砂漠と鋼とおっさんと

ゴエモン

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ブラッククィーン編

永遠に美しく

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 そして、連れてこられたのは予想通り『万魔殿』であった。

 
 「ここさ、なんでこんなおどろおどろしい名前なの?」

 「それは、ジョドーさんに聞いてみたら?」

 何故か手を引かれ、中に入る。良い歳こいて少し照れてしまう。
 
 「ジョドーさんこんばんはー」
 
 「これは錫乃介様、ようこそ万魔殿へ」

 「いきなりでなんだけど、なんでここ万魔殿って言うの?」

 「これはこれは、唐突ですね。では、お答えする前にどうぞお座りになって下さい。クラリス様も、ささ」
 
 「ええ」

 「俺、ビール。クラリスはブラックベルベットかな?」

 「いいえ、私はシャンパンにカルヴァドスを垂らした物をいただくわ」

 「聞いたことないカクテルだな」

 「でしょ、この前知り合った素敵な殿方に教えてもらったの」

  ふふっ、と歯に噛む様な笑顔を垣間見せるクラリス。

 「そうか、そりゃ嫉妬しちゃうな」


 にゃろー、やるじゃねーか。


 お待たせ致しました。

 同時にカルヴァドスの入ったシャンパンと、細長く背の高いピルスナーグラスにはいったビールが出てくる。


 「何に乾杯?」
 「君の瞳に映る僕に乾杯」
 「ふふ、なんのセリフ?」
 「好きなアニメから」
 「….そう、アニメ…ね。それじゃあ私も。貴方の瞳に映る私に乾杯、ふふ」  


 2人はグラスを上げるだけの乾杯をする。


 「んで、屋号の由来って?」

 「大した事ではありませんよ、人を悪魔になぞらえて、悪魔の集う店という事で命名しただけですよ。別に本当に悪魔が出入りしてる訳ではありませんので」

 「信徒ってのは?」

 「それもジョークの様なものですよ。ただ会員じゃつまらないので、悪魔の信徒と」

 某テーマパークがスタッフと呼ばず、キャストって言うみたいかもんか。

 「いや~てっきり悪魔崇拝のお店かと思いましたよ」

 「それなら私が悪魔教の教祖かしら?」

 「悪魔の様に魅惑的だから適役だな」


 それなら、と呟きクラリスは錫乃介に向かって、ずいっと身を乗り出し顔を近づけ、右手を錫乃介の頬に当ててくる。

 
 「悪魔の誘惑で、信徒にしてあげようかしら…」
 

 おもむろな動きだったが、錫乃介は交わすことも出来ずにされるがままだ。
 背筋がゾッと痺れるほどの美しい顔が間近にせまる。武士もののふの心を溶かすであろう艶やかな唇。その両眼の眼差しは猛獣を射抜くつもりか。
 金縛りに合う感覚の錫乃介だが、精一杯の抵抗を試みる。

 「おいおい手加減してくれよ、おじさんドンドン泥沼に沈んでっちゃうよ」

 右手はそのまま顔を撫で、額に到達すると、チョンとつつくと、クスッと笑う。

 「じゃあ、これくらいにしといてあげる」
 
 
 錫乃介は余裕の態度を見せながらも、心の中で深く深く、息を吐いた。
 

 ほんっとーに男を手玉にとる方法を熟知してやがるな。時には淑女のように、時には穢れを知らない少女の様に、時には経験豊かな娼婦のように、か。
 あっぶねー女。


 残っていたビールを飲み干し、間を作って体勢を立て直す。

 
 「あのさ、さっきも言ったけど、今日何も食べて無いんだよ。だからなんか食べていい?」

 「私も何か食べたいな」

 「ってな訳でジョドーさん。今日は何がありますか?後そこのウシュクベをソーダで」

 (ウシュクベとは!とっても美味しいウイスキーである!『ウシュクベさえあれば、悪魔もなにするものぞ』という詩があるくらいだ!ちょっとだけ高いぞ!)


 「本日はデミブルのローストビーフがありますので、分厚くスライスしたものをサッと焼き、青カビチーズのソースで召し上がるのはいかがでしょうか?付け合わせはキノコのぺーストとマッシュポテトを和えた物を、フリットにしたものです」

 「パーフェクトじゃ無いですかジョドーさん。いただきます。それと一緒に濃いめの赤を」

 「かしこまりました。少しお待ちを」

 
 オーダーを取りながらも、作られていたウシュクベを頂く。

 あ~、美味い。

 
 「錫乃介さん。さっきキザなセリフおっしゃった時に言った、アニメって、何のアニメ?」

 「『カウボーイビバップ』ってね。SFアニメ何だけど、ドタバタあり、ガンアクションあり、シリアスありと、すんげークオリティ高い作品なんだよ」

 「それは、何でご覧になったのかしら?」

 「え、普通に地上波のテレビだよ……あ…」

 
 クラリスはカルヴァドスの入ったシャンパンをクイッと飲み干すと。ブラックベルベットをオーダーをし、それからゆっくりとこちらを見つめ、怪しく見つめ、微笑していた。

 
 「嘘、電脳のアーカイブからだよ」

 「もう、手遅れですわ」


 “ちょいちょい、バレますね~錫乃介様は”

 まぁ、別に良いんだけどよ。

 
 「話して下さる?今宵の戯れに」

 「戯れはベッドの上でしたいもんだけどな」

 「それならお話の後にどうかしら?私を満足させて下さいまし」

 「スマン、俺の負けだ」

 「なんの勝負かしらね、ふふ」


 いつの間にか手元にあったブラックベルベットに口をつけている。
 黒く光る液体に、茶色の泡。唇に付いたその泡を、人差し指で拭う。

 
 「もうなのか、まだなのかわからないけど、この世界、この時代に来たのは半年前だ。アスファルトって街に流れ着いて、なんやかんや合って今に至る。以上だ。さ、ベッドに行こう」


 「ベッドは逃げませんわよ。この世界に着いたのは、貴方の意思かしら?」


 「それが、逃げるんだよベッドはよ。俺の意思じゃない。前の日まで梯子で酒飲んでたのは覚えてる。気付いたら何もない砂漠に倒れていた」

 「私は逃げませんわ。よくもまぁご無事でしたわね。大変でしたでしょうに」

 「そうゆー女は皆んな逃げんだよ。俺もそー思う。悪運が強いんだな」

 「そんな女と一緒にしないでくださいまし。いつの時代からいらしたの?」

 「美女ほど信じられなくてな。2020年だ。信じられないだろ?」

 「私は信じられますわ」
 
 
 ……。
 へ?何これ期待して良いの?
 

 「お待たせししました」

 と、2人の言葉が切れたタイミングで、ジョドーさんは料理とワインを持ってきてくれた。

 アッサリ風の腿のローストに、濃厚な青カビチーズソースが見事なまでにマッチしている。このソースはイモとキノコのマッシュフリットにもよく合う。
 一緒に持って来たワインはこの時代になって作られた物らしいので、エチケットを見てもよくわからないが、カベルネとシラーが合わさった濃厚な味わいが、青カビチーズソースに負けずに、お互いを高めている。

 「美味しい…」
 「旨い!」
 「ありがとうございます」



 暫しの間、2人は料理とワインに舌鼓を打った。

 ローストにを食べ終えてから、会話に戻り残ったソースにクラッカーを付け、ちびちびとワインを楽しんでいた。

 

 「錫乃介さんは身体から不思議な波動を出していらっしゃるの」

 不思議な波動?今度は霊感商法かよ。

 「波動?なにそれ?」

 「時空の揺らぎとでも申しましょうか。錫乃介さんの周りには、その波動が陽炎の様に揺らいで見えるんです」

 「でも、そんな事今まで言われた事ないよ」

 「私は少し特別な能力がありまして、そういった不可視な物も認識する事が出来るんですわ」

 「電脳の鑑定アプリみたいなものか。脳解析(ダイノーシス)のアプリも似てるな」

 「まぁ、そんな感じです」

 「そんな物出してるのか俺は」


 「そうですわ。なので貴方を私に調べさせて下さらないかしら?」


 そこで一旦言葉を切ると、チラリとこちらを見つめ、少し照れた素振りをみせる。


 「ベッドの上で、戯れながらでも……」

 
 きたーーーーー!

 “また始まった……気をつけて下さいよ”


 わかってるよ。いかんいかん、このままは相手のペースに飲まれてしまう。
 でもどうしよっかなー?このまま誘惑されたままでも、別に良い様な気がするんだけどなぁ。でも、そんな上手い話がある訳ないし。


 「楽しい夜になりそうだ。でも、そんな事調べてどうするんだ?」
 「話すと長くなりますの。ピロートークの時にでもいかがかしら?」
 「それも楽しみだけど、君の身体が機械なのとも関係あるのかい?」

 
 その刹那、クラリスの瞳は僅かに動揺の色を見せ、その蠱惑的な魔力を失った。


 「……どこで、気付かれましたの?」
 「どこかでは無いよ。前に会った時から少し引っかかってたんだ。この美人トイレ行かねーなって。
 生身の女性はもっとトイレに行く。お化粧直しとかもあるだろうしね。汗をかかないせいで全くお化粧崩れないから、君は必要ないみたいだけど」

 「ふふ、完璧なボディだと思ったんだけど、そんなところから気付かれちゃったか。
 私はサイボーグかアンドロイドか、もうどちらかわからないくらい全身機械。でも元はちゃんとした人間よ。こんな身体お嫌いかしら?」

 「いえ、全く。僕そういうのより好みしないんで。ただ、ちょっとやられっぱなしだったからさ。
 んで、これからそのボディチェックとやらをしに行くのかい?」

 「協力してくださいます?」
 
 「命とお金はとらないでよ」

 「要りませんわ」

 
 お互い残ったワインを飲み干し席を立つ。
 

 「ジョドーさん。私にツケといて下さい」
 
 「かしこまりました」

 「ごっそさんです!」

 勢いよく腰から深く頭を下げてお礼を言う。

 「いいですの、お詫びと協力していただけるんですから」


 その声に頭をあげた錫乃介の目の前には、香水のアトマイザーが。
 
 ごめんあそばせ、の声と共に、シュッと一吹きされる。 


 「ほら来た、そうくるのね~」

 と言って倒れこむ錫乃介であった。

 
 “言わんこっちゃない”
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