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ミイテイのマウント、カスミ草入り、
ミイティが近づいてきた。
にこにこと、甘い顔をしている。花のように可愛らしい笑顔だ。前の人生では、その笑顔に何度も騙された。
「ハーミヤ様」
「はい?」
「この前、お義兄様からお花をもらいました?」
私はうなずいた。
「ええ」
ミイティは口元を押さえて笑う。
「赤い薔薇、百八本ですって?」
「そうみたいですね」
「くすくす」
ミイティは楽しそうに続ける。
「私もいただきましたのよ」
私は黙って聞いている。
そうでしょうね、と思った。驚きはない。
「しかも」
ミイティは少し身を乗り出した。
「カスミ草まで」
そして囁く。
「ハーミヤ様のは、カスミ草なしですって」
くすくす、と笑う。
小さな声だった。でも聞こえるように、囁いていた。
私は少し考えるふりをした。
「あら」
ミイティが得意そうに笑う。その目が、私の顔を観察している。傷ついたか、悔しいか、確かめるように。
私は穏やかに言った。
「そうだったんですか」
「ええ」
「召使いが箱を開けたので、私は、よく見ていませんでした」
ミイティが首を傾げる。
想定外の返しだったらしい。
私はにっこり笑った。
「確かに」
「はい?」
「カスミ草があった方が、きれいですわよね」
ミイティが満足そうにうなずく。そうでしょう、と言いたげな顔だった。
私は続けた。
「王子に、愛されているのね」
少しだけ間を置く。
「ミイティ様」
空気が、ぴたりと止まった。
ミイティの笑顔が、一瞬だけ固まった。ほんの一瞬。気づかない人には、気づかない程度の。
でも私は、見逃さなかった。
前の人生で、散々見てきた顔だから。
私はそのまま、穏やかに微笑み続けた。
「ハーミヤ嬢」
王子が腕を組んで言った。
「あなたは、ミイティが私から花をもらったことを嫉妬して、妬んだらしいな」
らしいな、という言い方だった。
誰かから聞いたのだろう。
誰から聞いたか、考えるまでもなかった。
私は首を傾げた。
「いいえ、殿下。ちっとも」
「ほう」
「“お幸せに”と申し上げましたわ」
王子は少し考える顔をした。
「そうか」
それから、さらりと言った。
「で、式の予定だが」
「式?」
「三か月後でいいか?」
私は瞬きをした。
「……なんの式ですか?」
王子は当然のように言った。
「結婚式だ」
会話が、一瞬ずれた気がした。
私はにっこり笑った。
「ミイティ様とですか?」
王子の眉が動く。
「違う」
「おめでとうございます」
「違う」
王子は少し苛立った。声に、微かに棘が混じる。
「ミイティは家族だ」
私はうなずく。
「ええ」
「結婚するのは、あなたに決まっているだろう」
決まっている?なんで?
この人は本気でそう思っている。私の返事など、最初から必要ないと思っている。
私は首を傾げた。
「あらあら」
「なんだ」
「私、結婚を了承しましたっけ?」
王子が眉をひそめる。
「プロポーズしただろう」
「ええ」
私は微笑んだ。
「でも」
「でも?」
「お返事していませんが」
王子は腕を組んだ。
「三か月後で結婚調整する」
「……」
返事を聞く気が、最初からない。
私は少し考えるふりをした。
「よくわからないですわ」
王子は言った。
「ミイティに嫉妬しているのか?」
私は笑った。
「いえ」
そして軽く首を振った。
「ぜんぜん」
王子が不機嫌そうに言った。
「ミイティのことで逆恨みか」
逆恨み。
その言葉を、私は静かに聞いた。怒りは来なかった。ただ、ああやっぱり、と思った。この人の目には、私がそう映っているのだ。嫉妬して、妬んで、逆恨みする女として。
「私に恥をかかせるつもりか」
私は静かに答えた。
「いいえ」
「ではなぜだ」
「お幸せになれるのは」
私は微笑んだ。
「殿下とミイティ様ですわ」
王子が眉をひそめる。
私は続けた。
「私は、愛されていませんから」
王子は鼻で笑った。
「ミイティに嫉妬か」
私は首を振った。
「いえ」
王子が吐き捨てる。
「醜いぞ」
一瞬だけ、胸の奥が揺れた。
でも次の瞬間には、もう静かだった。
前の人生の私なら、この言葉に傷ついた。泣いたかもしれない。謝ったかもしれない。
今の私には――ただ、呆れだけがある。
私は笑った。
「そうですよねー」
王子が怪訝な顔をする。
「ミイティ様は美しいですから」
私は言った。
そして軽く礼をする。
「私はご遠慮しますわね」
王子が何か言いかける。
その時。
私は視線を王子の後ろに向けた。
「では失礼します」
王子が振り返る。
「ミイティ様が」
私は静かに言った。
「あちらから来られましたので」
王子が後ろを向いた隙に、私はくるりと背を向けた。
追いかけてくる気配はなかった。
当然だ。ミイティが来たのだから。
私は歩きながら、小さく息をついた。
醜い、か。
前の人生でも、最後はそう言われたっけ。
私は少しだけ笑った。
同じ台詞を、また聞くことになるとは思わなかった。
でも今回は――
傷つかなかった。
それだけで、十分だった。
やはり、人は頭一度打ったら、気づくものね。
にこにこと、甘い顔をしている。花のように可愛らしい笑顔だ。前の人生では、その笑顔に何度も騙された。
「ハーミヤ様」
「はい?」
「この前、お義兄様からお花をもらいました?」
私はうなずいた。
「ええ」
ミイティは口元を押さえて笑う。
「赤い薔薇、百八本ですって?」
「そうみたいですね」
「くすくす」
ミイティは楽しそうに続ける。
「私もいただきましたのよ」
私は黙って聞いている。
そうでしょうね、と思った。驚きはない。
「しかも」
ミイティは少し身を乗り出した。
「カスミ草まで」
そして囁く。
「ハーミヤ様のは、カスミ草なしですって」
くすくす、と笑う。
小さな声だった。でも聞こえるように、囁いていた。
私は少し考えるふりをした。
「あら」
ミイティが得意そうに笑う。その目が、私の顔を観察している。傷ついたか、悔しいか、確かめるように。
私は穏やかに言った。
「そうだったんですか」
「ええ」
「召使いが箱を開けたので、私は、よく見ていませんでした」
ミイティが首を傾げる。
想定外の返しだったらしい。
私はにっこり笑った。
「確かに」
「はい?」
「カスミ草があった方が、きれいですわよね」
ミイティが満足そうにうなずく。そうでしょう、と言いたげな顔だった。
私は続けた。
「王子に、愛されているのね」
少しだけ間を置く。
「ミイティ様」
空気が、ぴたりと止まった。
ミイティの笑顔が、一瞬だけ固まった。ほんの一瞬。気づかない人には、気づかない程度の。
でも私は、見逃さなかった。
前の人生で、散々見てきた顔だから。
私はそのまま、穏やかに微笑み続けた。
「ハーミヤ嬢」
王子が腕を組んで言った。
「あなたは、ミイティが私から花をもらったことを嫉妬して、妬んだらしいな」
らしいな、という言い方だった。
誰かから聞いたのだろう。
誰から聞いたか、考えるまでもなかった。
私は首を傾げた。
「いいえ、殿下。ちっとも」
「ほう」
「“お幸せに”と申し上げましたわ」
王子は少し考える顔をした。
「そうか」
それから、さらりと言った。
「で、式の予定だが」
「式?」
「三か月後でいいか?」
私は瞬きをした。
「……なんの式ですか?」
王子は当然のように言った。
「結婚式だ」
会話が、一瞬ずれた気がした。
私はにっこり笑った。
「ミイティ様とですか?」
王子の眉が動く。
「違う」
「おめでとうございます」
「違う」
王子は少し苛立った。声に、微かに棘が混じる。
「ミイティは家族だ」
私はうなずく。
「ええ」
「結婚するのは、あなたに決まっているだろう」
決まっている?なんで?
この人は本気でそう思っている。私の返事など、最初から必要ないと思っている。
私は首を傾げた。
「あらあら」
「なんだ」
「私、結婚を了承しましたっけ?」
王子が眉をひそめる。
「プロポーズしただろう」
「ええ」
私は微笑んだ。
「でも」
「でも?」
「お返事していませんが」
王子は腕を組んだ。
「三か月後で結婚調整する」
「……」
返事を聞く気が、最初からない。
私は少し考えるふりをした。
「よくわからないですわ」
王子は言った。
「ミイティに嫉妬しているのか?」
私は笑った。
「いえ」
そして軽く首を振った。
「ぜんぜん」
王子が不機嫌そうに言った。
「ミイティのことで逆恨みか」
逆恨み。
その言葉を、私は静かに聞いた。怒りは来なかった。ただ、ああやっぱり、と思った。この人の目には、私がそう映っているのだ。嫉妬して、妬んで、逆恨みする女として。
「私に恥をかかせるつもりか」
私は静かに答えた。
「いいえ」
「ではなぜだ」
「お幸せになれるのは」
私は微笑んだ。
「殿下とミイティ様ですわ」
王子が眉をひそめる。
私は続けた。
「私は、愛されていませんから」
王子は鼻で笑った。
「ミイティに嫉妬か」
私は首を振った。
「いえ」
王子が吐き捨てる。
「醜いぞ」
一瞬だけ、胸の奥が揺れた。
でも次の瞬間には、もう静かだった。
前の人生の私なら、この言葉に傷ついた。泣いたかもしれない。謝ったかもしれない。
今の私には――ただ、呆れだけがある。
私は笑った。
「そうですよねー」
王子が怪訝な顔をする。
「ミイティ様は美しいですから」
私は言った。
そして軽く礼をする。
「私はご遠慮しますわね」
王子が何か言いかける。
その時。
私は視線を王子の後ろに向けた。
「では失礼します」
王子が振り返る。
「ミイティ様が」
私は静かに言った。
「あちらから来られましたので」
王子が後ろを向いた隙に、私はくるりと背を向けた。
追いかけてくる気配はなかった。
当然だ。ミイティが来たのだから。
私は歩きながら、小さく息をついた。
醜い、か。
前の人生でも、最後はそう言われたっけ。
私は少しだけ笑った。
同じ台詞を、また聞くことになるとは思わなかった。
でも今回は――
傷つかなかった。
それだけで、十分だった。
やはり、人は頭一度打ったら、気づくものね。
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