運命の番は僕に振り向かない

ゆうに

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25 小山内の受難



「あの、小山内さん良かったら今度夕飯食べに行きませんか?」
「おっ、いいね。行こう行こう」

休み時間にちょうど小山内と顔を合わせた千遥は思い切って話をする。

「あの、他に会社の人も一緒なんですけどいいですか?」
「うん。もちろん大丈夫だよ」
ニッと爽やかに笑って小山内が答えた。


小山内はてっきり一緒に食事するのは千遥と同じ総務課の社員だと思っていた。
だから待ち合わせ場所に来たのが、藤郷社長だとわかり一気に固まった。

「ちちち千遥くん?一緒に行くのって、もしかして社長なの?」

「はい…そうです」
(すみません、小山内さん…)

「藤郷社長お疲れ様です。ちょうど小山内さんと会って、今日の食事小山内さんも一緒にいいですか?」

「……ああ」


とても了承している顔ではない。
小山内には藤郷の背後に黒いものが蠢いているように感じた。
(えっこわいこわいこわい)

小山内はおもむろにポケットから携帯を取り出す。
「あー、すみません。急に取引先から連絡が入って対応しないといけなくなりました」

「えっ、小山内さん?」
「ごめん千遥くん。すみません社長、失礼します」

小山内は駆け足で帰っていった。







「千遥くんこの前は食事、急にキャンセルしちゃってごめんね」

昼休みに千遥の作った弁当を一緒に食べながら、小山内が申し訳なさそうに言った。
最近小山内は忙しいようで以前より一緒にお昼を食べる機会も減っていた。

「いえ、忙しかったのにこちらこそすみません。それに社長が来てびっくりさせちゃいましたよね」

「それは本当にびっくりしたよ。千遥くんってよく社長と食事に行くの?」
「い、いえ…そういう訳でもないんです。たまたまです」
「たまたまか…」
言いながら先日の小山内が待ち合わせ場所に現れた時の藤郷の、目が全く笑ってない表情を思い出し、ブルリと身体を震わせた。

「庶民的なお店の料理の感想を聞かせてほしいって頼まれたんです」
「えっ、社長に?なんで?」
「僕もよくわからなくて…仕事に必要なことなのかなって」
「仕事に…?それって口実で、ただ単に千遥くんと食事したかっただけじゃないかな」

「いえ、それはないと思います」
千遥がきっぱりと言い切る。

「そうかな。……千遥くん、ひょっとして前に言ってた気になる人って社長?」

「い、いえっ、ゴボッゴボッ」
急に小山内に言い当てられて慌てた千遥は食べていた弁当のおかずを喉に詰まらす。

「大丈夫?お茶飲んで」
「すみません……」

お茶を飲み、息を整えた千遥は視線を落としたままぽつりと言った。
「実はとっくに社長には振られてるんです。だから僕と食事に行きたいなんてあり得ないんです」

「そうだったんだ。ごめん言いづらいこと聞いちゃって…」
「いえ、いいんです。もう終わったことです」

「うーん。でも振った相手と食事なんてちょっと思わせぶりだよね」
「そ、そうですよね!僕は本当にそういうの慣れてないので、優しくされるとすぐに勘違いしちゃいそうになります」

「それは誰だって勘違いするよ。振った相手に必要以上に優しくするなんて普通しないと思うよ……??
も、もしかしたら社長も振ったこと今頃後悔してるのかもしれないよ。千遥くんはこんなに美味しいお弁当作れて、優しくてチャーミングだし。勿体ないことしたなって思ってるかも」
「チャーミングって…褒めすぎです小山内さん。社長が僕に対してそんなこと思うはずありません」
褒められ慣れてない千遥は少し照れながら答える。

「あ、案外、今、弁当作って渡したら喜ばれるかもしれないよ?」
「いえ…もう、良いんです…」

「そ、そう?」  
小山内は千遥に笑顔をむけつつ内心冷や汗をかいていた。
実は途中からずっと感じていた。
アルファの特有の威圧感を。
千遥と一緒に弁当を食べる小山内にむけた。
隠れてこちらを窺うのが誰かわかるような気がするが、深く考えるのはやめて、小山内はできる限り早く弁当を食べ終えることに集中した。

(ひー、すごい圧…そんなに千遥くんの弁当が食べたければ自分で言えばいいのに…)







営業部のデスクで仕事をしていた小山内はふと視線を感じて顔を上げる。
すると藤郷がこちらを見下ろすように無表情で立っていた。

(ひっ)
「あ、あの社長、何か?」
笑顔を若干引くつかせながら小山内が尋ねる。

「…机の上のその変わったペンはもらいものか?」
藤郷の視線の先には以前千遥にお土産としてもらったクラゲのペンがあった。
正直書き心地は良くないので、ペン立てに立てたまま観賞用になっている。

「あ、はい。総務課の伊井田さんにもらいました。前に水族館のチケットをあげたのでお土産で買ってきてくれたんです」

「……」

「か、書き心地はいまいちですが、こうやってユラユラ揺れるところが可愛くて癒されるんですよ」

間が持たず気まずい小山内は涙目でクラゲのペンを揺らして見せた。
藤郷は無表情でユラユラと揺れるクラゲをじっと見ている。

(千遥くーん?助けてー)





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