妻がゾンビになりまして……

Mr.Six

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1-2:妻がゾンビになりまして……

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 約1ヵ月前、俺はいつも通り会社で仕事を終えて、早々に帰宅しようとしていた。

4月27日、美鈴の35歳の誕生日だったから。

お祝いのケーキを買ってなくて急いでケーキ屋に駆け込んだ。

「すいません、まだケーキってありますか?」

閉店ギリギリの時間で店に入ったこともあって、ケーキはもう売れ残ったものしかない。

「あぁ、このケーキしか残ってないんですけど……」

店員が指さしたのはチーズケーキ、美鈴はケーキの中でもチーズケーキが好きだったから、

「よかったぁ、チーズケーキなら怒られないよな、すいませんこれを3つお願いします」

「かしこまりました、何かのお祝いですか?」

「はい、妻の誕生日で……」

「そうなんですね、ロウソクお付けしますか?」

「はい、お願いします」

俺は即答して、チーズケーキを購入した。

今年は美鈴に怒られなくてすむな、去年はケーキが無くて散々だったから。

ほっとしながら、俺は店を出た。

ポツッ……ポツッ

「あれ? 雨降ってきた、あ、そういえば今日は雨だって美鈴言ってたな」

美鈴が言ってたことをすっかり忘れていた。

今日は傘を持ってきてないことに気づく。

駅から自宅まで距離あるよな、コンビニで傘を買うのは勿体ないし。

「やばいな、ケーキが濡れちゃうよ」

俺は来ていたスーツのジャケットでケーキを包んで、駅にダッシュで向かう。

駅に着くころにはすっかりどしゃ降りだった。

ジャケットで包んだケーキを確認した。

ビショビショにジャケットは濡れていたが、ケーキは何とか無事だった。

後はどうやって自宅まで帰るかだな。

電車に乗ってる間に美鈴に連絡するか? いや、そしたらまた怒られるんだろうな。

そうこう思ってるうちに、LINEの通知が届く。

美鈴からだった。

『今日、傘忘れたでしょ? 朝、私言ったのに 怒 』

あぁ、来たよ。やっぱり怒ってた。

俺はすぐに返信をした。

『ごめん』

『駅まで持っていくから一緒に帰ろ?』

美鈴からの返信はすぐに届いた。

……

可愛い!!!!!

なに?この可愛さ!

駅から自宅までは車で来るほど離れてはないから歩いて来るんだろうなとはわかってるけど。

それにしても可愛すぎないか?

ツンデレなところがなんともたまらん!

俺はニヤケを止めることができず、電車に駆け込んだ。

「ねぇ、あの人ずっと笑ってるよ?」

「見ちゃダメよたっくん」

子供から、変な目で見られている。

終始ニヤニヤしてたから、周りからは変な人と思われたに違いない。

だが、そんなことはどうでもいい。

早く帰って、美鈴の笑顔が見たい。

花音は反抗期だけど、ママの誕生日ぐらいは話はしてくれるだろう。

俺は淡い期待を抱きながら電車を降りた。

駅のホームを抜けて、階段を駆け下りる。

バスのロータリーからなら、すぐに見つけられるだろう。

俺はそう思って、バスのロータリー付近にいると美鈴に連絡した。

外はいまだにどしゃ降りで、この中向かってきてる美鈴は大丈夫なのかと心配した。

「亮~! お~い!」

美鈴の声がする。

声のする方向を向くと、そこには大きく手を振っている美鈴の姿があった。

傘を差しながら、もう片方の手には傘を持っている。

急いで来てくれたのか、肩の方はぐっしょりと濡れているのが遠くからでもわかる。

交差点の信号が赤から青に変わり、1人でこっちに走って向かってくる。

はぁ、もう、美鈴は濡れていても可愛くて綺麗だな。

「美鈴! お~い!」

俺は大きくを手を振り返して美鈴の方に向かっていく。

キキーッ ドッ!!!

急に視界から美鈴の姿がなくなった。

「えっ……」

ガシャーン!!!!!

すぐ目の前でバスがロータリーの柱に勢いよくぶつかった。

バスは柱にぶつかった勢いで前方は粉々に砕けていた。

何が起こったのかわからない。

手に持っていたケーキはいつの間にか地面に落ちて、雨でグシャグシャになっている。

「美……鈴……」

それは一瞬の出来事だった。
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