星獣の機迹

なビィ

文字の大きさ
69 / 85

069. 丘陵の午睡

しおりを挟む


「これは……本当に良かったのか?」


年季の入った木製の柵を乗り越え、後ろを振り向きながらアシュリィに問いかけるラウル。

町を囲うように立っているその柵は、外敵からの侵入を防ぐような物ではなく

『この内部は町である』という区切り程度にしか効力を持ち合わせない。

高さもアシュリィの腰ほどしかないため、町の子供達の遊び道具にもなっているようだ。

所々に小さい足跡で踏み固められた地面が目に入る。



「いいのいいの。門番さんに確認したこともあるんだから。

 町に入ってくる人がどんな人か確認できればいいだけなんだってさ。」



中心部に比べ町の外れは長閑なもので、もはや片田舎と言っても差し支えない程だ。



「もうすぐで着くから。

 あ~……いい天気ねぇ……。」


昼過ぎの優しく暖かな日差しが食後で腹が膨れた身体を包む。

指先が熱を帯びるようなふわふわとした脱力感を覚えつつ、

アシュリィを先頭に町からすぐ近くの小高い丘を目指している。


リリナは既にウトウトとしているが

昼寝をするまで我慢しているのか、頬をぺちぺちと叩きながら歩いている。





 ――



先頭に立つアシュリィが丘の上へと辿り着き、

腕を広げてその場所を示す。


「はい~、お待たせ~。」


アシュリィも陽気に当てられたのか、力の無い話し方で

横になればすぐに眠ってしまいそうになっている。



そのすぐ後からリリナ、ラウルと続く。



丘の先には草原が広がっている。

手前には、丘の大きさに比べると控え目な一本の木が生えており、

その付近には薄黄緑色の短い草が絨毯のように敷き詰められている。

足元を踏み締めると柔らかな感触があり、

風が吹くと、草が擦れ合うさらさらとした耳障りの良い音が辺りに奏でられる。


所々小さい花も咲いており、白や黄色、淡い桃色などが顔を出し、

ささやかなものではあるが、ほんのりと甘い香りを放っている。


暖かな陽が眠気を誘う。





「あぁ、これは確かに気持ち良さそうだ……。」


ラウルもその光景を目の当たりにし、

二人程ではないにせよ、多少の満腹感に身を委ねようとしている。





「この辺りで適当に寝転がるだけでも気持ちいいよぉ~。」


そういうと木の下へ倒れ込むように、日差しと日陰が交差する場所へ横になるアシュリィ。



「私もぉ……。」


アシュリィに倣うようにその横へ倒れ込むリリナ。





外で寝る時は警戒を怠らない姿勢で眠るラウルだが、

この時、今日ばかりはと、リリナを真ん中にしてゆっくりと横になる。


ふわりとした草の感触が心地良く、

花と草、程よい土の香りが安らぎを与え、

草の擦れる音が子守唄となる。


日差しは全身を包み込み、満腹感のある身体は瞼を重くさせていく。


「(たまには……こういうのも……悪くない……な……。)」





――三人が穏やかな寝顔を見せるまで時間は掛からなかった。





 ――



――。



……。



……ん。




 ― よく寝たぁ。


熟睡していた身体をほぐすかのようにぐっと伸びをする。

眠って固まっていた全身が、心地良い刺激とともに覚醒していく。



 ― ん~。


瞼がまだ思いがゆっくりと目を開ける。まだ明るい。

時折吹く風が心地良い。



 ― 二人がまだ寝てるなら二度寝も悪くない……かな。


横を向く。

ラウルが時折「ふごっ」といびきをかいている。

普段の素振りからはあまり想像できないその声がまた面白い。

くすくすと笑いながらその手前のリリナの様子を確認する。





「――!?」





泣いている。起きてはいないのだろうが、頬を涙で濡らしている。

または、さっきまで起きていたのだろうか。

泣き疲れて眠ってしまったようにも見える。





「……ラウル……。」


これは寝言だ。


……。

寝言だが……それが意味することは非常に重い。



胸がきゅっと締め付けられる。

……。





「……!」



よく見ると、二人とも眠ってはいるが

ラウルの尻尾がリリナを暖めるように掛けられ、

その大きな体は小さな少女を守るように眠っている。



「……この……ばか狼……!」



絞るように声を出し、少し俯いた後、

キッと町の方角を見据えて立ち上がり、走り出した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた
ファンタジー
【空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!】 台風の夜、魔女はホウキで空を翔け――嵐と戦う! この街で台風と戦うのは、ホウキで飛ぶ魔女の仕事だ。 空を飛ぶ魔女に憧れながらも、魔法が使えない体質のため夢を諦めたモチコ。 台風の夜、嵐に襲われて絶体絶命のピンチに陥ったモチコを救ったのは、 誰よりも速く夜空を飛ぶ“疾風迅雷の魔女”ミライアだった。 ひょんな事からミライアの相方として飛ぶことになったモチコは、 先輩のミライアとともに何度も台風へ挑み、だんだんと成長していく。 ふたりの距離が少しずつ近づいていくなか、 ミライアがあやしい『実験』をしようと言い出して……? 史上最速で空を飛ぶことにこだわる変な先輩と、全く飛べない地味メガネの後輩。 ふたりは夜空に浮かんだホウキの上で、今夜も秘密の『実験』を続けていく――。 空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...