運命の番は僕に振り向かない

ゆうに

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16 復帰




千遥が仕事に復帰して一週間が経った。
初日は長期間無断で休んでいたことを非難されるかもしれないと緊張しながら出勤したが、杞憂に終わった。藤郷によって千遥はオメガ特有の不調で長期間療養が必要だったということになっていて、千遥の教育係だった倉木をはじめ数人に逆に体調を心配され後ろめたく感じるほどだった。



昼休みになり廊下を歩いていると、偶然藤郷とすれ違う。
千遥はぺこりと会釈して、そそくさとその場を離れた。

こちらに戻ってきてから千遥は藤郷に近づきすぎないように、一社員としての距離感を保つように気をつけている。
一度彼から食事に誘われたが、やんわりと断った。以前の千遥なら喜んで食事に行ったろうが、今はもう自分の立場は痛いほどによく理解できている。
彼にとって千遥は、しかたがないからそばに置く、それだけの存在。藤郷によると甚だ不本意だが、千遥のオメガの香りが近くにあると落ち着くらしい。
確かにここ最近藤郷の目の下のクマは、よく睡眠がとれているのか改善している。

食事に誘ったのも、千遥がまた逃亡しないように機嫌をとろうとでも思ったのだろう。
本当は面倒だろうに。

千遥としてはまた変に期待して彼に近づいて傷つけられるのは絶対に避けたい。
逃亡する前の千遥の心はボロボロに傷ついていて、修復するのにとても時間がかかった。
もうあんなに辛い思いは絶対したくない。


昼休み、久しぶりに営業部の小山内と待ち合わせて一緒に昼食をとる。

「病み上がりなのに、俺の分まで弁当作ってもらって悪かったね。本当にもう身体は大丈夫なの?」

本当は長期の体調不良なんて嘘なのに、でも本当のことは話せなくて。何も知らず心配してくれる小山内に申し訳なくてチクリと胸が痛む。

「はい、もう大丈夫です。それにお弁当は本当にいつも多めに作っちゃって食べきれないので、食べてもらえて嬉しいくらいです」

今までは藤郷のために作っていた弁当。何度作って行っても断られて結局一度も食べてもらえなかった。それももう必要はないから二人分つくるのはやめようかと思ったが、昼休みに小山内ととりとめのない話をしながら一緒に食事をとることも無くなってしまうのはなんだか寂しい気がしてつい二人分作ってしまったのだ。

「千遥くんは本当優しいね」

爽やかに笑った小山内に、優しくかけられた言葉が
嬉しくて千遥もつられて笑う。

不意に小山内の手が優しくポスポスと千遥の頭を撫でた。
「え?」
千遥が首を傾げると、小山内が少し照れたように言った。

「あっごめん。つい。なんか、可愛くて…」

(可愛い??…犬的な?)

パシッ

突然人影が現れたと思ったら、千遥の頭をポンポンしていた小山内の手を掴んで藤郷が立っていた。

「「?」」

小山内も驚いた顔で藤郷を見て動きを止めている。

「社長?」
「あー、叩かれていると思ったんだが違ったようだな。すまない…失礼する」

はっとして、どこか気まずい顔をした藤郷は小山内の手を離すと、そのまま立ち去った。

(一体なんだったんだろう?)

社長のなぞの行動に、残された千遥と小山内はお互い顔を見合わせ首を傾げる。

「あっ、千遥くんもしかして、頭痛かった?力強すぎた?」
「いえ全然」

千遥はふるふると首を振った。



◇◆



社長室に戻った藤郷は椅子に座ったままフリーズしていた。


昼休みに二人分の弁当を手に持つ伊井田千遥をたまたま見かけて、また懲りもせず自分に作ってきたのだろうと思った。
以前からずっと断っているのに、何度も作ってくるのを鬱陶しく思っていたが、一度くらいもらってやった方がいいだろう。
"冷たくするな"という彼との約束もある。

正直、よく知らない人間の作った手料理など、口にしたくない気持ちの方が強い。
しかし今回は受け取ってやるかと伊井田の前に藤郷はわざわざ顔を出した。
それなのに伊井田千遥はこちらと目が合うと気まずそうにぺこりと会釈して、そのまま藤郷には声をかけずに行ってしまった。

その後伊井田が二人分の弁当をどうするのか、ほんの少し気になって様子をうかがっていると、会社に同時期に入社した営業部の小山内と共に食事を始めた。

二人は同期ということもあり藤郷の知らないうちにそれなりに打ち解けていたらしい。

本当に、極めてどうでもいい。

ただ、伊井田千遥の頭に触れた小山内の手がほんの少し邪魔に感じた。
…それだけだ。




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