星獣の機迹

なビィ

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051. 猫人の過去

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三人が遺物屋から出て、宿屋とは逆の方向へと歩み始める。



「あたしがこの町に来て間もない頃だったんだけど……。」


ゆっくりと話し始めるアシュリィ。



 ――





――バタン。



「うわっ……。何この扉! おもしろっ!」


人に話し掛けるでもなく、ぼそっと勢いに任せて呟いている女性がいる。

引く力によって重量が変わる扉に驚いたのだろう。


透明感のある琥珀色の髪に美しい金色の瞳。

人間の耳に位置する所からは獣の耳が生え、

肘から手にかけて髪と同じ色の体毛がある。

髪の長さは肩に掛からない程度ではあるが……。


アシュリィである。



一歩を店の中へと踏み出すが、ぶるるっと急に身を震わせ、

きょろきょろと辺りを見渡す。


棚に陳列してある紛い物フェルクルムを発見し、

表情がみるみるうちにキラキラしていく。

両手を頬に当て、何か歓声を上げてしまいかねない程だ。





――ガキィ


奥の方から音がする。

金属、それとも高密度の何かだろうか?


聞き慣れない音の方向に顔を向ける。


そこには受付台があり、その奥でここの主人が作業をしている。



「おやじさん! それっ、何ですか!?」


快活な声を上げ、わくわくしながら笑顔で主人へと問い掛ける。

その声の方向をちらりと見て、


「……半人か……。」


聞こえないほどの小さな声でぼそりと呟く。

そしてまた手元に目線を戻し、作業をしながら低い声で答える。



「ここは買うか売るかの店だ。……どっちだ?」



「あっ、ごめんなさい! 【遺物屋】って初めてで!

 あっ! ううん、この町に来たのもつい最近でどんなものがあるのかな~って!」


変な誤解を解こうとわたわたと身振り手振りで話している。



「邪魔とか冷やかしに来たわけじゃなくてですねっ。

 えっとぉ……。」


意を決したように頷き、





「おやじさん! 私を雇ってくれませんか!?」





「帰れ。」





即答である。

考えることもなく。こちらを振り向きもせず。

冷やかしを追い払うが如く。





   ― ― ― ― ―


貨幣は流通しているが、

旅人として稼ぎを得るためには様々な工夫が必要である。


腕っぷしを生業にするものは行商人の護衛や獣狩りを。

何か特技や芸がある者はそれを披露することで。


その町、村にける集会所にて報酬付きの仕事を探すこともできる。


将又はたまた

手荷物から売買のできる場所への持ち込みをしたり、

その集落に根付いている住民に一時的に雇われる。

といったことも……。



そのため、大概の旅人は決して裕福ではない。


   ― ― ― ― ―





多少の覚悟はして臨んだつもりだったが、

あまりにも想定外な応答に困惑の色を隠せないアシュリィ。


「えっ、あっ……えっ?

 あ、そう! あたし『星の道』から出てきた人わかるんです!

 何だか光っぽいのがぼや~っと見えたり――。」



「それが何になる。」


被せるように冷たく答える主人。



「えっ? あの……! えっと……。」



「お前はここで何がしたい。

 何が見たいんだ。」



淡々と、低く話す。作業の手は止めない。

特に嫌悪といった感情もなく、ただ、ただ聞いてくる。



「あ……。 ……う……。」





言葉に詰まる。



 何となく好きだから――


 何となく関係がありそうだから――



 何となく、見えそうだから――





 ――明確な【意思】はどこにある?





「ないならとっとと帰ってくれ。

 作業の邪魔だ。」




「……!


 ……。

 ……ごめん……なさい……。」



何も言い返すことができず、口を閉ざす。

後を振り向き、とぼとぼと歩いて扉から出ていく。



その華奢な身体は肩を落とし、尻尾と耳はへたりと垂れていた。


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