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064. 海鮮の汁物
しおりを挟む――暫くして。
熊の主人によって料理が運ばれてくる。
背中には持ち運ぶ為に作られたであろう鍋を担ぎ、
歩く度に中の液体が揺れる音が聞こえてくる。
円柱型のその鍋は支えるための足が六つあり、
途中で零れないよう蓋は螺子式でしっかりと止められている。
圧力で変形しないよう、蓋には空気穴もあるようだ。
「お待ちどおさん!」
机の前にゆっくりと降ろす。
蓋を回転させ取り外すと、鍋の脇に引っ掛けて固定する。
鍋の中からは湯気が立ち昇っている。
店の外でも嗅いだあの香りがさらに濃厚なものとなって鼻を擽る。
「良いにお~い。」
高さ調節も兼ねてラウルの膝に座っているリリナが目を閉じてその香りを堪能する。
「これが……海……。」
ラウルも鼻をヒクヒクさせながら興味深げに鍋を見てぼそりと呟く。
二人の様子を見てアシュリィが満足そうな顔をしている。
「ちょっとしたツテがあってな!
海のもんなんてそうそう出くわさねぇだろ?
口に合えば良いんだがなぁ!」
再び楽しそうに笑いながら、鍋の脇に取り付けてあった食器で中身を掬い
一人一人、目の前にある器へと装われていく。
食器類は先程、料理が来る直前に準備されており
リリナとアシュリィには人間用の器が、
ラウルには獣人用の別の器具も用意された。
その器へと注がれていく液体は透明な飴色で、
魚、海藻、貝、海老などといった具材も丁寧に下処理されて煮込まれていた。
器へ注がれ、空気と混ざることで更にその香りが芳醇なものとなっていく。
濃厚であるものの、決して臭みはなく、すっと鼻を抜けるあっさりとしたその香りは
再び食欲を掻き立ててくるものだ。
「おぉ……。」
ラウルが静かに感動している。
その香りに対してなのか、海に対してなのかは分からない。
「また後で別のもん持って来るからな!
それまで楽しんでいてくれ!」
そういうと鍋をまた担ぎ、別の客席の元へと足を運んでいる。
「じゃ、頂くとしましょうかっ!」
置かれていた匙を手に持ち、その美しい飴色の液体を掬う。
息を吹き掛け、その風で揺れる液体がきらきらと輝いて見える。
琥珀色をした髪を耳に掛けるその仕草は、
とても先程までラウルのことを揶揄って笑っていた人物とは到底思えない。
そのまま淑やかに口へ運ぶアシュリィ。
「は~……っ。
これこれ、あったかくてほっとするのよねぇ。」
心なしか体の緊張も解れ、柔らかくなったかのようにも見える。
その光景を見ていた二人がごくりと喉を鳴らし、同時に自分の食器を手に持つ。
ラウルはリリナを乗せた片膝を開き、お互いの食器に干渉しないようにしている。
リリナがアシュリィの真似をして匙で掬い、
息をふぅふぅと一所懸命吹き掛ける。
恐らく良い感じに冷めたであろう頃合いで
邪魔にはなっていなかったはずの銀髪を耳に掛ける。
そして、口へとその液体を含む。
「ん~……っ!」
透明な色からは想像もできない程の、舌に乗せた瞬間に広がる濃厚な旨味。
鼻へと抜ける芳醇な香りによって更にその味が深みを増していく。
味わったことのない食事を前に、リリナはただ只管に感動することしかできない。
一度匙を器に置き、頬に両手を当ててゆっくりとラウルに寄りかかる。
「ほあ~……。」
味の余韻に浸り、放心状態となることを選んだリリナ。
顔はうっとりと幸せそうだ。
食器自体は全て木製で、ラウルが手に持った獣人用の食器もそれに違わない。
持ち手は匙と同じような作りではあるが、
その先は底の浅い水差しのようになっている。
ただし、必要分を掬って冷ますために中の液体を回すことができるよう
鼠返しのような構造になっており、それを行うための細い匙も用意されている。
冷めた頃合いで舌へと数滴垂らし、味を楽しむ。
飲む時は喉元へと流し込むといった具合だ。
中には浅い皿から液体の水面を直接舐めとるような行動をとる者もいるが、
周りからはあまり良く思われない。
ラウルが匙を使い、味を確かめる。
「――!!」
目がカッと開き、口の中の余韻を確かめている。真剣そのものだ。
ゆっくりと首を擡げ、まるで遠吠えでもしそうな状態ではあったが
途中で気付いて顔を元の位置に戻していき、一言。
「これが……海……!!」
真剣な表情で先程と一言一句同じ言葉を聞かされ、
アシュリィが人知れず吹き出しそうになっていた。
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