風呂上がりの姫君

佐々木猫八

文字の大きさ
25 / 39

そういう対象になるようで

翌朝、ルーは早くに目が覚めた。
のどが渇いたが、丁度水差しの水が無く、まだミドルたちも活動していない時間であった。
そのためルーはさっと着替え、水差しを持ってそっと部屋を出る。
2階は一般客が止まっているようで、それでもまだこの時間は誰も活動していないようで静かだった。
さらに下へと階段を降りると、宿の受付が見えた。
水差しを手にしたまま受付へと近寄ろうとして、従業員らしき男性に呼び止められる。

「おい、その水差しは上客室のものだろう?持ち出しは禁止されてるのをしらないのか?全く、お前新人だろ?こっちに来い」
「えっ」
「ほら、受付に見られたら大目玉だぞ!いいから来い!」
「えっ、ちがっ」

ルーは見知らぬ男に腕を引かれ、従業員用の通路へと引き込まれる。
ぐいぐいと引かれ、ある小部屋に押し込まれる。
男はため息を付くと、ルーに向き合う。

「上客室の水差しは魔法で補充する決まりなんだ。魔力石で呼ばれた職員が行くはずなんだが?」

そう言われて、宿のご主人が魔石に魔力を込めたら従業員が来ると言っていたのを思い出す。
そういう宿は初めてだったので、ルーはすっかり言われた事を忘れていた。

「水差しに水が無くなっていたので慌てて・・・」
「持ってきちまったのは仕方ない、水差しをこっちに向けろ」

言われルーは慌てて水差しを男に向ける。

「ウォーター」

すると水差しが澄んだ水で満たされる。

「す、すごい!」

水で満たされた水差しを目を丸くして見ているルー。
男は気を良くしたのか、立ち去らずにルーに話しかける。

「俺は上級従業員だからな、風魔法も得意なんだ、ほら」

そういうと「ウィンド」と言うと、ルーの前髪がふわりと凪いだ。

「わわっ!」
「ははは、お前面白いな。この宿のやつは大抵が何か魔法が使える職員ばかりなのに」
「えっ、そうなんですか」
「は?それも知らないのか?じゃあ今日来るって言ってた奴隷従業員ってお前のことか」

男はルーを値踏みするように見始める。

「まあ、見栄えはいいから将来は一般客室を受け持たせるのもありか」
「?」
「にしても、その格好。シャツとズボンだけで宿を彷徨くなんて、お前は止めておけ。襲われるぞ?」
「?お金は持ってませんよ?」
「いや、そうじゃなくてだな」
「??」

男の言う襲われるは、どうやら金品目的というものではないようでルーは戸惑う。

「奴隷使用人は主以外にも、指定した人間の言うことは絶対だ。ここは良心的な宿だし、宿泊客も選んで泊めているからそうそう問題はないと思うけど・・・この成りだとなぁ」
「??俺に問題があるのですか?」
「貴族様は男でもお好みってやつがいるから。まあ貴族に限らずそういうのを性的対象に見てるやつは居るんだよ」
「せ、い的対象・・・」
「自分が男だからって油断してると痛い目みるからな。気をつけろよ?」
「はい、ご忠告有難うございます」
「喋り方は合格点だな。さあ、水が温くなる前に部屋へ届けよう」

男はそういうと、部屋を出て従業員通路を進む。
奥には少し開けた場所があり、そこには位置断高くなった台座が置かれていた。
男は迷いなくその台座の上に乗るとルーを引っ張り上げる。
足元には複雑な文様が描かれておいた。


「水差しをしっかり抱えておけよ、ワープ」

すると模様が光ったかと思ったのは一瞬で、特に先ほどと変わった様子は見られなかった。

「??」

何が起こったのか解らなかったルー。

「はは、これは上級職員だけが使える階移動の魔法陣だ。俺と一緒なら使えるから、困ったことがあれば言えよ。さあ部屋へ行こう」

部屋を出て、従業員通路を進み、ルーの出た部屋の直ぐ側へと辿り着く。
そこには執事服をしっかりと着たミドルと、なぜか宿の主人のマーニアさんが部屋の前に居た。
二人は近づく俺達を見つけ声を上げる。

「ルー様!!」

駆け寄ってるく二人の姿に、上級職員の男はぎょっとした顔をするが、直ぐに通路の端により礼をして頭を下げた。

「ルー様、一体お一人でどちらに」
「すみません、ミドルさん。喉が乾いたのですが水差しの水が無くなって、頂きに行っていました」
「そういう時は、遠慮なさらず仰って下さい。ご主人様も心配しておられます」

こんなに焦ったミドルさんは初めてで、ルーは申し訳なくなる。

「そこにいるのはライルだな。どうしてルー様と一緒に?」
「はい主様、1階の受付近くでお一人でおられました所に私めが声を掛けた次第でございます」
「あの、この方に水を補充して頂いたのです」
「そうでございましたか、ライル、良くルー様を保護した。報奨を出すので後で執務部屋に来るように」
「はっ、ありがとうございます」
「職場に戻れ」

そう言われライルは深く頭を下げると、従業員通路の方へと戻っていった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

戦場の黒猫は騎士団長に拾われる

天気
BL
本編完結済みです! サイドストーリーを書いていきます。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

【完結】オメガの俺はご迷惑になるので、あなたとは距離を置きます

.mizutama.
BL
「あなたを守るために、他の男の番になります」 騎士団でベータとして生きてきたエルヴェは、ある日突然、オメガとして発情する。 エルヴェを救ったのは、婚約者を持つ最高位アルファの騎士・ロランだった。 決して許されない秘密の関係。 それでも、エルヴェはロランとの関係を手放せなかった。 だが、すべては暴かれ、エルヴェに与えられた選択肢は一つ。 ――ほかのアルファの契約番になること。 「最後にもう一度だけ、逢いたい」 嘘で始まった最後の逢瀬が―ー運命を狂わせる。 (短編です)

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

【BLーR18】箱入り王子(プリンス)は俺サマ情報屋(実は上級貴族)に心奪われる

奏音 美都
BL
<あらすじ>  エレンザードの正統な王位継承者である王子、ジュリアンは、城の情報屋であるリアムと秘密の恋人関係にあった。城内でしか逢瀬できないジュリアンは、最近顔を見せないリアムを寂しく思っていた。  そんなある日、幼馴染であり、執事のエリックからリアムが治安の悪いザード地区の居酒屋で働いているらしいと聞き、いても立ってもいられず、夜中城を抜け出してリアムに会いに行くが……  俺様意地悪ちょいS情報屋攻め×可愛い健気流され王子受け