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069. 丘陵の午睡
しおりを挟む「これは……本当に良かったのか?」
年季の入った木製の柵を乗り越え、後ろを振り向きながらアシュリィに問いかけるラウル。
町を囲うように立っているその柵は、外敵からの侵入を防ぐような物ではなく
『この内部は町である』という区切り程度にしか効力を持ち合わせない。
高さもアシュリィの腰ほどしかないため、町の子供達の遊び道具にもなっているようだ。
所々に小さい足跡で踏み固められた地面が目に入る。
「いいのいいの。門番さんに確認したこともあるんだから。
町に入ってくる人がどんな人か確認できればいいだけなんだってさ。」
中心部に比べ町の外れは長閑なもので、もはや片田舎と言っても差し支えない程だ。
「もうすぐで着くから。
あ~……いい天気ねぇ……。」
昼過ぎの優しく暖かな日差しが食後で腹が膨れた身体を包む。
指先が熱を帯びるようなふわふわとした脱力感を覚えつつ、
アシュリィを先頭に町からすぐ近くの小高い丘を目指している。
リリナは既にウトウトとしているが
昼寝をするまで我慢しているのか、頬をぺちぺちと叩きながら歩いている。
――
先頭に立つアシュリィが丘の上へと辿り着き、
腕を広げてその場所を示す。
「はい~、お待たせ~。」
アシュリィも陽気に当てられたのか、力の無い話し方で
横になればすぐに眠ってしまいそうになっている。
そのすぐ後からリリナ、ラウルと続く。
丘の先には草原が広がっている。
手前には、丘の大きさに比べると控え目な一本の木が生えており、
その付近には薄黄緑色の短い草が絨毯のように敷き詰められている。
足元を踏み締めると柔らかな感触があり、
風が吹くと、草が擦れ合うさらさらとした耳障りの良い音が辺りに奏でられる。
所々小さい花も咲いており、白や黄色、淡い桃色などが顔を出し、
ささやかなものではあるが、ほんのりと甘い香りを放っている。
暖かな陽が眠気を誘う。
「あぁ、これは確かに気持ち良さそうだ……。」
ラウルもその光景を目の当たりにし、
二人程ではないにせよ、多少の満腹感に身を委ねようとしている。
「この辺りで適当に寝転がるだけでも気持ちいいよぉ~。」
そういうと木の下へ倒れ込むように、日差しと日陰が交差する場所へ横になるアシュリィ。
「私もぉ……。」
アシュリィに倣うようにその横へ倒れ込むリリナ。
外で寝る時は警戒を怠らない姿勢で眠るラウルだが、
この時、今日ばかりはと、リリナを真ん中にしてゆっくりと横になる。
ふわりとした草の感触が心地良く、
花と草、程よい土の香りが安らぎを与え、
草の擦れる音が子守唄となる。
日差しは全身を包み込み、満腹感のある身体は瞼を重くさせていく。
「(たまには……こういうのも……悪くない……な……。)」
――三人が穏やかな寝顔を見せるまで時間は掛からなかった。
――
――。
……。
……ん。
― よく寝たぁ。
熟睡していた身体を解すかのようにぐっと伸びをする。
眠って固まっていた全身が、心地良い刺激とともに覚醒していく。
― ん~。
瞼がまだ思いがゆっくりと目を開ける。まだ明るい。
時折吹く風が心地良い。
― 二人がまだ寝てるなら二度寝も悪くない……かな。
横を向く。
ラウルが時折「ふごっ」と鼾をかいている。
普段の素振りからはあまり想像できないその声がまた面白い。
くすくすと笑いながらその手前のリリナの様子を確認する。
「――!?」
泣いている。起きてはいないのだろうが、頬を涙で濡らしている。
または、さっきまで起きていたのだろうか。
泣き疲れて眠ってしまったようにも見える。
「……ラウル……。」
これは寝言だ。
……。
寝言だが……それが意味することは非常に重い。
胸がきゅっと締め付けられる。
……。
「……!」
よく見ると、二人とも眠ってはいるが
ラウルの尻尾がリリナを暖めるように掛けられ、
その大きな体は小さな少女を守るように眠っている。
「……この……ばか狼……!」
絞るように声を出し、少し俯いた後、
キッと町の方角を見据えて立ち上がり、走り出した。
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