青髪の悪役(?)令嬢は、婚約破棄を望む!?-堂々たる反逆と王子のコンプレックス-

宮坂こよみ

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国王陛下の執務室に通されると、そこには思ったより少人数が集まっていた。国王陛下、そして私の父であるマーガレット公爵、さらに数人の側近のみ。レオンの姿はないようだ。

「イザベル、よく来てくれた。少し話をさせてくれないか。」

王座でもなく机でもなく、居間に用意されたソファに腰掛けたまま、国王陛下は静かな声で呼びかける。隣にはマーガレット公爵が座り、私に温かい視線を向けていた。

「はい。婚約破棄の件でお呼びですよね。」

私が遠慮なくソファに座ると、陛下はうなずく。

「昨夜、レオンから正式に『イザベルとの婚約を破棄したい』と報告があった。それで私も驚いたが、イザベル本人はどう思っているのか知りたくて呼んだのだ。」

陛下は表情こそ柔らかいが、その声にこもる重みはさすが王の威厳がある。

「私は構いません。むしろ殿下のご意思なら喜んで受け入れます。」

あっさり言うと、マーガレット公爵が「ほらね」と言わんばかりに苦笑する。

「この子は昔から、ああ言うんですよ。陛下が求める答えではないかもしれませんが……イザベルは頑固でして、あまり男性に媚びるタイプでもない。レオン殿下とは少し性格の相性が悪かったのかもしれません。」

「うむ、確かにそうかもしれないな。ただ、お前がそれで本当に納得しているのかを知りたかった。王家との縁が絶たれることは、公爵家にとっても痛手だろう?」

陛下は言葉を選びながら問いかける。公爵家が王家と婚姻を結ぶことは政治的にも大きな意味があるのだろう。

しかし、父は私の意思を尊重する姿勢を崩さない。

「陛下、私は娘が幸せになることが第一と考えております。もしそれが婚約破棄によって得られるなら、文句は申しません。」

国王陛下は深く息をつき、私を見つめる。

「イザベル、お前はどう生きたいのだ? これから先、王家に仕えるつもりはあるのか、それとも……。」

「私は……正直、外の世界を見てみたいんです。もちろん、必要であれば王家のお役に立つこともしますし、宮廷の行事にも参加します。ですが、自由に動きたいという気持ちが強いです。」

それを聞いて、陛下はほんの少し微笑んだように見えた。

「なるほど。お前が今まで見せてくれた活躍は素晴らしいものだった。レオンよりも兵士たちと馬が合うという噂も耳にしているよ。」

陛下が冗談交じりに言うので、私は苦笑した。

「お恥ずかしい限りです。でも、きっと私にはそっちのほうが性に合っているんだと思います。」

正直な気持ちを述べると、陛下は頷く。その横で父が「あまり娘を戦地にやるつもりはありませんがね……」とぼやくが、そこはご愛嬌だ。

「レオンとは話をしないのか? 彼がなぜ破棄を言い出したのか、真意を確かめる気はないのか。」

「彼の真意はある程度想像できますが、今は直接言葉を交わしたところで平行線でしょうし……。それなら少し時間をおいて、今後も王家と公爵家が良好な関係でいられるように動くのが得策かと思います。」

私なりの考えを述べると、陛下は「うむ」と納得した様子で腕を組む。

「そうか。イザベル、お前には感謝している。あのレオンにとって、お前は良い刺激だったはずなのだが……彼がそれを受け入れるにはまだ未熟ということかもしれない。いずれ、あいつも大人になるだろう。」

国王陛下の言葉に、父は「そのときは遅いかもしれませんがね」と苦笑いをする。

「それで、婚約破棄は、本人同士の意思が合致したということでよいのだな?」

陛下が最終確認のように問いかける。私ははっきりと頷いた。

「はい、問題ありません。今後の処理については侍従や関係各所にお任せしますが、私にできることがあれば協力します。」

その言葉に陛下は笑みを深める。「お前は本当に頼もしいな。……わかった、手続きはしかるべく進めよう。マーガレット公爵、よろしいか?」
父も一言、「異存ありません」と答える。

こうして、王と公爵の立会いのもと、私とレオンの婚約は正式に解消される運びとなった。王家の面目を保つためには多少の調整が必要になるだろうが、少なくとも大きな混乱にはならなそうだ。レオンの暴走ぎみの宣言が逆に「彼の意思が強い」と認識され、周囲も「ああ、そういうことか」と納得しているらしい。

「イザベル、これからは自由に生きて構わないが、何かあったらすぐに相談するのだぞ。お前は大切な一人娘だ。」

そう言って私の肩に手を置く父。その優しさに、私はそっと微笑む。

「ありがとう、お父様。もちろんです。私、世界を見回るつもりでも、ちゃんと時々は顔を出しますから。」

王の前だというのに、私たちは親子らしくほほえましいやり取りを交わす。陛下も「仲が良くて何より」と穏やかに笑っていた。

こうして、私の婚約破棄は正式に確定した。心が驚くほど軽い。もしかしたら、今まで息苦しかったのかもしれない。それは私自身が意識していなかっただけで、レオンとの関係が引き起こしていた緊張感だったのだろう。

「これから、もっと面白い日々が待っていそう。」

そう思わず声に出してつぶやく。私の新しい人生が、今まさに始まろうとしている。
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