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一目惚れ
パーティー会場で、ひときわ注目を集めるオメガがいた。ショートヘアに、大ぶりのピアス。パンツタイプのセットアップドレスを身に着けた彼は、中性的な怪しい魅力をアルファたちに振りまいていた。
かくいう一嶌も彼の虜になったアルファの一人であった。お見合いパーティーなどくだらないと思っていた。付き合いもあるから顔くらい出すが、すぐに仕事に戻るつもりだったのだ。ところが、そのオメガと目があった瞬間、一嶌の体に電流が走った。
長いまつげの奥にある瞳はどこか憂いを帯びていて、ひとたび覗き込めば目が離せなくなる。形の良い小ぶりな唇が動くのを見ているだけで、唾がこみ上げる。
ピアスに触れる、細い指、折れてしまいそうな首や腰。なによりもあの肌。白く滑らそうなあの肌に触れることができたなら、どんな気分だろう。
「あなたに、決まった人はいるんだろうか」
気づけば一嶌は、人を押しのけていた。一嶌はアルファの中でもひと際体格がいい。顔も家柄も悪くない。彼が動けば周りは自然と道を開ける。
オメガの彼だけが、平然と一嶌を見上げた。
「俺に言ってる? いないよ。要らないんだ。けど、子供が欲しいんなら生んであげるよ。俺、結構勝率高いよ? 次の発情期に予約いれてあげようか?」
俺が先だろ、いや僕だ。男たちが彼に群がる。小柄なオメガの男性が女王のようにアルファを従えていた。
オメガの性質を考えれば彼の行動は別におかしなことではない。彼らは常に相性の良い個体を探しているし、托卵の習性があるから子育てもしない。次々と見知らぬ男の子供を産んでいたところでちっともおかしくはないのだ。
だから一嶌はオメガに興味を持てなかった。どうしてもというときは、ベータと結婚しようと考えていたほどだ。
それが彼に会って一変してしまった。どうしても彼がいい。
彼を家に招待したいと一嶌は考えた。彼が落ち着ける場所を提供し、一緒に食事をとる。素晴らしい時間になるだろう。店を予約するという発想は頭から抜け落ちていた。シェフは家に呼ぶものだからである。だが、それにはまず部屋を整えなくては。
一嶌の暮らすマンションの最上階に、使っていないゲストルームがあった。そこにインテリアコーディーネーターと内装工と家具屋を呼びつけた。
「どのような雰囲気にいたしましょうか」
「相手の好みはわからない。実は、彼の名前も知らないんだ」
一嶌の言にコーディネーターは笑みを崩さずいくつかの案を出した。
木目調のナチュラルな部屋、青を印象的に使った爽やかな部屋、ヴィンテージをふんだんに取り入れたカフェ風の部屋だ。三つとも採用した。あのオメガがこのまま暮らしたいと言っても困らない程度のものは揃えたつもりだ。
それから一嶌はパーティーにも積極的に出かけ、彼の姿を探した。
彼を見つけ出すと、ほかの男たちを蹴散らしてオメガの前に進み出る。
「あなたを部屋に招待したいんだ」
「どっかで会ったっけ?」
「先月のパーティーで。ああ、名乗りがまだだったな。一嶌久希だ」
「イチシマさんね。ふうん。覚えられる気はしないけど」
「あなたの名前を伺ってもいいだろうか」
「……澄也」
下の名前しか教えてくれなかったが、「澄也か」と一嶌は噛みしめた。いきなり呼び捨てにしても、澄也は怒る様子もない。
ただ、ピアスを触って興味なさそうに視線を外す。わずかに首を傾げた拍子にショートヘアがさらりとこぼれて綺麗だった。
「俺、今日はしないよ。気分じゃないんだ」
「それでいい! 食事――、いや、見学だけでいい。意見が聞きたい」
「必死かよ。ま、いいけど。帰りのタクシー代は請求するから」
もちろん、そのくらいは払うつもりだ。運転手に送らせてもいいが、住まいを知られたくないのだろう。
自分の暮らすフロアに澄也がいる。それだけで一嶌は興奮した。だがここで彼を怖がらせてはいけない。必死に平静を装った。
「澄也に聞きたい。暮らすとしたら、どんな部屋がいい?」
「どんな?」
「うん。順に見て」
三つの部屋に案内すると、彼はじっとりと一嶌を睨んだ。
「どれも、好みじゃない」
「そうか」
一嶌はそれほど落胆しなかった。もともとリサーチしていないのだから当たり前だ。それに、睨まれるのも悪くない。
「では、あなたの好みは?」
「知ってどうすんの? 一晩寝るだけだろ?」
「いや、君さえよければ住んでもらいたいと思っている」
「ははっ、俺のこと囲おうっての? 言ってなかったっけ。特定の人を作る気はない」
「覚えている。だからまずは、ときどき遊びに来てくれるだけで構わない。これを」
一嶌は彼に鍵を押し付けた。
かくいう一嶌も彼の虜になったアルファの一人であった。お見合いパーティーなどくだらないと思っていた。付き合いもあるから顔くらい出すが、すぐに仕事に戻るつもりだったのだ。ところが、そのオメガと目があった瞬間、一嶌の体に電流が走った。
長いまつげの奥にある瞳はどこか憂いを帯びていて、ひとたび覗き込めば目が離せなくなる。形の良い小ぶりな唇が動くのを見ているだけで、唾がこみ上げる。
ピアスに触れる、細い指、折れてしまいそうな首や腰。なによりもあの肌。白く滑らそうなあの肌に触れることができたなら、どんな気分だろう。
「あなたに、決まった人はいるんだろうか」
気づけば一嶌は、人を押しのけていた。一嶌はアルファの中でもひと際体格がいい。顔も家柄も悪くない。彼が動けば周りは自然と道を開ける。
オメガの彼だけが、平然と一嶌を見上げた。
「俺に言ってる? いないよ。要らないんだ。けど、子供が欲しいんなら生んであげるよ。俺、結構勝率高いよ? 次の発情期に予約いれてあげようか?」
俺が先だろ、いや僕だ。男たちが彼に群がる。小柄なオメガの男性が女王のようにアルファを従えていた。
オメガの性質を考えれば彼の行動は別におかしなことではない。彼らは常に相性の良い個体を探しているし、托卵の習性があるから子育てもしない。次々と見知らぬ男の子供を産んでいたところでちっともおかしくはないのだ。
だから一嶌はオメガに興味を持てなかった。どうしてもというときは、ベータと結婚しようと考えていたほどだ。
それが彼に会って一変してしまった。どうしても彼がいい。
彼を家に招待したいと一嶌は考えた。彼が落ち着ける場所を提供し、一緒に食事をとる。素晴らしい時間になるだろう。店を予約するという発想は頭から抜け落ちていた。シェフは家に呼ぶものだからである。だが、それにはまず部屋を整えなくては。
一嶌の暮らすマンションの最上階に、使っていないゲストルームがあった。そこにインテリアコーディーネーターと内装工と家具屋を呼びつけた。
「どのような雰囲気にいたしましょうか」
「相手の好みはわからない。実は、彼の名前も知らないんだ」
一嶌の言にコーディネーターは笑みを崩さずいくつかの案を出した。
木目調のナチュラルな部屋、青を印象的に使った爽やかな部屋、ヴィンテージをふんだんに取り入れたカフェ風の部屋だ。三つとも採用した。あのオメガがこのまま暮らしたいと言っても困らない程度のものは揃えたつもりだ。
それから一嶌はパーティーにも積極的に出かけ、彼の姿を探した。
彼を見つけ出すと、ほかの男たちを蹴散らしてオメガの前に進み出る。
「あなたを部屋に招待したいんだ」
「どっかで会ったっけ?」
「先月のパーティーで。ああ、名乗りがまだだったな。一嶌久希だ」
「イチシマさんね。ふうん。覚えられる気はしないけど」
「あなたの名前を伺ってもいいだろうか」
「……澄也」
下の名前しか教えてくれなかったが、「澄也か」と一嶌は噛みしめた。いきなり呼び捨てにしても、澄也は怒る様子もない。
ただ、ピアスを触って興味なさそうに視線を外す。わずかに首を傾げた拍子にショートヘアがさらりとこぼれて綺麗だった。
「俺、今日はしないよ。気分じゃないんだ」
「それでいい! 食事――、いや、見学だけでいい。意見が聞きたい」
「必死かよ。ま、いいけど。帰りのタクシー代は請求するから」
もちろん、そのくらいは払うつもりだ。運転手に送らせてもいいが、住まいを知られたくないのだろう。
自分の暮らすフロアに澄也がいる。それだけで一嶌は興奮した。だがここで彼を怖がらせてはいけない。必死に平静を装った。
「澄也に聞きたい。暮らすとしたら、どんな部屋がいい?」
「どんな?」
「うん。順に見て」
三つの部屋に案内すると、彼はじっとりと一嶌を睨んだ。
「どれも、好みじゃない」
「そうか」
一嶌はそれほど落胆しなかった。もともとリサーチしていないのだから当たり前だ。それに、睨まれるのも悪くない。
「では、あなたの好みは?」
「知ってどうすんの? 一晩寝るだけだろ?」
「いや、君さえよければ住んでもらいたいと思っている」
「ははっ、俺のこと囲おうっての? 言ってなかったっけ。特定の人を作る気はない」
「覚えている。だからまずは、ときどき遊びに来てくれるだけで構わない。これを」
一嶌は彼に鍵を押し付けた。
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