愛される女と利用される女 ~すぐ怪我する義妹と心配する王子、私はお見合いで何を見せられているのでしょうか~

夢窓(ゆめまど)

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結婚式まじかー!

「ミイティ、何を泣いているんだ?」
ミイティは顔を伏せた。
「なんでもありませんわ……」
王子が覗き込む。
「言ってみろ」
ミイティは小さく呟いた。

「あなたが……あの女と結婚してしまうのが、悲しくて」
王子は少し困った顔をする。
「仕方ないだろう」
ミイティは黙っている。

「彼女は金持ちで、身分も高い」
王子は当然のように続けた。
「王妃にするなら彼女じゃないといけない」
「……」
「そうでないと、私は王太子になれない」
打算だった。最初から、全部。愛でも縁でもなく、ただの計算だった。ハーミヤの家柄と財産が必要だから、王妃にする。それだけのことだった。

ミイティが涙を拭う。
「でも……」
王子は優しく肩に手を置いた。
「だからって、私たちは変わらない」
ミイティが顔を上げる。

「え?」
王子は微笑んだ。
「彼女といても、君が困れば、すぐ駆けつけるさ」
部屋に、沈黙が落ちた。
ミイティの瞳が、ゆっくりと揺れた。


「ハーミヤは、いつまで拗ねているんだ?」
王子が不機嫌そうに言う。
「結婚式の打ち合わせにも来ない」
側近が黙っている。

答えようがなかった。婚約の返事をもらっていない相手が、結婚式の打ち合わせに来ないのは、当然ではないかとは、誰も言えなかった。

「王妃教育にも来ない」
王子は腕を組んだ。
「王妃教育は……ミイティもできないが」
少し間が空く。

「結婚式の打ち合わせとリハーサルは、ミイティがしてくれた」
王子は満足そうに頷いた。
「まったく」
「どこまでミイティに迷惑をかけるのだ」

この間、急に担当の文官が三人辞めた。侍女も四人逃げた。王子は気にしていない。

そして、結婚式当日。
王宮の中の教会は、白い花で飾られていた。天井まで届く柱に、丁寧に巻かれた花飾り。赤い絨毯が、祭壇まで一直線に伸びている。招待客が両側に並んでいる。
誰もが、花嫁を待っていた。
王子は祭壇の前に立っていた。
結婚式なので、真っ白な衣装でとてもカッコいい。

花嫁入場の音楽が鳴る。
扉が開く。
赤いドレスのハーミヤは、ミイティの横に立っていた。花嫁付き添い?でいいかしら。

白いドレスのミイティが、緊張した顔でハーミヤを見ている。招待客の視線が、二人に集まっていた。

ハーミヤはにこりと笑った。
「ミイティ様、この先も、お願いしますね」
そして――
どん。
背中を押した。
「えっ」
ミイティがよろめく。
「え、え、えーーー!」
そのまま赤い絨毯を進んでしまう。
止まれない。勢いがついてしまっている。招待客がざわめいた。
祭壇の前で止まった。
王子が眉をひそめる。
「ミイティ、なぜだ?」
ミイティは振り返る。
「わ、わかりません……」
遠くに立つハーミヤを指さす。 

「ハーミヤ様が……このままって……」
「このまま?」
ミイティは慌てる。
「えー!? いいんですかね!?」
広間が、しんと静まり返った。
王子はあっさり言った。

「ハーミヤが言ったのならいいだろう」
招待客がどよめく。側近が顔を見合わせる。神官が困り顔で王子を見ている。
誰も止めなかった。
王子が止めなかったから。

ハーミヤは少し離れた場所で立っていた。
赤いドレスが、白い花飾りの中で、ひときわ鮮やかだった。
小さく手を振る。
「お幸せに」

広間の向こうで、ミイティが祭壇の前に立っている。王子が隣に並んでいる。神官が、どうすればいいのかわからない顔をしている。

ハーミヤは背を向けた。
赤い絨毯を、今度は自分の足で歩く。
いつになったら気づくのか。
――たぶん、一生気づかない。
でも、もういい。
この人生は、私のものだから。

式場がざわめく。
招待客が顔を見合わせている。神官が困り顔のまま固まっている。誰も、どうすればいいのかわからない顔をしていた。

そこへ王家の代官が慌てて走ってきた。
礼服のすそを乱しながら、息を切らして。
「ハーミヤ様!」
ハーミヤはゆっくり振り向く。

「どうして結婚式に来られないのでしょう!」
ハーミヤは首をかしげた。
「来ておりますけど?」

代官は言葉を詰まらせる。
確かに来ている。赤いドレスで、ちゃんと来ている。ただ、祭壇の前にいないだけで。

その向こうで――
王子とミイティが誓いのキスをしていた。
式場のざわめきが、一瞬大きくなった。それからまた、しんと静まる。

ハーミヤはそれを眺める。
そして小さく笑った。
「お似合いのカップルですわね」
「うふふ」
代官が慌てて言う。
「い、いえ、その……!」
言葉が続かない。続けようがない。何をどう言えばこの状況を収められるのか、代官にもわからないのだろう。
ハーミヤはさらりと言った。

「私は婚約もしておりませんから」
少し間を置く。
「結婚もしませんけれど」
代官の顔が、みるみる青くなっていく。
王子とミイティは、まだ祭壇の前に立っている。誓いのキスのあと、ざわめきが広がっていた。招待客がひそひそと囁き合っている。

ハーミヤはそれを眺める。
そして、にこりと笑った。
「愛し合うカップルって、いいですね」
代官が固まる。
「ハーミヤ様、それは……!」
ハーミヤは首をかしげる。
「違うのですか?」

代官は何も言えなかった。
違う、とは言えない。あの二人を見れば、誰でもわかる。三曲踊り、リハーサルをともにし、誓いのキスを交わした。違う、と言える人間が、この式場のどこにいるのか。
祭壇の前では、王子がミイティの肩を抱いていた。
ふたりは笑っていた。
幸せそうに。
本当に、幸せそうに。
ハーミヤは軽く手を振る。

「おふたりでお幸せに」
その声が届いたのか、届かなかったのか。
ふたりも、笑いながら、ハーミヤに手を振っていた。


式場がまたざわめく。
代官が何かを言いかけた。
ハーミヤはもう、背を向けていた。
赤いドレスの裾が、白い大理石の床を滑る。

招待客の間を、まっすぐ歩く。
誰も、止めなかった。
止められる人間が、いなかった。
扉を抜けると、外の光が眩しかった。
ハーミヤは目を細めた。
よく晴れた日だった。
結婚式には、もったいないくらいの――いや。
ハーミヤは小さく笑った。


教会を出たら、ルドックがいた。

ルドックが懐から瓶と、グラスを出す。
「飲むか?」
ハーミヤが笑う。
「飲む飲む」

赤いドレスと赤い髪で、教会の石段に並んで座って、ワインを飲んでいる。
背後では、教会がまだざわめいている。

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