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調子が狂う
「預けるって?」
「写真を撮っているとき、あなたは本当に楽しそうだった。だから、これまで通りそれを続けられるように」
「……やめろって言わねえの?」
「どうして? あなたを侵害するそいつを追い出せばすむことだ」
一嶌は笑顔だった。けれどそこに静かな怒りを感じ取り、澄也はこくりと唾をのんだ。
解決に三日もかからなかった。
「相手は特定できた。海外送りにしておいたから、しばらく帰ってこないはずだ」
澄也はポカンと一嶌を見あげるが、彼は当たり前の顔をしている。
海外送り? SNSを特定しただけで?
正直、一嶌が澄也のためにそこまで手を回すとは思っていなかった。この人には驚かされてばかりだ。
「だが、念のため住まいを変えたほうがいいだろう。私が準備してもいいが、自分で探したいよな」
「……は? ここに住めって言わねえの?」
「弱みにつけこむようなマネはしたくない」
カッと怒りが燃え上がった。澄也にはそれが言い訳に聞こえた。一嶌に線をひかれたのだと思った。あなたが欲しいと言いながら、やはりこの人も、澄也から近づくと迷惑なのだ。ライバルは潰すくせに。
結局コイツもほかのアルファと変わらない。
いつもそうだ。タマゴを産んだところでそれは澄也のものじゃない。産んでも産んでも、誰の家族にもなれない。誰も澄也を、団らんの中に加えてくれない。
期待したのに。
気持ちとは裏腹に、澄也はとびきりの笑顔を浮かべていた。いつも男たちにしているように。
「そっか。わかったよ。いままで親切にしてくれてありがとう。結構楽しかったよ。でもこれでお終い。もう、俺に構わないで」
「なっ! 待ってくれ澄也! なにか不快にさせただろうか。言ってくれないとわからない。部屋が気に入らないのならいくらでもリフォームするから」
「あんたが出てけって言ったんだろ」
「そうは言っていない! ただ、あなたにはあなたの住まいがあるのだし、そこは住み替えたほうがいいだろうという話で」
「住むところなんて、本当はどうだっていいんだ!」
一嶌の言葉を遮るようにして、澄也は叫んだ。
「俺は、ただ……」
そこで、舌がもつれた。
強気でいなきゃいけない。男たちにとって、澄也は価値ある存在なのだと見せつけなければいけない。
そうやって生きてきたのだ。それなのに、一嶌の前ではうまく繕えない。それが怖い。
「澄也、教えてくれないか。あなたのことが知りたいんだ」
「俺だって!」
やめておけと、頭は警鐘を鳴らすのに、心が乱れて上手く止められなかった。
「あんたを知りたいよっ。だけど、名前以外なにも教えてくれないじゃないか。プライベートに踏み込ませてもくれない! 遊びならそんなに優しくする……な……」
尻すぼみになってしまったのは、一嶌の様子が変だったからだ。口元を覆い、目を潤ませ小刻みに震えている。
「澄也が、私に興味を!」
「なんなんだよ、その反応!」
一嶌が馬鹿みたいに感動するから、澄也は怒りのやり場を失った。どうも彼といると調子が狂う。
「帰る」
踵を返すと、すかさず手を握られた。
「待ってくれ、澄也。もうすこし話せないか。話したい」
「……いいけど」
くやしいが、引き留めてくれたことが嬉しくてたまらない。心を乱されるのはキライなはずなのに、離れがたいと感じている。
「私は、澄也のことが知りたい。どんな些細なことでも。そして、私のことも知ってほしい。だが、いざ話そうと思うと悩むな。なにが聞きたい?」
一嶌は澄也を覗き込んだ。彼の声がすこし震えていてることにゾクゾクした。
知りたい、なにもかも。どんな部屋に住んでいて、どんな家族がいて、なにが好きで、なにが嫌いで。きっと一日じゃ足りない。
「あんたの部屋に入れてよ」
「危険だ!」
間髪入れずに断られて、膨らみかけた希望がまた萎む。
「やっぱ嫌なんだ」
「違う!」
肩をビクつかせてしまうほどの大声で、彼は否定した。
「惚れた相手を自分のテリトリーに入れて、暴走しない自信がないんだ!」
情けないことを堂々と言い放ち、そのあと恥じらうように頬を染めた。
ホント、なんなんだ、その反応は。
っていうか、暴走ならもうさんざんしただろうが。
澄也がじっとりと睨むと、一嶌は咳払いをして、わざとらしく取り繕った。
「――だが、澄也のためだ。耐えよう」
澄也の手を取って歩きだす。彼の緊張が伝わってきて、ただ手を繋いでいるだけだというのに、澄也の心臓も過剰なまでに高鳴った。
「写真を撮っているとき、あなたは本当に楽しそうだった。だから、これまで通りそれを続けられるように」
「……やめろって言わねえの?」
「どうして? あなたを侵害するそいつを追い出せばすむことだ」
一嶌は笑顔だった。けれどそこに静かな怒りを感じ取り、澄也はこくりと唾をのんだ。
解決に三日もかからなかった。
「相手は特定できた。海外送りにしておいたから、しばらく帰ってこないはずだ」
澄也はポカンと一嶌を見あげるが、彼は当たり前の顔をしている。
海外送り? SNSを特定しただけで?
正直、一嶌が澄也のためにそこまで手を回すとは思っていなかった。この人には驚かされてばかりだ。
「だが、念のため住まいを変えたほうがいいだろう。私が準備してもいいが、自分で探したいよな」
「……は? ここに住めって言わねえの?」
「弱みにつけこむようなマネはしたくない」
カッと怒りが燃え上がった。澄也にはそれが言い訳に聞こえた。一嶌に線をひかれたのだと思った。あなたが欲しいと言いながら、やはりこの人も、澄也から近づくと迷惑なのだ。ライバルは潰すくせに。
結局コイツもほかのアルファと変わらない。
いつもそうだ。タマゴを産んだところでそれは澄也のものじゃない。産んでも産んでも、誰の家族にもなれない。誰も澄也を、団らんの中に加えてくれない。
期待したのに。
気持ちとは裏腹に、澄也はとびきりの笑顔を浮かべていた。いつも男たちにしているように。
「そっか。わかったよ。いままで親切にしてくれてありがとう。結構楽しかったよ。でもこれでお終い。もう、俺に構わないで」
「なっ! 待ってくれ澄也! なにか不快にさせただろうか。言ってくれないとわからない。部屋が気に入らないのならいくらでもリフォームするから」
「あんたが出てけって言ったんだろ」
「そうは言っていない! ただ、あなたにはあなたの住まいがあるのだし、そこは住み替えたほうがいいだろうという話で」
「住むところなんて、本当はどうだっていいんだ!」
一嶌の言葉を遮るようにして、澄也は叫んだ。
「俺は、ただ……」
そこで、舌がもつれた。
強気でいなきゃいけない。男たちにとって、澄也は価値ある存在なのだと見せつけなければいけない。
そうやって生きてきたのだ。それなのに、一嶌の前ではうまく繕えない。それが怖い。
「澄也、教えてくれないか。あなたのことが知りたいんだ」
「俺だって!」
やめておけと、頭は警鐘を鳴らすのに、心が乱れて上手く止められなかった。
「あんたを知りたいよっ。だけど、名前以外なにも教えてくれないじゃないか。プライベートに踏み込ませてもくれない! 遊びならそんなに優しくする……な……」
尻すぼみになってしまったのは、一嶌の様子が変だったからだ。口元を覆い、目を潤ませ小刻みに震えている。
「澄也が、私に興味を!」
「なんなんだよ、その反応!」
一嶌が馬鹿みたいに感動するから、澄也は怒りのやり場を失った。どうも彼といると調子が狂う。
「帰る」
踵を返すと、すかさず手を握られた。
「待ってくれ、澄也。もうすこし話せないか。話したい」
「……いいけど」
くやしいが、引き留めてくれたことが嬉しくてたまらない。心を乱されるのはキライなはずなのに、離れがたいと感じている。
「私は、澄也のことが知りたい。どんな些細なことでも。そして、私のことも知ってほしい。だが、いざ話そうと思うと悩むな。なにが聞きたい?」
一嶌は澄也を覗き込んだ。彼の声がすこし震えていてることにゾクゾクした。
知りたい、なにもかも。どんな部屋に住んでいて、どんな家族がいて、なにが好きで、なにが嫌いで。きっと一日じゃ足りない。
「あんたの部屋に入れてよ」
「危険だ!」
間髪入れずに断られて、膨らみかけた希望がまた萎む。
「やっぱ嫌なんだ」
「違う!」
肩をビクつかせてしまうほどの大声で、彼は否定した。
「惚れた相手を自分のテリトリーに入れて、暴走しない自信がないんだ!」
情けないことを堂々と言い放ち、そのあと恥じらうように頬を染めた。
ホント、なんなんだ、その反応は。
っていうか、暴走ならもうさんざんしただろうが。
澄也がじっとりと睨むと、一嶌は咳払いをして、わざとらしく取り繕った。
「――だが、澄也のためだ。耐えよう」
澄也の手を取って歩きだす。彼の緊張が伝わってきて、ただ手を繋いでいるだけだというのに、澄也の心臓も過剰なまでに高鳴った。
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