『悪役令嬢に仕立て上げられたけど、猫カフェを開いたら辺境伯が通ってきます』

夢窓(ゆめまど)

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「悪役令嬢に仕立て上げられた日」

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【セレナ視点:勘違いモノローグ】

──私は、“妹”として、この家に来た。

けれど、いつもお姉様は私を「他人」のように見ていた。

お母様の再婚で、私は男爵家からこのグレイウッド公爵家に引き取られた。
籍はないけれど、それでも私は家族だと思ってた。そう信じてた。

なのに、お姉様は、
私にドレスを貸すときも、髪飾りを譲るときも、
「これはあなたのものじゃないわ」と、必ず言った。

だったら――私は、手に入れてみせる。

ドレスも、髪飾りも、爵位も、そして……王太子殿下の隣の席も。

そうすれば、ようやくこの家の“本当の娘”になれるのだから。



【ソフィア視点】

「ソフィア・グレイウッド。
この場をもって、貴女との婚約を破棄し、王都からの追放を命じる」

王太子ハロルド殿下の宣言が、玉座の間に響いた。
私の婚約者だった男の、その冷えた声は、
三年の月日をわずか三行で切り捨てた。

――ああ、ようやく終わったのね。

隣に立つのは、私の“義妹”を自称する女。
男爵家から来た、前妻の娘。
戸籍も血縁もなく、ただ一時的に父の再婚で共に過ごしただけの他人。

セレナ・フェルスター。
あの子は、自分を「妹」だと都合よく信じて疑わない。

王太子の婚約者になれば、公爵令嬢になれる。
グレイウッド家の人間になれる。
――そう思い込んでいる。

違うのに。
そんなこと、どこにも書いてないのに。



「ソフィア様は、猫に魔術を使ったそうですの。
私のドレスに傷がついたのも……きっと、呪いが込められていたからですわ」

セレナの震える声が、空々しく響く。
彼女の背後で、王太子が黙って頷いていた。

私が拾って育てていた猫。
捨てられていた、冷たくて、弱くて、それでも人懐っこい猫。
私にとっては家族だったあの子を、
“呪いの使い魔”と呼んだこの人たちに、もはや言葉は必要ない。



「弁明は?」

「ございません」

それだけを言って、私は静かに一礼した。





王宮を出た瞬間、私は息を吸い込んだ。

冷たい空気が胸に染みる。
でも――やっと、自由になれた気がした。

今度は、自分の意思で暮らせる場所を探そう。

猫たちと一緒に、
のんびり笑える場所を。

……その“場所”に、まさか辺境伯閣下が毎日通ってくることになるなんて、
このときの私はまだ知らなかった。




馬車を降りたとき、私は小さく息を呑んだ。

「……別荘、って、これのこと?」

目の前にあったのは、崩れかけた石造りの屋敷。
かろうじて形を保っているが、壁にはツタが這い、
庭はほぼ野原。
出迎えは――誰もいなかった。

「……おうち、じゃないわね」

腕の中で、白猫のシャルルがふにゃあと鳴いた。



元は父が狩猟用に建てたというこの屋敷。
辺境の地にあるとはいえ、伯爵家が管理していたはずなのに……
どうやら「追放された令嬢」のために、手入れなどするつもりはなかったらしい。

私はドレスの裾を結び上げ、自分で扉を開ける。
重く軋んだ音が、玄関に響いた。

「まるでお伽噺の、魔女の家みたいね……」



物語では、ここで王子が助けに来るものだけれど。

私には、もう誰もいない。

……シャルルだけが、私を見上げて、にゃあと鳴いた。



あくる日――

屋敷の掃除に追われながら、私は最低限の生活を整えようとしていた。
薪がない。水も冷たい。屋根が……ああ、穴が空いてる。

それでも猫がいれば、笑えるものね。
シャルルは屋敷中を歩き回り、日だまりを見つけては丸まっていた。

そんな日の午後だった。



来訪者登場

「……失礼。
グレイウッド公爵令嬢がお住まいとのことで、ご挨拶に伺ったのだが」

扉の前に立っていたのは、背の高い男。
黒の軍服のような装いに、銀の刺繍が施されている。
精悍な顔立ちに、鋭い灰色の瞳。

「お名前は……?」

「バルツアー・ライゼン。
この地を治める辺境伯だ」



その瞬間だった。

私の足元からするりと白い影が滑り出て、男の足元へ。

「……シャルル?」

シャルルが、ふわりと尻尾を立てて、辺境伯の脚に身体をすり寄せた。

まるでずっと前から知っているような、
そんな懐き方だった。


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