運命の番は僕に振り向かない

ゆうに

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11 水族館





「お疲れ様」
「あ、お疲れ様です」

会社の休憩時間、自動販売機の前にいた千遥に観月が声をかける。
「飲む?」と差し出してくれたカップコーヒーをお礼を言って受け取る。

「この前は途中で帰っちゃってごめんね。あの後大丈夫だった」
「あ、いえ…美味しい中華が食べられてよかったです」
「そう?」

「あの、観月さん…」
「何?」

「もし…観月さんが探してた運命の番と出会えたとして、それなのに運命の番は自分に全然興味がなくて恋人になる気もなかったらどうします?」
「え?」
「あ、そんなことなかなかあることじゃないってわかってるんですけど……
運命の番が全然タイプじゃなくて全く好きになれない場合もあるんじゃないかって…ふと、思ったんです」

こんなこと聞いて変に思われたかもしれない。観月の顔を見れず千遥は視線を下に向ける。
それでも、恋人だった藤郷を振ってまで運命の番を探すことを選んだ観月にどうしても聞いてみたかった。

「んー?そんなことあるのかな?運命なら出逢った瞬間、もうどうしようもなく惹かれ合うんだと思ってたから、考えたこともなかった」

観月は律儀にも千遥の不躾な質問に答えてくれた。

「そうですよね。変なこと言ってすみま――」

「でもそうだよね。確かにびっくりするくらい運命の相手が全然タイプじゃないってこともあり得るのかー。んー、自分だったらとりあえず好きになってもらえるよう努力するな。絶対振り向かせてやるって」

観月の少し緑がかった大きな瞳がキラキラと輝いて見えた。意志の強さを感じさせる綺麗な瞳。こういうところに藤郷も惹かれたのかもしれない。

「もし…それでも、どうやっても駄目だったら?」

尚も食い下がる千遥の真意を探るように観月はじっとその大きな瞳で千遥を見つめた。
深いダークグリーンの瞳に全部を見透かされてしまいそうで千遥はまた目を伏せる。

「…全部やり尽くしてそれでも駄目だったら、諦めがつくのかな。…まあ、全部想像でしかないけど。
実際に運命の番に出逢ったら、諦めることなんてできるかわからないけどね
これで答えになってる?」

「あ、はい。急に変なこと聞いてすみませんでした」

「ううん、いいよ」

ちょうどそこで藤郷が観月を呼びにやって来た。この後、仕事の打ち合わせがあるようだ。
「じゃあね」と明るく手を振る観月にぺこりと頭を下げる。隣の藤郷は千遥の方を見もしなかった。








「あ、そうだこれあげる」

昼休み、千遥の自作弁当を食べていた小山内が思い出したようにポケットから何かのチケットを二枚取り出す。

「これは?」

「水族館のチケット、もらったんだけど忙しくて行けそうにないから良かったら千遥くん使って」

「そんな、悪いです」
「気にしないで。使用期限も迫ってるから、使ってくれたら嬉しいな。千遥くん前に、気になる人がいるって言ってたろ?誘ってみたら?」

「…たぶん断られます」

「そうかな、誘ってみたら案外いけるかもしれないよ。まあ、友だちと行ってくれてもいいし」





藤郷には今までお弁当も食事もことごとく断られてきた。
今回もきっと断られるに決まってるけど、誘うだけなら無料だ。藤郷がもしかして無類の魚好きの可能性だってある。



「あ、あの」
「……なんだ?」

「す、水族館のペアチケットをもらいまして、よかったら今度一緒に行きませんか?」
「…は?なんで俺がお前と?」
藤郷はあからさまに眉根を寄せる。

予想通りの反応に千遥は一瞬怯むが、もう少しだけ勇気を出す。

「藤郷さんと会社だけでなくどこかに出かけてみたいんです。予定も合わせますし、短時間でもいいです」
「俺は――」

「…らっ、来週水曜日に水族館の前で待ってますから、来れたら来てくださいっ」

「おい、待て―」

断られる前にチケットを強引に押し付け、逃げるようにその場を後にした。




翌週の水曜日――

千遥は水族館の前で藤郷を待っていた。
千遥の会社は水曜日が基本残業なしの日なので、社員はほとんど定時で帰る。藤郷のような役職者は例外かもしれないが、他の曜日よりはきっと都合がつくはずだ。

そのまま一時間ほど待ったがやはり藤郷は来ない。
少し前からパラパラと雨が降り出し、景色が湿っていく様子をぼーっと見ていた。
もうすぐ閉園一時間前、最終入場時間になってしまう。

(やっぱり来ないよね)

あまり期待はしていなかった。ほとんど強引にチケットを渡して一方的に約束を取り付けたのだ。
勝手なやつだと腹を立てているに違いない。
いや、そもそも千遥との約束などどうでもよすぎて忘れているかもしれない。

(せっかくだしひとりで見てこうかな…)

期待はしなかったが、奇跡的に藤郷が来てくれた時に備えて水族館の見どころはひと通り予習した。

鞄からチケットを取り出そうと下を向いていたとき、視界の端に革靴が入る。
咄嗟に顔を上げる。

来てくれるなんてほとんど思ってなかった。

目の前に藤郷侑が立っていた。




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