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フィオライトの首飾り
形を保てないモノ
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ガインの前に人形を取り始めた影。
しかしそれはただただ黒い霧のようで顔の凹凸もわからない。手足胴に見える筒に頭に見える丸。そこに目と思しき場所に紫の光が2つあるだけだ。
その姿をガインは少し寂しい目で見た。
「オレの力をわけてもそこまでしか形を作れないのか…」
普段聞かないような切ない声にナーダが驚いて食器の影から顔を出す。
「そんな姿になっては、お前はオレを覚えてはいないだろうが。オレはお前を覚えている」
影に手を伸ばす。手を取ろうとしてもその部分の影が煙に触れたように揺らめくだけだった。
「え、え?どゆこと?ガインの知り合い?だってこの首飾りは200年くらい前の…」
デコピンするようにナーダを指で跳ね飛ばす。
「年など余計なことだ。だがこの影はかつてのオレの友人だ」
ウルスラ……ゆるさない……ウルスラ……
影は揺らめきながら人の名と許さないを静かに繰り返すだけ。襲いかかるような声というよりは泣いているような声に聞こえる。
「友達の幽霊なら色々話しかけてあげればいいじゃない。ほら、なんていうの?話聞いてあげて浄霊、とか?」
ガインの顔が歪む。
「幽霊などではない。正直、昔のように弄ってやれば自我を取り戻して姿を戻せると思ったのにな…」
握った首飾りを影に向ける。
「思い出せ。お前自身が思い出して姿をなさなければもとには戻れない。この土地か、この家か、この家の者か。お前に何があった」
ウルスラ………
ガインの力を得て人形の影まで姿をなしたそれはふわふわと移動を開始する。そして屋敷のエントランスに飾られた女性の大きな肖像画の前に立つ。肖像画ののプレートには【ウルスラ・トレヴァーホーン/トレヴァーホーン家初代女当主】と彫られていた。
ダニオの話を思い出す。情勢で敵味方に別れた恋人同士が、二人の誓いにお互いの血を聖水に混ぜ、それが固まったものがこの石だと。男は戦死し、誓いの石を愛の証に代々伝えたのが初代女当主だという話だ。
「ガインさま、この絵にご興味が?」
エントランスを通りかかった店主、現トレヴァーホーン家当主が声をかけてくる。影はそこにあるがと店主には見えていないらしい。
「プレートにあるとおり、初代の女当主の肖像画でございます。愛の誓いを通した貞女と伝わっているのですよ」
そう当主が説明した刹那。バリッと大きな獣が壁を掻くような音とともに肖像画の首元が破け、キャンバスが傾いた。ヒッと乾いた声を上げて当主は腰を抜かし、何事かと使用人達が集まりだして場は騒然となったのだった。
ガインたちは部屋に戻っていた。廊下は相変わらず騒がしい。この騒動には少しばかり責任を感じはしたものの、事情を説明など出来はしない。家宝を忌み物として婚約者が売りに来ただなど。ましてや、そこに宿っていたものに力をわけたがために動き出してしまったなど。
影は何かをしようと部屋をウロウロしている。屋敷に被害を及ぼさないよう結界を張っているため先程のように外に出ることはできないが。
「ねぇ、この黒いのにもう少し力を分けてあげたらいいんじゃないの?」
部屋をうろつく影を目で追いながらダーナは言う。
「これ以上はだめだ。お前も妖精ならレーン族のことは多少はわかるだろう」
レーン族と聞いて、改めてこの男が魔族と言われる種族であることを思い出した。その素性を隠すために紫の目を濃い灰色に変化させているものの、力を使うときにはガインの目は青みの紫に輝いた。
「レーン族は、もともとこの影みたいた存在。力の強いモノは人や人を模した異形の姿を持つ。力の強さは心にも左右される。力弱い未熟なものは小さく妖魔のような姿であったり、力が強くても制御する心を持たなければ大型の魔物と呼ばれる姿になる。友は、力と心を失った。だからこんな形しか留められない」
…せめて心を、自我を取り戻せば人の姿に戻れるものを。
ダーナも知っている話だ。それは妖精族も似たような性質を持っているからだ。姿を現せるか光の玉だけであるか、その容姿や羽の美しさは力の強さに比例する。
「じゃあなんで力をもっと分けてあげないの」
部屋に置かれたクッキーを紅茶に浸し、たものを千切ってたべながらダーナは更に問う。
「なぜ、レーン族は【悪魔召喚】などと言われて人に使役されることがあると思う?」
ダーナは首を傾げた。
「オレらは自我が低ければこいつと同じ、影だけのクラゲのようなものになってしまう。その影を寄せ集める方法が【召喚】そして、使役者が自分の力や欲望を与えて、それに染まってしまうから使役される。使役者の分身になっちまうのさ。クラゲに善も悪もない、使うやつが悪なだけなのに、純粋に呼びかけてくれた言葉に答えよう、力をくれた人に恩を返そうそれを悪用されてるだけだ」
「ガインは友達を悪者にしようとしてるんじゃないからいいじゃない?」
「いや。今のこいつは自我がない。これ以上力をやったら『オレの思い出にある友』『オレの想像の中の友』『こうであって欲しいという理想の友』に変わっちまう。似た姿にもどっても本当のこいつじゃない。こいつ自身の心か力でなければ本当のこいつに戻らないんだ」
…だから
思い出せ。自分の力で。
その手助けならしてやる。
しかしそれはただただ黒い霧のようで顔の凹凸もわからない。手足胴に見える筒に頭に見える丸。そこに目と思しき場所に紫の光が2つあるだけだ。
その姿をガインは少し寂しい目で見た。
「オレの力をわけてもそこまでしか形を作れないのか…」
普段聞かないような切ない声にナーダが驚いて食器の影から顔を出す。
「そんな姿になっては、お前はオレを覚えてはいないだろうが。オレはお前を覚えている」
影に手を伸ばす。手を取ろうとしてもその部分の影が煙に触れたように揺らめくだけだった。
「え、え?どゆこと?ガインの知り合い?だってこの首飾りは200年くらい前の…」
デコピンするようにナーダを指で跳ね飛ばす。
「年など余計なことだ。だがこの影はかつてのオレの友人だ」
ウルスラ……ゆるさない……ウルスラ……
影は揺らめきながら人の名と許さないを静かに繰り返すだけ。襲いかかるような声というよりは泣いているような声に聞こえる。
「友達の幽霊なら色々話しかけてあげればいいじゃない。ほら、なんていうの?話聞いてあげて浄霊、とか?」
ガインの顔が歪む。
「幽霊などではない。正直、昔のように弄ってやれば自我を取り戻して姿を戻せると思ったのにな…」
握った首飾りを影に向ける。
「思い出せ。お前自身が思い出して姿をなさなければもとには戻れない。この土地か、この家か、この家の者か。お前に何があった」
ウルスラ………
ガインの力を得て人形の影まで姿をなしたそれはふわふわと移動を開始する。そして屋敷のエントランスに飾られた女性の大きな肖像画の前に立つ。肖像画ののプレートには【ウルスラ・トレヴァーホーン/トレヴァーホーン家初代女当主】と彫られていた。
ダニオの話を思い出す。情勢で敵味方に別れた恋人同士が、二人の誓いにお互いの血を聖水に混ぜ、それが固まったものがこの石だと。男は戦死し、誓いの石を愛の証に代々伝えたのが初代女当主だという話だ。
「ガインさま、この絵にご興味が?」
エントランスを通りかかった店主、現トレヴァーホーン家当主が声をかけてくる。影はそこにあるがと店主には見えていないらしい。
「プレートにあるとおり、初代の女当主の肖像画でございます。愛の誓いを通した貞女と伝わっているのですよ」
そう当主が説明した刹那。バリッと大きな獣が壁を掻くような音とともに肖像画の首元が破け、キャンバスが傾いた。ヒッと乾いた声を上げて当主は腰を抜かし、何事かと使用人達が集まりだして場は騒然となったのだった。
ガインたちは部屋に戻っていた。廊下は相変わらず騒がしい。この騒動には少しばかり責任を感じはしたものの、事情を説明など出来はしない。家宝を忌み物として婚約者が売りに来ただなど。ましてや、そこに宿っていたものに力をわけたがために動き出してしまったなど。
影は何かをしようと部屋をウロウロしている。屋敷に被害を及ぼさないよう結界を張っているため先程のように外に出ることはできないが。
「ねぇ、この黒いのにもう少し力を分けてあげたらいいんじゃないの?」
部屋をうろつく影を目で追いながらダーナは言う。
「これ以上はだめだ。お前も妖精ならレーン族のことは多少はわかるだろう」
レーン族と聞いて、改めてこの男が魔族と言われる種族であることを思い出した。その素性を隠すために紫の目を濃い灰色に変化させているものの、力を使うときにはガインの目は青みの紫に輝いた。
「レーン族は、もともとこの影みたいた存在。力の強いモノは人や人を模した異形の姿を持つ。力の強さは心にも左右される。力弱い未熟なものは小さく妖魔のような姿であったり、力が強くても制御する心を持たなければ大型の魔物と呼ばれる姿になる。友は、力と心を失った。だからこんな形しか留められない」
…せめて心を、自我を取り戻せば人の姿に戻れるものを。
ダーナも知っている話だ。それは妖精族も似たような性質を持っているからだ。姿を現せるか光の玉だけであるか、その容姿や羽の美しさは力の強さに比例する。
「じゃあなんで力をもっと分けてあげないの」
部屋に置かれたクッキーを紅茶に浸し、たものを千切ってたべながらダーナは更に問う。
「なぜ、レーン族は【悪魔召喚】などと言われて人に使役されることがあると思う?」
ダーナは首を傾げた。
「オレらは自我が低ければこいつと同じ、影だけのクラゲのようなものになってしまう。その影を寄せ集める方法が【召喚】そして、使役者が自分の力や欲望を与えて、それに染まってしまうから使役される。使役者の分身になっちまうのさ。クラゲに善も悪もない、使うやつが悪なだけなのに、純粋に呼びかけてくれた言葉に答えよう、力をくれた人に恩を返そうそれを悪用されてるだけだ」
「ガインは友達を悪者にしようとしてるんじゃないからいいじゃない?」
「いや。今のこいつは自我がない。これ以上力をやったら『オレの思い出にある友』『オレの想像の中の友』『こうであって欲しいという理想の友』に変わっちまう。似た姿にもどっても本当のこいつじゃない。こいつ自身の心か力でなければ本当のこいつに戻らないんだ」
…だから
思い出せ。自分の力で。
その手助けならしてやる。
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