた光の先でさえ、わたしはひとりぼっちだった。
 澄んだ川底に映る元いた世界では、ブランシュ以外、誰も悲しんではくれなかった。
 それは、今もきっと、大して変わらない。
 だけど、違うこともある。


 川面を覗いたその先で、アリスタが笑っている。


 わたしもそれを見て、微笑むことができる。

 それなら、それは、それほど悪くないように思えた。


 ウェイン卿は、何も言わなかった。
 長い沈黙に耐えきれず、おそるおそる顔を上げた。
 見開かれたウェイン卿の瞳は赤く煌めいて、震えるほどの感情が満ちていた。

「……は? 何を言って……? 俺が、そんなことを、するわけが……」

 やっぱり、怒らせてしまったか、と思う。
 ウェイン卿が「俺」と言っているのを初めて聞いた。
 
 それほど、怒らせたということだろう。

 それはそうだろう。とんでもないことを言っているとわかっている。

 けれど、他に方法などあるだろうか。
 公爵が毒を盛られたら、誰かが責任を取らなければならない。


 ――ならばそれは、わたしがいい。


 わたしがいなくなっても、誰も困らないのだから。

 昂る感情を湛えた赤い瞳から、目を逸らす。
 自分でも不思議なことに、頭は熱くなっているようで、冷えているようでもあった。

「するわけがない、なんて、仰らないでしょう? グラミス伯爵夫人の馬車があの場所で停まっていなければ、あの日、わたくしを始末なさって、終わりになる筈だったではないですか」
 
 言った途端、ウェイン卿が息を呑んだ気配がした。

 わたしは、気の弱い自分が、大嫌いだった。

 何も言い返せず、人の言いなりになってばかり。

 ――だけど、これだけは。

 絶対に譲れない。

「嵐の夜、言っていらしたではありませんか。公爵様とお二人で、きっとわたくしが毒を入れたのだと。『毒を入れた者が誰で、どんな事情があろうとも、生まれてきたことを後悔させる』と。わたくしのような妹は、ブランシュの為にはいない方が良いから、ドブネズミを始末すると」

『もっと欲を張ったって、良かったんだよ』

 あの時、あの老人は言った。

 ここで欲を張らず、どこで張る場所があるだろう。

 ずっと人の言うことを聞いて、ずっと流されて生きてきた。

 だけど、ここだけは。

 ウェイン卿の怒りをどれだけ買ったとしても、わたしは引くつもりはなかった。

 アリスタだけは、傷付けさせたりしない。

「ウェイン卿にとっても、公爵様にとっても、それが最良の結末でしょう?……本当は、真実なんてどうでも良かったのですから」

 公爵とブランシュが毒を盛られたことを、王都で知らない者はいない。人の口に戸は立てられない。使用人の誰かが話したのか、新聞にまで載ってしまった。

「誰もが、犯人はリリアーナだと噂しています。騎士団団長が毒を盛られたのに何もしなければ、沽券に関わります。
 だから、わたくしを消して、噂を立てようと思われたのですよね。
 必要もないのに、四人もの騎士を差し向け、紋章付きの馬車に乗せたのは、その為でしょう?
 若いメイドのちょっとした間違いだったというよりも、リリアーナ・ロンサールが人知れず消える方が、世間は喜ぶでしょう?
 その方が、公爵様とウェイン卿にとっても――」

 都合が良いでしょう? と言おうとして、顔を上げ、言葉を失った。

 ウェイン卿の顔は、信じられないくらい真っ青で、その上、まるで、まるで……


 ――途方に暮れているみたい……


 悲しそうにすら見えるその顔を見て、途端に後悔の波が、胸に押し寄せた。
 
(……困らせるつもりなんて、なかったのに……)

 ――なぜ、わたし一人を消すために、四人もの騎士が必要だったのか、ずっとずっと、不思議だった。でも、公爵の顔を見て話している時、気が付いた。


 あえて、のだ。


 でも、グラミス伯爵夫人に見られてしまったような、はっきりした証拠を残してはいけない。万が一、真実が別のところにあった場合、それが明るみになると困ることになる。

『ロンサール伯爵邸の裏口から、第二騎士団の連中が取り囲んだ騎士団の馬車が、ひっそりと出て行ったらしい』

『その日から、魔女の姿が見えなくなったってさ』

『リリアーナ・ロンサールが、ノワゼット公爵に毒を盛ったらしいよ』

『ああ、それで……』

 そんな噂が広まれば、ノワゼット公爵に敵対しようとする者は、きっと恐れをなす。公爵を傷付ければ、報復を受けることになると、誰もが思うだろう。

 そんな噂を立てたいなら、今からだって遅くはない。当のわたしが協力すると言っているのだから、何の問題もない……はず、だったのに。

 ――それなのに、どうして、悲しい顔をするの?

 わたしのことが、嫌いでしょう?
 ついさっき、冷たく蔑んだ目をしてわたしを見下ろしていたでしょう?

 アリスタを助けられて、この人の手柄にもなる、むしろ、喜ばれるだろうと思った。


 だけど、どこかで、何か、間違えたのだ。

 
「……あの、無理を言って、申し訳ありませんでした。お忘れください。直接、公爵様にお願いしますから――」

 屋敷に戻ろうと立ち上がった途端、突然、手首を掴まれた。

 驚いて見上げると、ウェイン卿の顔はかつてないほど蒼褪めて、その唇は震えていた。

「……俺は……」


 その時、思ってもみない方向から、鋭い声が響いた。


「ウェイン卿、妹から、リリアーナから離れてください」


 ぎょっとして見上げると、ブランシュが蒼白な顔をして、二階のバルコニーからわたしたちを見下ろしていた。



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