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052. 主人の心情
しおりを挟む――次の日。
陳列棚の上の紛い物を綺麗に並べていく。
歩くと膝が痛むがこれくらいなら支障はない。
良くも悪くも客の出入りが少ない店だ。
普段は埃が被った物を払うくらいなのだが、
今日は気まぐれで並べ直している。
……昨日、あんな事があったからだろうか。
いつもは静かな店内が、あの瞬間だけ懐かしいくらい賑やかに……
いや、騒々しく一人の女性の声が響いていた。
雇ってくれという話だったが……。
……旅人か。
稀に見る半人だった。住民なら見間違えることもない。
紛い物ならまだしも遺物の扱いは危険が伴う。
生半可な気持ちで取り扱って
一生をふいにすることだってある。
だが……興味深いことも言っていたな……。
『星の道』から出てきた人が分かるなどと……。
……関係のない話か。もう来ることもないだろう。
――。
ふと視線を感じる。
何気なく外の方へ視線をやると、
窓に取り付けてある透明の樹脂の向こう側、
外からこちらの様子を窺っていた獣耳を生やした半人の女性と目が合う。
視線がかち合うや否や、勢いよく死角へ逃れようとするが、
耳がはみ出て見えている。
「……。」
無表情でそのまま少し考え事をするが、
再び作業へと取り掛かる主人。
――キィ……。
ゆっくりと店の扉が開く。
「……こんにちはっ!」
昨日声を掛けてきた時のように笑顔で挨拶をしてきた。
何も変わることはない。
どすの利いた低い声で淡々と返答をしていく。
「何の用だ。昨日言った通り雇う気はない。」
「……!
……そっか! 残念っ!
せめて、品物を見ててもいいですか?」
一瞬寂しそうな顔をするが、再び笑顔で質問をするアシュリィ。
「帰れ。言ったはずだ。
ここは買うか売るかの店で見世物小屋じゃあない。」
頭ごなしに否定され、
さすがにその言葉に少しムッとした顔を見せてしまう。
「買いたいものが見つかるかもしれないじゃないですかぁ!」
「旅人だろう?
しかもあんたみたいな若ぇもんがふらりと寄って買えるもんは置いてねぇよ。」
見た目で判断され、カチンとくるアシュリィ。
「あ……! それはさすがに失礼じゃないですかー!?」
「違うってぇのか?」
資金面では確かに図星ではあるため強く言い返すことができない。
「それは……違わないけどぉ……!
でも遺物とか『星の道』に対しての気持ちは本気だし!!
あたしだっていつか『星の道』行くために一杯調べたりしてるし……!
遺物だってきっと見つけて……!!」
その言葉に反応する主人。
明らかに不機嫌そうな顔をする。
「……いつか……だと?
その言い草だとまだ一度も『星の道』に遭ってねぇみてぇだが。」
「そう……だけどぉ……!」
もごもごと言い淀むアシュリィ。
「本気と言っておきながら旅をしてる割に一度も挑戦してねぇのか。
そのくせ『星の道』から出てきた人が分かる、だぁ?
――ふざけんな。
遺物は単なる便利な道具じゃねえ。『星の道』だってそうだ。
見た目だけじゃなく中身すら半端もんが……!
お前ぇみたいな奴がへらへら笑って取り扱っていいもんじゃねぇ。
……そのままじゃいつか死ぬぞ。
そんなもんはもううんざりだ。……帰れ。」
「……でも……。
……!
これ……もしかして……!」
主人に何か伝えようとしながら
紛い物の一つに手を伸ばそうとする。
だが、それを咎めるように
「触るな! 帰れ!!」
怒声を上げる主人。
その急な大声にびくりと全身を竦めると同時に手を引っ込め、
何とも言えない悔しそうな顔をしながら店を後にするアシュリィ。
――
アシュリィがいなくなったことを確認し、深くため息をつく。
「くそ……!」
右手で両目を覆い隠すようにし、強く呟く。
だがその言葉はアシュリィに対しての苛立ちではなく
自分がしたことへの悔恨の念のように店の中を響かせる。
アシュリィが最後に手にしようとした紛い物をちらりと見、
驚いた顔をする。
「……!
こいつぁ……。
まさか……な……。」
それは直近で買い取ったばかりの紛い物で
人から人へ渡って来たような物ではない。
つまり、『星の道』から入手されて間もない一品である。
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