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第12話 絶体絶命のピンチ
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砂漠の陽射しが鋭く照りつける中、乾いた風が舞い上がる砂を運んでいた。エンゴール地方の荒涼とした岩場、その一角で、マルタは震えながら地面にへたり込んでいた。
「……怖い……」
彼女の小さな手は目を覆い、固く閉じた瞼からは涙がこぼれ落ちそうになっている。震える肩と唇を噛みしめたその姿は、恐怖の中でも必死に耐えようとしている意思を物語っていた。
目の前には巨大な怪物――バジリスクがゆっくりと近づいていた。その姿は、アルスが洞窟内で討伐した個体より一回り大きく、鋭い爪と尾、そして毒々しい鱗を全身にまとった堂々たるオスの個体だった。その目は冷たい光を宿し、じわじわとマルタとの距離を詰めている。
「だ……れか……」
声を出そうとしても、喉が乾いて言葉にならない。マルタは目を閉じたまま、その場で縮こまるしかなかった。
岩場の入り口に駆けつけたアルスは、その光景を目にして立ち尽くした。バジリスクの大きな影が、マルタの小さな体を覆うように迫っている。鋭い爪が砂を掻き、尾がゆっくりと揺れながら、怪物はじわじわと獲物に近づいていた。
「くそ……! まさかバジリスクがもう1体いるとは完全な誤算だ、しかも、洞窟内の個体より一回り大きい……」
剣を抜こうとするが、その巨体と状況の悪さに、どうしても間に合わない。アルスの胸には後悔が押し寄せた。
(俺が……連れてきたせいだ)
クエストに出る時、マルタを無理にでも家にいさせていれば、こんなことにはならなかった。一人で行動すれば問題なかったのに、なぜ……孤独を選ばなかったのか……。
「間に合わない……!」
バジリスクは大きく口を開け、鋭い牙が陽光を反射する。アルスは思わず拳を握り締め、目の前で起こるかもしれない惨劇を止められない自分に苛立った。
「マルタ……!」
彼の口から絞り出された名前は、かすれた声となって砂漠に消えた。
その時だった。
突然、バジリスクの動きが止まった。まるで時間が凍りついたかのように、その巨体がピタリと止まり、目の前で動かなくなった。
「……何だ?」
アルスは一瞬信じられず、剣を構えたまま様子を伺った。そして、地面に目を向けた時、その理由に気づいた。
マルタの隣に転がる小さなガラス瓶――それは、オアシスで買った予備の果実ジュースだった。瓶が割れ、中身が岩肌にぶちまけられたことで、その表面が反射鏡のようになっていた。そして、偶然にもバジリスクの目がそれを捉え、自分の目によって石化したのだ。
「……自分の目で石化したのか……」
アルスは状況を理解し、安堵の息を吐き、その場にへたり込んだ。バジリスクは石像と化し、もはや動くことはなかった。アルスは立ち上がると、剣を収め、ゆっくりとマルタに近づいた。彼女は目を閉じたまま、まだ震えている。
「マルタ、もう大丈夫だ」
その声に、マルタはびくりと体を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。恐る恐る目を開けた彼女は、目の前に立つアルスの姿を確認すると、涙を浮かべながら叫んだ。
「アルスおじさん……!」
彼女は立ち上がることも忘れ、その場から一気に駆け寄り、アルスの腰に抱きついた。その小さな体が彼の鎧にしがみつき、震えながら涙を流している。
「怖かった……すごく怖かったよ……!」
「……すまない。俺の責任だ」
アルスはマルタの頭にそっと手を置き、何度か軽くポンポンと叩いた。マルタの身体が震えているのが鎧越しに伝わってくる。相当怖い思いをしたのだろう、腰に回した手はしばらく離れることはなさそうだ。
「よく耐えた。お前は強いな」
その言葉に、マルタは泣き笑いのような表情を浮かべた。そして、アルスが彼女をひょいと抱き上げる。
「アルスおじさん……?」
「大丈夫か?」
「うん……」
「よし、帰るぞ」
アルスは短く答え、そのままマルタを抱きかかえた。小さな体の震えが少しずつ収まり、彼女の安堵の息が耳に届いた――
「……怖い……」
彼女の小さな手は目を覆い、固く閉じた瞼からは涙がこぼれ落ちそうになっている。震える肩と唇を噛みしめたその姿は、恐怖の中でも必死に耐えようとしている意思を物語っていた。
目の前には巨大な怪物――バジリスクがゆっくりと近づいていた。その姿は、アルスが洞窟内で討伐した個体より一回り大きく、鋭い爪と尾、そして毒々しい鱗を全身にまとった堂々たるオスの個体だった。その目は冷たい光を宿し、じわじわとマルタとの距離を詰めている。
「だ……れか……」
声を出そうとしても、喉が乾いて言葉にならない。マルタは目を閉じたまま、その場で縮こまるしかなかった。
岩場の入り口に駆けつけたアルスは、その光景を目にして立ち尽くした。バジリスクの大きな影が、マルタの小さな体を覆うように迫っている。鋭い爪が砂を掻き、尾がゆっくりと揺れながら、怪物はじわじわと獲物に近づいていた。
「くそ……! まさかバジリスクがもう1体いるとは完全な誤算だ、しかも、洞窟内の個体より一回り大きい……」
剣を抜こうとするが、その巨体と状況の悪さに、どうしても間に合わない。アルスの胸には後悔が押し寄せた。
(俺が……連れてきたせいだ)
クエストに出る時、マルタを無理にでも家にいさせていれば、こんなことにはならなかった。一人で行動すれば問題なかったのに、なぜ……孤独を選ばなかったのか……。
「間に合わない……!」
バジリスクは大きく口を開け、鋭い牙が陽光を反射する。アルスは思わず拳を握り締め、目の前で起こるかもしれない惨劇を止められない自分に苛立った。
「マルタ……!」
彼の口から絞り出された名前は、かすれた声となって砂漠に消えた。
その時だった。
突然、バジリスクの動きが止まった。まるで時間が凍りついたかのように、その巨体がピタリと止まり、目の前で動かなくなった。
「……何だ?」
アルスは一瞬信じられず、剣を構えたまま様子を伺った。そして、地面に目を向けた時、その理由に気づいた。
マルタの隣に転がる小さなガラス瓶――それは、オアシスで買った予備の果実ジュースだった。瓶が割れ、中身が岩肌にぶちまけられたことで、その表面が反射鏡のようになっていた。そして、偶然にもバジリスクの目がそれを捉え、自分の目によって石化したのだ。
「……自分の目で石化したのか……」
アルスは状況を理解し、安堵の息を吐き、その場にへたり込んだ。バジリスクは石像と化し、もはや動くことはなかった。アルスは立ち上がると、剣を収め、ゆっくりとマルタに近づいた。彼女は目を閉じたまま、まだ震えている。
「マルタ、もう大丈夫だ」
その声に、マルタはびくりと体を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。恐る恐る目を開けた彼女は、目の前に立つアルスの姿を確認すると、涙を浮かべながら叫んだ。
「アルスおじさん……!」
彼女は立ち上がることも忘れ、その場から一気に駆け寄り、アルスの腰に抱きついた。その小さな体が彼の鎧にしがみつき、震えながら涙を流している。
「怖かった……すごく怖かったよ……!」
「……すまない。俺の責任だ」
アルスはマルタの頭にそっと手を置き、何度か軽くポンポンと叩いた。マルタの身体が震えているのが鎧越しに伝わってくる。相当怖い思いをしたのだろう、腰に回した手はしばらく離れることはなさそうだ。
「よく耐えた。お前は強いな」
その言葉に、マルタは泣き笑いのような表情を浮かべた。そして、アルスが彼女をひょいと抱き上げる。
「アルスおじさん……?」
「大丈夫か?」
「うん……」
「よし、帰るぞ」
アルスは短く答え、そのままマルタを抱きかかえた。小さな体の震えが少しずつ収まり、彼女の安堵の息が耳に届いた――
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