便利スキル持ちなんちゃってハンクラーが行く! 生きていける範疇でいいんです異世界転生

翁小太

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王都

36 宝石を売らない宝飾品商さん

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「東の鉱山が枯れかけていることですか?」
 手持ちの情報の中から思い当たる事項を確認すると、セレスタンさんは満足そうに頷いた。
「東の鉱山の一番の産出量を誇っていた山の産出量が減少し、おそらくあと二、三年ほどで全く宝石の出ない地となるだろうと言われております。しかし、質や頻度を考慮に入れなければ東の鉱山でも産出いたしますし、他の鉱山でもいずれ宝石が出ると期待されている山もございますし、輸送のコストをある程度覚悟すれば質の良いものも見込めます」
「しかし、それでは宝石一つ一つにかかるコストが増えて値段があがり、顧客が買い控えを起こしてしまう。また、今まで購入出来ていた層が丸々購入できなくなってしまい、それは宝石で商いをしているのではなく、まるで宝石で日々を消化していくようなものだ。……ということですか?」
「お見事」
 なぜこの人をこんなにも執事然としているのかがよくわかった。その身を宝石のために尽くすと決めた宝石を主人に持つ根っからの宝飾品商なのだ。
 ゆえに宝石が人々に優雅な彩りを飾り立てることが出来なくなりそうな現状がすこぶる御不満なのだ。おそらくこれは他の宝飾品商には理解できず、またどんな商人にも理解できないことだ。どちらかというと、根っからの宝飾品商でありながら宝飾品の普及に力を入れたい人なのだろう。
「……そのお顔は何か案がありで?」
「いやぁ、一応あることはあるのですが、これをどうあなたに心から納得していただこうかと言葉を探しているところでありまして」
 にやつく頬を抑えて、彼を上から下まで眺め見る。彼が宝飾品商のプライドとして現状を変えたいというのなら、俺は言葉を尽くそうと思う。そんな俺の様子を見たセレスタンさんは表情の読めない顔でこちらを見降ろしている。
「時にセレスタンさん。―――『宝石を売らない宝飾品商』さんになるおつもりはございませんか?」
 なぜなら俺だって言葉を尽くして物事の値段を操ることを生業としている商人の端くれなのだ。

 それから一月が過ぎ、俺がセレスタンさんの宝飾品店へ向かうとセレスタンさんが楽しそうに出迎えてくれた。
「これはこれは、よくぞおいでくださいました。ユーラス様」
「セレスタンさん! どうやら順調そうでよかったです」
 裏から覗いただけでも表の商店は盛況そうだ。
「それもこれもユーラス様にご提案いただきました“婚約指輪”のおかげでございます」
 セレスタンさんがうやうやしげに頭を下げるので、俺はちょっと困って頬かいた。
『婚約指輪っていうのを作ってみませんか?』
 というのが一月前に俺がした提案だ。この国の指輪と言えば宝石のついた指輪と魔石のついた魔道具としての指輪しかない。貴金属の加工がまだまだ未熟な時代に指輪と備品の区別がつきづらかったことと、当時の王様が嫌な奴で未開の地や国に属することをよしとしなかった部族などの木製や石製の指輪を大層馬鹿にしていたとかでただの円環状の指輪を馬鹿にする風潮が根付いてしまったのだとか。提案した時の俺はそんなことを露ほども知らなかったわけなのだが、とりあえずこの国の指輪ってゴテゴテしてて結婚指輪をつけてる人たちがみんな邪魔そうにしてるなぁと思ってたのだ。
「結婚を機に指輪を買う習慣が廃れる恐れと、結婚指輪と婚約指輪を分けることで婚約指輪を高価にしてご婦人方に男性の“たとえ死んでも君を守る”というメッセージを込めるなど私共では思いつきませんで」
 今の宝飾品店の大きな売り上げというのが結婚を機に“これから苦楽を共にして老いていっても私はあなたをこの指輪を身に着けるにふさわしい女性として愛します”と言ってプロポーズした気障なお貴族様が大昔にいたらしく、その真似が大流行して以来慣習として残っているらしい。ちなみに男性側の指輪はその誓いを忘れないためにという意味合いでつけているものなんだそうで、宝石こそついているもののだいぶシンプルになる。
 しかし宝石に興味ない男性はもちろん、日々多くの家事に精を出す女性もあっちこっちに引っ掛けぶつけて例え本人が亡くなって売りに出しても宝石としての価値が全くなくなっていることも珍しくなかったそうで、それならもう分ければ?と提案したのだ。
 この世界には死亡保険などもないので、所謂『結婚指輪、給料の三か月分が目安です』ってキャッチコピーが受けるかなって、男性の三か月分の値段の婚約指輪を贈っておけば例え自分が死んでも奥さんは三か月ぐらいで身の振り方を考えられるだろうという俗説が流行ったやつだ。たしか本当は円とドルの為替の関係で三か月分だったらしいけどね。
 でもこっちならホントに死亡保険も無ければ銀行がないから貯金だってままならない世の中だし、指輪の箱に特徴と宝石の種類でも縫い付けてそれを鑑定書代わりに宝石としての価値が変わっていなかった場合に限り、同じ値段で買い上げるとすれば宝石を担保にした死亡保険の出来上がりだ。
「いや、セレスタンさんの決断の賜物ですよ。俺はてっきりセレスタンさんはこういう売り方はお好き無いだろうと思ってましたから」
 宝石のついていない指輪の販売や、このシステムを利用できないぐらい貧困の家庭のために屑石と呼ばれるほど宝石的な価値がない石で作った婚約指輪で、購入する男性の給料四か月分の値段で買った店舗に持ち込むと申告された給料の手数料に給料三か月分で買い取るシステムを提案したので、宝石に仕えること至上とした執事のようなセレスタンさんには嫌がられると思っていたのだ。もちろん、それでも結果的に価値のある宝石の保護と緩やかながら宝石が返ってくるので土台を変えれば、しばらく宝石が入荷しづらい状況が続いても商売が続けられるという説得をしようと考えていたのだ。
 俺が首をかしげていると、セレスタンさんはゆったり微笑んだ。
「宝石が人々の生活に寄り添い、宝石が幸福の象徴になる事を、なぜ私が厭うことが出来ましょう。私は人々の営みを宝石が彩ることをこんなにも渇望しているのに」
 そう言って微笑むセレスタンさんはやっぱりどっからどう見ても根っからの宝飾品商さんだった。
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