星獣の機迹

なビィ

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065. 酸味の黄実

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「ラウルにはちょっと悪いことしたかなと思ったけど、

 楽しんでもらえてるみたいで良かったよ。」



笑って涙目になっていたアシュリィが話し掛ける。

料理の入った器をキッと鋭く見つめていたラウルがその声に気付き



「……あぁ。汁物屋は面倒臭がって避ける人も多いからな。

 俺は特に気にしない。」


言い終えると待ちきれないとばかりに再び料理を堪能し始める。





――人や猿、河馬といった一部の種族を除き、

獣人の多くは水分を口中で維持することが不得手な構造をしている。


先人達の知恵により、それを補う食器が開発されてはいるものの

液体状の食事を楽しむのには一手間二手間と掛かってしまう。

そのため【汁物屋】は獣人達にとってあまり需要がない。



熱を冷ますため、匙で掬った料理に息を吹き掛けるアシュリィ。

その行動も、人間の口を持っている者の特徴と言える。


アシュリィは半人であるため、人間と同じ構造をしている部位が多い。

獣人の部分としては、人間の耳の位置ではあるが毛の生えた大きな耳。

尻尾、肘や膝辺りから指先までは体毛があり、瞳孔の動きは猫そのものを連想させることがある。


これらの部位が獣人としての構造を継承しているのは

数少ない半人でも少なからず共通していることだろう。



「それにしても、触感や味も初めての物ばかりだ。

 ……しかも美味い……!

 汁物屋じゃなければもっと繁盛しただろうに。」


ラウルが獣人用匙から通常の食器へと変更し、具材を堪能し始めている。


味は言うまでもなく、海鮮という、この地域にとっては珍味とも言える食材を使ってはいるものの、

昼の食事時にしては人の入りがあまり良くないのである。



「あ、それなんだけどね。

 素材を余すことなく使うなら汁物だ! っていう信念があるらしくてね。

 それにこの町は人間も比較的多いから、そんなに赤字になることもないらしいの。」


声色を真似しつつ説明をするアシュリィ。

ふとラウルの膝に座っているリリナが目に入る。


まだ目を閉じ、ラウルへと寄りかかっているが

空になっている口をもむもむと動かし、未だに最初の一口の余韻を楽しんでいる様子だ。


「リリナちゃんっ、まだあるからっ!

 いっぱい食べていいからっ! ねっ?」


その言葉でハッと我に返るリリナ。

再び、机に置いてある食器を手に食事を再開していく。



 ――


口にしては満足し、食べては感動し、時間を掛けて堪能していたリリナが

食べ終わる頃、熊の主人が大皿数枚を持ってやって来る。



「今日はシュリちゃんが頑張って払ってくれたからなぁ!

 更におまけしといたから目一杯食ってくれ!

 狼の兄ちゃんもそろそろがっつり行きてぇだろうと思ってな!」



底のある器には先程のあっさりとした料理ではなく、

出汁を元として、魚や貝の身が溶けるほど煮込まれてとろりとした茶色の液体に

若干の香辛料を加えられて味が引き締まった物。


大皿には立派な魚や海老がこんがりと焼かれ、塩が振られている。

腹にがつんと来る香ばしい香りが辺りに漂い始めている。


「身をそのまま食っても旨ぇが、それに付けたらもっと旨ぇぞぉ!」


とろりとした液体と、淡白な白身の海鮮達が

ラウル達の目の前に配膳されていく。

アシュリィも普段食べない料理なのか、目をランランと光らせごくりと喉を鳴らす。



「あっ、ラウルっ。あれっ、あれっ!」



リリナが頭上へと振り返り、指を指す。


その指の先にあったもの。

それは、焼き料理の脇に添えられている黄色い小さな木の実だった。





「ラウルがくれた木の実ぃ!」



嬉しそうにラウルへと話し掛ける。


リリナを救い、初めて与えた食事の一部である。

酸味の強い木の実で、顔をくしゃっとさせていた。


そのことで苦手意識を持ってしまったというわけでもなく、

それよりも【ラウルからもらった物】としての印象が強いようだ。



「あぁ、そうだな。同じものだ。」



ラウルも思い出し、顔を綻ばせる。





その、二人だけの記憶のやり取りを傍から見ていたアシュリィの表情はとても穏やかで

慈愛に満ち溢れていた。


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