魔王の黒幕は勇者サマ

冬樹

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プロローグ

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 日本という国は何て平和なんだろう。
 日本に生まれ育った前世を思い出しながら空を見上げた。いつだって何があっても空は変わらない。自分が思うままに動く。
 まあ実際は自由ってわけではないが、そう見えるってことだ。
 空を見てると癒される。現実逃避にしかならないが。
「おい」
 ドスのきいた声と共にじゃらじゃらと鎖が動く。
「聞いてんのか?」
  さっきより低くなった声。それと同時に鎖が引っ張られた。鎖の先についている皮の首輪が持ち上げらた。
 そう、首輪である。俺はこの男に首輪を繋がれているのだ。
 ぐっと首がしまっていく。喉が絞められ呼吸が出来なくなる。
「くっ……あっ」
 反射的に首輪をつかみ、引き剥がそうとするが意味などない。反抗など許さないと言わんばかりに絞め付けを強くしてくる。
「抵抗すんじゃねえよ。本気で殺すぞ」
 耳元で聞こえてきた声に必死にうなずく。このままじゃマジで死ぬ。死ぬのは嫌だ。
 俺がうなずくと2秒くらいして締め付けが緩くなる。
 急に入ってきた空気に咳こむと、後頭部を殴られた。
「わかってんだろうな?次にお前がやるべきこと」
俺はゆっくりとうなずく。
「国の境目にある町、そこを殲滅する」
「わかってんならいいんだよ」
そう言うと男は俺から離れた。邪悪な光をおびた目が俺を見つめる。
「失敗すんじゃねぇ」
目が合う。まるで地獄と向かい合っているかのような目に一瞬息が止まる。怖い。この世の者とは思えないような恐怖。思わず目を反らしそうになる。
 けれど俺にだってプライドがある。負けなくはない。
 恐怖に怯えながらも深呼吸をした。落ち着け。落ち着くんだ。
 真っ直ぐに男の目を見つめる。強く睨み付け、俺自身を奮い立てる。
「貴様、誰に言っている」
「ふん」
男は俺の強がりを鼻で笑った。
「しっかり働けよ。魔王サマ」
「殺してやるから覚悟しておけ。勇者殿」
 この俺との関係は簡単だ。
 俺は魔族の王、魔王。
 この男は人間の希望、勇者。
 魔王である俺は、勇者であるこの男に支配されている。
 そして勇者は人間を滅ぼそうとしている、性格最悪の男だ。

 ああ、日本は何て平和な国だったのだろう。
 異世界に何て来たくなかった。
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