愛される女と利用される女 ~すぐ怪我する義妹と心配する王子、私はお見合いで何を見せられているのでしょうか~

夢窓(ゆめまど)

文字の大きさ
5 / 13

そろそろ、プロポーズ!誰にですか?

お見合いは、これで四度目。
四度とも――同じだった。

義妹が怪我をする。王子が慌てて駆けつける。私は置いていかれる。

それだけ。
毎回、同じ流れで、同じ結末。違うのは怪我の種類だけだ。指、足、階段、転倒。

ミイティの怪我レパートリーは、そこそこ豊富だった。

だから私は思った。

王子との婚約なんて、ありえない。
だって私は――この人と、ほとんど話していない。

今日の応接室も、いつもと同じ設えだった。季節の花、丁寧に淹れられた紅茶、柔らかな陽光。お見合いの舞台としては、申し分ない。問題は、そこで交わされる会話の薄さだけだ。

今日も紅茶を飲んでいると、王子が急に真面目な顔をした。
「ハーミヤ嬢」
「はい?」
「そろそろ……告白してもいいでしょうか」
私はカップを止めた。

「へっ?」
思わず、素の声が出た。
王子はまっすぐ私を見た。切れ長の目が、いつになく真剣だった。
ああ、男前な顔だわ。

「結婚してほしいんです」

私はしばらく黙った。
窓の外で、鳥がまた、一声鳴いた。のどかな音だった。この会話の重さとは、まったく釣り合わない音だった。
そして聞いた。

「……それ、本気で言ってます?」

王子は少し驚いた顔をした。こういう返しは、想定していなかったらしい。
「もちろんです」
私はゆっくり首を傾げた。

「私たち」
「はい?」
「ほとんど会話していませんよね」
王子が黙る。

否定はしなかった。できなかったのかもしれない。

私は続けた。
「今日を入れて、お見合い四回」
「はい」
「そのうち三回は、義妹さんが怪我をして途中退席、」

王子の顔が少し曇る。眉が微かに動いた。
私は微笑んだ。

「残り一回は、今日でした」
沈黙。
テーブルの上の紅茶から、細い湯気が立ち上っている。それだけが動いていた。
私は静かに言った。

「それで結婚?」
私は首を振った。
「……思い込みって怖いですね」

(金目当てと――顔に書いてありますよ)


王子は、なぜか真面目な顔のままだった。
むしろ、さらに真剣になっていた。
「いえ、あの……私は真剣なんです」

「はあ」
温度のない相槌が、自分でも可笑しかった。

「次の五回目のお見合いでは、大きな花束を用意しましょう」
私は瞬きをした。
花束。また花。この人の誠意の表現は、どうやら花に集約されているらしい。

「それから、指輪も」
「指輪?」
「はい。婚約の」
私は黙った。

話が進んでいる。私の返事を聞かないまま、着々と進んでいる。
王子は続ける。

「ただし、王妃の指輪は……ミイティが欲しいと言っているので」
「……」
部屋の空気が、すうっと冷えた気がした。
「別のものになりますが」
私はしばらく王子の顔を見た。

真剣な顔だった。悪びれた様子は、微塵もない。自分が何を言ったか、分かっていないのかもしれない。あるいは――分かった上で、これが当然だと思っているのか。
顔だけは、いいんだけどなぁ、

それから、にっこり笑った。
「あら」
「はい?」
「ミイティ様が、ご結婚相手なのね」
王子は首を振った。

「違います」
「おめでとうございます」
「違います」
「え?」
王子は少し困った顔をした。台本にない展開に、初めて戸惑っている顔だった。

「私は義妹とは結婚しません」
私は首を傾げた。
「……あら」
「あなたと結婚するんです」

まっすぐな目だった。嘘をついている目ではない。本当にそう思っているのだろう。
それが、また――滑稽。
私は静かに聞いた。

「でも」
「はい?」
「王妃の指輪は、ミイティ様のなんでしょう?」
王子は黙った。

今度は、すぐに言葉が出なかった。
私は紅茶を一口飲んだ。すっかり冷めていた。気づかないうちに、随分と時間が経っていたらしい。


そして家に帰ってから、思った。
ああ、あの人。本当に――何も分かっていない。
婚約者の指輪より、義妹の望みを優先する。それがおかしいと、これっぽっちも思っていない。そういう人なのだ。


前の人生の私は、この人を愛した。今の私には――ただ、静かに呆れるだけだった。
ああ、そういえば。
前も、指輪、ミイティに渡したっけ。
王妃の指輪だった。代々受け継がれてきた、あの指輪。本来なら私のものになるはずだった。でも王子は、ミイティが欲しいと言ったから、あげた。それだけのことだった。
私のお金も、全部あっちに行った。ドレスも、宝石も、レースも。私の持参金から出た費用で、ミイティが着飾った。

だけど、仕事は全部こっちだった。公務の書類、領地の管理、王家への献上品の手配。誰もやらないから、私がやった。やらなければ、回らなかったから。
愛されていると思っていた。必要とされていると思っていた。
違った。
ただ、ただ、便利だっただけだ。
あっ、それと潤滑なお金ね。

……最後、あっけなく、死んだんだよね。
処刑台の上で、私は何を思っただろう。怒りか、悲しみか、後悔か。
馬鹿みたいに騙された。
でも今は――
私はグラスを持ち上げた。
ワインの赤が、光に透けて揺れた。
もう、同じ轍は踏まない。
感想 19

あなたにおすすめの小説

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結】「家族同然の幼なじみが大事」と言い放った婚約者様、どうぞお幸せに。私は婚約を破棄して自分の道を行きます

シマセイ
恋愛
侯爵令嬢のエルザは、王宮魔導騎士団長である婚約者レオンを愛し、予算管理や物資調達などすべての裏方業務を完璧にこなして彼を支え続けてきた。 しかし、騎士団にとって最も重要な祝賀会の直前。レオンは幼なじみの魔導士リリィの些細な体調不良を優先し、「彼女は君とは違う、特別な存在だ」とエルザを一人残して会場を去ってしまう。 長年の献身が全く報われないことを悟ったエルザは、静かに彼への愛を捨てた。 婚約指輪を置き、騎士団への支援をすべて打ち切った彼女は、自身の類まれなる「実務能力」を武器に、新たな舞台である商業ギルドへと歩み出す。

義妹が私に毒を持ったので、飲んだふりをして周りの反応を観察してみる事にしました

睡蓮
恋愛
義姉であるエレスティアと義妹であるレリアは、エレスティアの婚約者であるレオンを隔ててぎくしゃくとした関係にあった。というのも、義妹であるレリアが一方的にエレスティアの事を敵対視し、関係を悪化させていたのだ。ある日、エレスティアの事が気に入らないレリアは、エレスティアに渡すワインの中にちょっとした仕掛けを施した…。その結果、2人を巻き込む関係は思わぬ方向に進んでいくこととなるのだった…。

義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので家出してあげたら、大変なことになったようです

睡蓮
恋愛
婚約関係にあったフューエル伯爵とリリアは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、リリアの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、リリアは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。

幼馴染だけを優先するというなら、婚約者であるはずの私はもう不要なのですね

睡蓮
恋愛
カタリナと婚約関係を結んでいたウェール男爵は、自身の幼馴染であるマイアの事を常に優先していた。ある日、ウェールは感情のままにカタリナにこう言ってしまう。「出て行ってくれないか」と。カタリナはそのままウェールの前から姿を消し、婚約関係は破棄されることとなってしまった。ウェールとマイアはその事を大いに喜んでいたが、カタリナがいなくなったことによる弊害を、二人は後に思い知ることとなり…。

婚約破棄されるのらしいで今まで黙っていた私の秘密を伝えてあげたら、一転して婚約破棄をやめたいと言われましたが、もう遅いので

睡蓮
恋愛
ジェネット第一王子は、婚約者であるミアに対して婚約破棄を告げた。しかしその時、ミアはそれまで黙っていた事をジェネットに告げることとした。それを聞いたジェネットは慌てふためき、婚約破棄をやめたいと言い始めるのだったが…。

妹ばかりを優先する旦那様。なら、もう愛されない私は消えてあげることにします!

睡蓮
恋愛
ルーグ男爵はメレーナと婚約関係を持っていながら、自身の妹であるラキュースの事を優先的に溺愛していた。そんなある日、ルーグはあるきっかけから、「自分の元を出ていってほしい」という言葉をつぶやく。それが巡り巡ってメレーナ本人の耳に入ることとなり、彼女はそのまま家出してしまう。最初こそ喜んでいたルーグだったものの、彼女がいなくなったことによる代償を後々知って大きく後悔することとなり…。