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二章 孤独の庭に落ちた雫
3話 神にされた者
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腹を空かせた犬のような目で、トリスが俺を見つめていた。
戦火が激しくなったと、金をせがむものように言う。
俺は仕方なく、黄色い宝石を小さな革袋に分けて渡してやった。
「アセルさん、大丈夫ですか……? ちゃんと寝ていないのでは?」
俺は何も答えない。
声を出すと、おかしくなってしまいそうだから。
眠れと言うなら眠ればいいのだろ……。
ふらつく魔物のように、足の重さに任せて家の中へ入る。
「また来ますね。それじゃあ元気で……」
トリスの足音が、道なき山道に消えていく。
布団もかぶっていないのに、音すら消えた。
時間そのものが止まったかのように、家の中は静まり返った。
「あのぉ、どなたかいらっしゃいますか……? デルガ町から来ました、ミルルと申します」
声は小さい。けれど、震えていない。
まるでおもちゃのベルを鳴らしたときのような、可愛い声の女性のようだ。
……外に三人。
扉の向こうで気配が、じっとこちらをうかがっている。
俺はゆっくり扉を開いた。
一人は女。肩に町印の布をつけた、調査隊の装い。
その隣に、同じ服の若い男がひとり。
そして最後に、中年の男――腰に下げた剣が、使い慣れた道具のように馴染んでいる。
守り手か。あるいは、ただの護衛では済まない種類の剣士か。
「きみ、こんな山奥で……何をしているの? 一人で暮らしているのかな?」
女が、教本に載っていそうな問いを順番に投げかけてくる。
まるで“聞くべき項目”が最初から決められているみたいだ。
仕方ない。
俺も、決まりきった答えで返す。
「ええ、一人」
「そ、そう……この辺り、獣の姿をぜんぜん見ないのよね。でも、いつ来てもおかしくないから、気をつけて暮らすのよ?」
……はぁ。
俺がいるから獣が寄らないだけの話。
いちいち説明する気力もない。
適当に相槌を打ち、会話の隙を見て帰ってもらおうとした。
……その時。
でかい背嚢を、カタツムリみたいに背負ったトリス。
どうして、こんなに早く――。
いや、俺が……一週間も呆けていただけか。
しかし、嫌なタイミングだ。
あいつは前も向かず、宙を漂うように歩いている。
ここまで来て、初めて客に気づき、目を丸くしていた。
「わあ! どちら様ですか?」
……お前が聞いてどうするんだ。
まるで三人の盗賊に囲まれた旅人みたいに慌てているじゃないか。
結局、教本女はトリスにも色々と質問を投げかけていた。
無駄な時間がじわじわ溶けていく。
話は終わったのか、調査隊らしき連中はようやく山道の向こうへ消えていった。
「はは、びっくりしちゃいましたよ。……また来るって言ってましたね。この辺りを調査でもするんでしょうか」
トリスは背嚢を下ろしながら、さっきの騒ぎの話を続ける。
「たぶん、王様が病弱みたいなので……第一王子が色々と動いてるらしいです」
そう言うなり、俺には何の断りもなく、料理の準備を始めやがった。
しかも、話の中身は相変わらず薄い。
こいつの取柄は、きっと料理だけだろう。
細身のくせに、腹に穴でも開いてる蛇みたいに食う。
「あのぉ、お金の話なんですが……」
はいはい、いつものパターンだ。
飯のあとには金の話。俺は黙って袋を出す。
「いや、違うんです! その……これ以上は無理そうなんです」
……何が無理なんだ?
さすがに気になって、詳しく話を聞いてみることにした。
「お前たちでは行けないなんて、本格的な戦争にでもなったのか?」
「それに近いんです。西街道は完全に封鎖されて、行商人は皆立ち往生です。
北回りなら行けますが、距離は三倍、費用も三倍。物価ももう跳ね上がってしまって……」
「金はまだあるんだから、冒険者にでも頼んだらどうなんだ?」
「冒険者? 私の子どもの頃はいましたけど、今はいませんよ。冒険者なんて」
……。
「冒険者だった者たちはいるだろ? そいつらを探してくれ。国境を越えるくらい、あいつらにとっては散歩みたいなもんだろ」
トリスは一瞬、言いにくそうに口ごもった。
「……今は、勝手に“冒険者”って名乗るの、できないんです。勇者教が広まってから、“勇者以外が冒険を名乗るのは冒涜”って扱いで……」
「は?」
「はい。『世界を救う者はひとりだけ、ゆえに冒険もひとり』って教義で……、昔いた冒険者たちも、今は全員、騎士団に取り込まれたり、“自称冒険者”ってだけで捕まったり……」
……勇者教。
その名を聞いた瞬間、背中を冷たい指でなぞられた気がした。
民を支えている像だけじゃない。
――神、か。
俺は、神にまでされてしまったのか。
「……それで、戦争か!?」
声を出した途端、砂を食べた気がした。
喉が痛い。
国教なのか?
昔は、プリーストが崇めていた“優しい女神”だったはずだ。
争いを鎮める光の神。
誰かを裁く存在ではなかった。
どうしてこんな形に……。
俺のせいなのか……?
「平気ですか?」
トリスが、心配というより“怯え”を隠すような顔をしていた。
「ああ、平気だ。……しかし、金でもダメなら、どうしたら……」
少し沈黙が落ち着いたあと、トリスは胸の前で手を握った。
「あの……わかりました。母の知り合いに、昔の冒険者がいたはずで……。一回、聞いてみます。たぶん、手がかりくらいは……」
「そ、そうか……頼むよ。」
アセルは、指先が勝手に宝石の袋を探した。
「じゃあ、これを持って行くんだ」
「またこんなに……。でも、ありがとうございます。すぐ帰って聞いてみます」
トリスは背嚢をごそごそとあさり、包みをひとつ取り出した。
「これ、美味しくて精もつきますので……食べてくださいね。できるだけ、早く戻ってきます」
どこか落ち着かない手つきだ。
それだけ言い残すと、振り返る間もなく、来た道を足早に戻っていった。
しばらく、舞い上がった砂埃だけが残っていた。
この騒がしさは、どうなっているんだ。
昔みたいな、目が回る生活はもうごめんだ。
……静かな世界は、ないものか。
せめて、虹の種のそばにいれば、楽になれる気がする。
あれが育つ場所だけは、濁らない。
……偶然、なのか。
畑で、虹の芽がひらいていた。
見ているだけで胸の奥が落ち着く。
まるで、俺のざわつきを吸ってくれるみたいだ。
他の場所に植えた種も……見にいってみるか。
虹色だけは、俺のものだ。
戦火が激しくなったと、金をせがむものように言う。
俺は仕方なく、黄色い宝石を小さな革袋に分けて渡してやった。
「アセルさん、大丈夫ですか……? ちゃんと寝ていないのでは?」
俺は何も答えない。
声を出すと、おかしくなってしまいそうだから。
眠れと言うなら眠ればいいのだろ……。
ふらつく魔物のように、足の重さに任せて家の中へ入る。
「また来ますね。それじゃあ元気で……」
トリスの足音が、道なき山道に消えていく。
布団もかぶっていないのに、音すら消えた。
時間そのものが止まったかのように、家の中は静まり返った。
「あのぉ、どなたかいらっしゃいますか……? デルガ町から来ました、ミルルと申します」
声は小さい。けれど、震えていない。
まるでおもちゃのベルを鳴らしたときのような、可愛い声の女性のようだ。
……外に三人。
扉の向こうで気配が、じっとこちらをうかがっている。
俺はゆっくり扉を開いた。
一人は女。肩に町印の布をつけた、調査隊の装い。
その隣に、同じ服の若い男がひとり。
そして最後に、中年の男――腰に下げた剣が、使い慣れた道具のように馴染んでいる。
守り手か。あるいは、ただの護衛では済まない種類の剣士か。
「きみ、こんな山奥で……何をしているの? 一人で暮らしているのかな?」
女が、教本に載っていそうな問いを順番に投げかけてくる。
まるで“聞くべき項目”が最初から決められているみたいだ。
仕方ない。
俺も、決まりきった答えで返す。
「ええ、一人」
「そ、そう……この辺り、獣の姿をぜんぜん見ないのよね。でも、いつ来てもおかしくないから、気をつけて暮らすのよ?」
……はぁ。
俺がいるから獣が寄らないだけの話。
いちいち説明する気力もない。
適当に相槌を打ち、会話の隙を見て帰ってもらおうとした。
……その時。
でかい背嚢を、カタツムリみたいに背負ったトリス。
どうして、こんなに早く――。
いや、俺が……一週間も呆けていただけか。
しかし、嫌なタイミングだ。
あいつは前も向かず、宙を漂うように歩いている。
ここまで来て、初めて客に気づき、目を丸くしていた。
「わあ! どちら様ですか?」
……お前が聞いてどうするんだ。
まるで三人の盗賊に囲まれた旅人みたいに慌てているじゃないか。
結局、教本女はトリスにも色々と質問を投げかけていた。
無駄な時間がじわじわ溶けていく。
話は終わったのか、調査隊らしき連中はようやく山道の向こうへ消えていった。
「はは、びっくりしちゃいましたよ。……また来るって言ってましたね。この辺りを調査でもするんでしょうか」
トリスは背嚢を下ろしながら、さっきの騒ぎの話を続ける。
「たぶん、王様が病弱みたいなので……第一王子が色々と動いてるらしいです」
そう言うなり、俺には何の断りもなく、料理の準備を始めやがった。
しかも、話の中身は相変わらず薄い。
こいつの取柄は、きっと料理だけだろう。
細身のくせに、腹に穴でも開いてる蛇みたいに食う。
「あのぉ、お金の話なんですが……」
はいはい、いつものパターンだ。
飯のあとには金の話。俺は黙って袋を出す。
「いや、違うんです! その……これ以上は無理そうなんです」
……何が無理なんだ?
さすがに気になって、詳しく話を聞いてみることにした。
「お前たちでは行けないなんて、本格的な戦争にでもなったのか?」
「それに近いんです。西街道は完全に封鎖されて、行商人は皆立ち往生です。
北回りなら行けますが、距離は三倍、費用も三倍。物価ももう跳ね上がってしまって……」
「金はまだあるんだから、冒険者にでも頼んだらどうなんだ?」
「冒険者? 私の子どもの頃はいましたけど、今はいませんよ。冒険者なんて」
……。
「冒険者だった者たちはいるだろ? そいつらを探してくれ。国境を越えるくらい、あいつらにとっては散歩みたいなもんだろ」
トリスは一瞬、言いにくそうに口ごもった。
「……今は、勝手に“冒険者”って名乗るの、できないんです。勇者教が広まってから、“勇者以外が冒険を名乗るのは冒涜”って扱いで……」
「は?」
「はい。『世界を救う者はひとりだけ、ゆえに冒険もひとり』って教義で……、昔いた冒険者たちも、今は全員、騎士団に取り込まれたり、“自称冒険者”ってだけで捕まったり……」
……勇者教。
その名を聞いた瞬間、背中を冷たい指でなぞられた気がした。
民を支えている像だけじゃない。
――神、か。
俺は、神にまでされてしまったのか。
「……それで、戦争か!?」
声を出した途端、砂を食べた気がした。
喉が痛い。
国教なのか?
昔は、プリーストが崇めていた“優しい女神”だったはずだ。
争いを鎮める光の神。
誰かを裁く存在ではなかった。
どうしてこんな形に……。
俺のせいなのか……?
「平気ですか?」
トリスが、心配というより“怯え”を隠すような顔をしていた。
「ああ、平気だ。……しかし、金でもダメなら、どうしたら……」
少し沈黙が落ち着いたあと、トリスは胸の前で手を握った。
「あの……わかりました。母の知り合いに、昔の冒険者がいたはずで……。一回、聞いてみます。たぶん、手がかりくらいは……」
「そ、そうか……頼むよ。」
アセルは、指先が勝手に宝石の袋を探した。
「じゃあ、これを持って行くんだ」
「またこんなに……。でも、ありがとうございます。すぐ帰って聞いてみます」
トリスは背嚢をごそごそとあさり、包みをひとつ取り出した。
「これ、美味しくて精もつきますので……食べてくださいね。できるだけ、早く戻ってきます」
どこか落ち着かない手つきだ。
それだけ言い残すと、振り返る間もなく、来た道を足早に戻っていった。
しばらく、舞い上がった砂埃だけが残っていた。
この騒がしさは、どうなっているんだ。
昔みたいな、目が回る生活はもうごめんだ。
……静かな世界は、ないものか。
せめて、虹の種のそばにいれば、楽になれる気がする。
あれが育つ場所だけは、濁らない。
……偶然、なのか。
畑で、虹の芽がひらいていた。
見ているだけで胸の奥が落ち着く。
まるで、俺のざわつきを吸ってくれるみたいだ。
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