運命の番は僕に振り向かない

ゆうに

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14 どうして…






どうして僕の運命の番は藤郷侑だったのだろう。

圧倒的な存在感、美しい容姿と社会的地位。すべてをもっている。
何一つもっていない千遥とは何もかもが違う。
神様がいるとしたら、なぜ完璧な彼の運命の番を千遥にしたのか聞きたい。

別に、素晴らしい相手でなくてもよかった。
千遥だけを愛してくれればどんな人でもよかった。

ずっと孤独だった千遥にこれからはひとりじゃないよって言って抱きしめて欲しかった。

手を繋いで一緒に出かけたかった。
何気ないことに笑いあって、美味しいものを一緒に食べて、小さな幸せを感じたかった。

藤郷とは何一つ叶わなかった。



◇◆




「伊井田さん、買い物頼んで良い?」
「はい、大丈夫です」

千遥は今、地方の小さな町にあるオメガの保護施設で生活していた。


発情期のあと衝動的に身の回りのものだけ鞄につめて、逃げるようにアパートを出た。
あてもなく電車を乗り継いで、頭にあったのは二度とあの甘い香りが届くことのないできるだけ遠くに行くことだった。

名前も知らなかった終点駅でさらに行き先も確認せずバスに乗った。
そうして最終的に行き着いた田舎の町の小さな港で、これからどうしたらいいかわからず、ただ海を見ていた。


そのとき声をかけてきてくれたのが、今生活している保護施設を運営してる人だった。
あとから話を聞くと今にも海に身投げしそうに見えて思わず声をかけたと言われた。

保護施設には様々な理由で生活が立ち行かなくなったオメガが身を寄せていた。

保護施設に来て、初めの一ヶ月ほどはせっかく紹介してもらった仕事を無責任に辞めてしまった罪悪感と、運命の番と自ら離れる選択をしてしまったことが辛く悲しくて、ほとんど引きこもって過ごした。

それでも二ヶ月経つころには気持ちが少しずつ落ち着き、外出することもできるようになった。
そうするとただお世話になっているのも気が引けて、今日みたいに簡単な買い出しとか施設の手伝いをして日々を過ごしている。


三ヶ月が過ぎてしばらく経つ頃に、ふと発情期が来てないことに気がついた。
千遥は今まではわりと定期的に発情期が来る方だったから気になって、一応病院にも行ったが、医者からは異常は見当たらない、恐らくストレスだろうと言われた。

(ストレス…思い当たることが多すぎる…)

特別な絆で結ばれているはずの運命の番にさえ冷たく扱われ、堪えきれなくて逃げ出した。
かなりのストレスだったろう。
今だって思い出すと心がじくじくと痛みだす。

きっと藤郷の方は既に千遥の存在なんてなかったようにきれいさっぱり忘れて普通に過ごしていることだろう。


病院で処方された薬は飲まなかった。

発情期なんて来ない方が楽でいい。
その方が、落ち着けばベータみたいに生活できるかもしれない。

運命の番にさえ相手にしてもらえない。
きっとこの先自分のような魅力なしのオメガに恋人なんてできないから。
もうどうでもいい。

もう何も期待しないでひとり生きていくしかない。
寂しくないと言えば嘘になるけど、だからってどうしようもない。千遥には誰もいないのだから。


頼まれた買い出しを終えて、買い物袋をもち施設への帰り道を歩く。と――


「伊井田千遥」

(嘘、この声…)

動揺で鼓動が大きく跳ねた。

「あっ…どうして…?」

もう二度と会うことはないと思っていたのに。

不機嫌そうな表情で藤郷が近づいてくる。彼の長い脚であっという間に距離を詰められる。

みっともなく身体が震えた。
彼は怒っている。きっと罵倒される。

もうこれ以上運命の番に心を傷つけられたくない。

「ご、ごめんなさい。連絡もしないで、勝手に会社を辞めてしまって…給料も時間はかかりますがすべてお返ししますので…」
「その必要はない」

逃さないとでもいうように藤郷がガシリと千遥の貧相な肩を掴んだ。
「ひっ…」

蚊の鳴くような小さな悲鳴が千遥の口から漏れる。
このまま警察に突き出されるのだろうか。

(何の罪…きゅ、給料泥棒とか…?)

「悪かった」
「…え?あの…」

罵倒されると思っていたのに藤郷の口から出た謝罪の言葉に肩透かしをくらう。

「お前がいなくなった理由は俺だな?」
「え……」

そうだけども、面と向かって「そう」とも言えず千遥は口籠った。

「お前に対する態度が悪かったと反省している。改善するから戻ってきてくれないか?」
「もどる?」
「ああ。退職の手続きはしてない。会社ではお前は体調不良で休んでいることになっている」
「ど、どうしてそこまで?」

突然辞めたことで多大な迷惑をかけたのは理解していたが、やっと仕事に慣れてきた新人レベルの千遥を雇用し続ける理由がわからない。

「眠れないんだ」
「?」
「近くにいるときはわからなかったんだ。お前の香りがないと落ち着かない」
「僕の香り、ですか?」
「ああ」

「だから戻ってきて、俺の近くにいてほしい。何か不満があるなら…すべては無理かもしれないができるだけ改善するから」

そうやって千遥を見つめ真剣に話す藤郷の顔を改めてよく見ると、目の下に濃いクマができていていつもの精悍さが見られない。心なしかやつれたようにも見える。

「えっと、つまり藤郷さんは僕のが必要ってことですか?」
「ああ…そういうことだ…不本意だがな…」

(不本意…)
「………」

急な話に考えがまとまらず、千遥は混乱する頭で必死に考える。
藤郷は不本意ながら、アルファの本能的なもので千遥のオメガの香りがあると落ち着くらしい。
つまり番になる気はないが、香りは必要ということか。

(それって都合が良すぎない…?)
藤郷のもとを離れ、しばらく平穏だった心がまたモヤモヤする。

それでも…オメガが一から仕事を見つけるのはかなり大変だって千遥は嫌というほどわかっている。
現実的に、このままずっと施設を頼って暮らしてばかりはいられない。
だから仕事があって、それを続けられるのは有り難いことなのだ。
それなら――

「戻る代わりに一つ約束してくれませんか」
「何だ?」
「あまり僕に冷たくしないでほしいです。自分の立場はもう充分わかりましたから。社内ではできるだけ関わらないようにしますので…」

「わかった」

藤郷が即答する。

表情は全く読めないが、これで安眠ができると安堵しているのかもしれない。







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