Be! 渋谷店の事件簿― 空手女子、25周年イベントの裏側に突っ込む!

潜龍anna

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B1(地下1階)営業部事務所2

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「もう!帰ろ!」

わざと大声出して鼻歌なんか歌ってみたりして片付けていた。
時計は21時を過ぎてる。

一人きりのオフィスは怖すぎる。
怖すぎて大事なことも考えられなくなるくらい。

「あー。今日も疲れたー。お疲れ様、私。帰りはご褒美解禁!」

大声出しながら無駄にテキパキ動いてみる。

「はぁ……」

このまま五十嵐は本社で出世していくんだろうか。
あの頃はなんでも一緒だったのに。
随分差をつけられた。

各店所属の社員じゃなく、全ての店舗をまとめる本社にいることも、同期の間じゃ一番の出世頭。
そしてあんな素敵な年上の彼女もいて、更には常務にまで気に入られてて……

「帰ろう。さっさとっ……」

何今の。
視線を感じた。
ドアのところに誰かがいる。
ガラス戸の向こうに確かに人影が動いたのに、

「誰かいるの?」

静まり返ったオフィス。
動く気配すらない。
潜んでいる。
もしくは人じゃないとか……

ガタリと大きな音を立てて立ち上がり、ドアに向かって行った。

だって怖いじゃん。
このまま黙っておくなんて、何が出てもいいから正体を突き止めないと!
いや、何にも出てほしくないけど!

無駄に足音を立てて近づいて行ったのは、もしそこにいらっしゃるなら消えててほしいからで、
ドアノブに手をかけて唾を飲み込む。
グッと力を入れて手前に引いてみた。

誰もいない。

ドクンドクンとうるさい心臓の音に余計に緊張しながらそっと首を伸ばすと、

「よぉ」
「ヒーーー!」

近くから男の声が

「俺だよ」
「ヤメテーーー!」

もう目を開けていられない。

「ゆず!」
「イヤーー…え…?」

聞き覚えがある声。

「バカ。声でけーよ」

恐る恐る声のする方を見ると
「あ……そ、奏…」

五十嵐はオフィスを覗きこみ入って来た。

「一人なのか?」
「うん……」
まだ胸がドキドキ言ってる。
ついに見てしまったかと思った。

「話し声が聞こえたから誰かといるのかと思った」
「あー、うん」
独り言だけどね。

こんな時間に渋谷店で何してるんだろ?
本社と近いって言っても、スペイン坂を上ってこなきゃいけないのに……

「どうしたの?」
「いや、まだ誰かいるかなーって思って」

そっか。蓮見チーフを探しに来たんだね。

「遅いね」
「あぁ。さっき戻って来たからな」
「え?さっき?昼間出て行ってさっき戻ってきたの?」

ふーん。お嬢様と今まで一緒だったんだ。
一緒に外回りしてたんだね。

別に私には関係ないけど……

「おまえこそまだ帰らないのか?」
「今帰るとこ!」
「機嫌悪そうだな」
「別に」
「さっきは悲鳴上げてたのになっ」
「それは……っ」
「ひー!って……おまえ、ひぇーって」

五十嵐が笑ってる。
あの頃のように私をからかって嬉しそうに爆笑している。
あの頃のまま左手でお腹を押さえて、ヒーヒー言いながら笑いが止まらなくなってる。

「奏が突然声出すから……」

ようやく笑いの波が去ったのか、一瞬私に視線を寄こした五十嵐はゆっくりとオフィスを見渡した。

「怖いくせに無理して残業するからだろ」
「怖くないし」
「へー。じゃあ、もうお化け屋敷一人で入れるんだ」

ドヤ顔で見てくる五十嵐はちょっとムカツク。

「あんなとこお金払って入る意味が分かんない」
「変わってねーなー。今でもまだ夜暗いと眠れないんだろ?」

嬉しそうに言う五十嵐。
笑顔が昔と重なって見える。

「おまえ、まだあれ持ってんの?」
「なにを?」
「茶色のでっかいクマ」
「あー。あれね」
「あれがないと眠れないんだろ?なんだっけなー。思い出した!くーたん!」

五十嵐はまたゲラゲラと笑い始めた。
ご機嫌だな。

「よく覚えてるね」
「まさか東京までは持ってきてねーだろ」
「え?はは……」

笑顔が引き攣る。

「は?まじ?持って来てんの?くーたん?」
「気安く呼ばないでよ」
「寂しー奴。まだくーたんと寝てんの?」
「もう寝てません!」
「ふーん。いつから?」
「え?」
「いつからくーたんと寝るのやめたんだよ」

突然真顔で見てくる五十嵐の目が、私を責めているみたいに感じる。
それは五十嵐の知らない私の時間を責めているみたいで、あの日 離れていった私を責めているみたいで……
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