義妹に婚約者を譲ったら、貧乏鉄面皮伯爵に溺愛されました。

夢窓(ゆめまど)

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義妹が婚約者の交換をお願いしてきた!

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 公爵家の長女として育った私――メイベル・エヴァンズは、幼い頃に母を亡くしている。
 父は早々に再婚し、継母とその連れ子の義妹、シレーヌを家に迎えた。

 シレーヌは美しい少女だった。
 金色の巻き髪に宝石のような瞳。愛らしい仕草で父に甘え、社交界では「花のように愛される令嬢」と評判だ。

 ──けれど、学問も礼儀も身につかず、勉強嫌い。
 愛されていれば、それで勝ちだと思っている節がある。

 そのシレーヌが、ある日、私の部屋へずかずかとやってきて言い放った。

「お姉さまの婚約者、麗しい伯爵家の三男坊ヘンリー様、私の方がお似合いですわ」

 思わず、手にしていた本を閉じる。
 伯爵家の三男……たしかに見目は整っている。けれど中身は空っぽ、勉強も仕事も身につかず、ただ社交場で着飾っているような派手な男だ。
 ──正直、退屈な相手だと私も思っていた。

「代わりにお姉さまには、わたしの伯爵家の長男の方を差し上げます。学者ばかりしていて退屈そうな方ですし」
「……」

 シレーヌの母、つまり継母も横で頷いている。

「ええ、それがよろしいでしょう。あなたは見目も麗しいし、公爵家の顔として相応しいわ。
 姉であるあなたは、本ばかりで、愛されるには退屈すぎますから」

 ──なるほど。
 この人たちは勘違いしている。

 公爵家を継ぐ権利は、母の血を引く私にしかない。
 婿養子として迎えられるのは、三男坊ではなく……伯爵家の長男。いいかもしれないです。婿養子は出来がいい方がいいですし、

 私は内心でため息をつき、しかし微笑みを崩さず答えた。

「……ええ、わかりました。あなたが望むなら」

 シレーヌは勝ち誇ったように笑った。
 けれど、その笑顔の裏で、彼女はまだ気づいていない。
 ──その選択が、自分の未来を没落へと導くことを。

どうせシレーヌに何を言っても無駄だ。
 愛されていると信じて疑わない彼女には、理屈も現実も通じない。
 だから私は、口を閉ざす。言うだけ無駄だとわかっていたから。

 それに──正直な話をすれば。

 私の婚約者だったラリーは、あまりにアホで。
 いつも着飾っては鏡ばかり覗き込み、学問の一つも頭に入らない。
 婚約破棄できないかと、本気で悩んでいたのだ。

 そう考えると、むしろ都合がよかったのかもしれない。

「アドレ様、ね……」

 伯爵家の長男。
 いつも本に囲まれていて、社交場では滅多に姿を見ない学者肌だと聞く。
 退屈そうだと思ったけれど──。
 あの、うつけのラリーよりは、きっと何倍もましだろう。

 私はそっとため息をつき、ふと胸の奥に小さな興味が芽生えるのを感じていた。



数日後、父の執務室に呼ばれた。
 そこには公爵家付きの執事が控えていて、きっちりと頭を下げる。

「メイベルお嬢様。伯爵家のご長男──アドレ様につきまして、公爵家の本家より“合格”の印可が下りました」

「あら」
 私は瞬きをした。
 本家から直々に、アドレ様を婿養子として認めるとの知らせ。
 つまり──公爵家を継ぐための道は、きちんと整ったわけだ。

 ところが横にいた継母は、こともなげに微笑んだ。

「まあ。ややこしいことは省いてしまえばよろしいのではなくて?
 婚約者交換なさってはいかが?」

「そうですわ!」とシレーヌが手を打った。
「私ならラリー様のように見目麗しい方こそお似合いですし、
 お姉さまはアドレ様のような退屈そうな方がぴったりですわ!」

 ……あらあら。

 彼女たちは、まるで都合のいいように解釈しているらしい。
 シレーヌが望んでも、ラリー様やアドレ様が承知するとは限らないのに。
 けれど──反論するだけ無駄だろう。

 私は涼しい顔を崩さず、静かに口を開いた。

「そう。あなたがそれでいいなら、私は構わないわ」

 シレーヌは勝ち誇ったように笑った。
 けれどこの瞬間、彼女は自分の立場を投げ捨てたのだと、私は内心でひそかに思っていた。

父は相変わらず政務で忙しく、屋敷にはいなかった。
 代わりに執事が淡々と告げる。

「伯爵家ご長男アドレ様からは『どちらでも構わない』とのご返答をいただいております。

 三男ラリー様は……美しいシレーヌ様との婚約、たいへん喜んでおられるとのことです」

 ……あら。

 その場が一瞬で沸いた。
 シレーヌはぱっと顔を輝かせ、継母も満足げにうなずく。

「ご覧なさい! やはり、私こそがラリー様にふさわしいのですわ!」
「ええ、そうね。アドレ様はどちらでもいいと仰っているのだし」

 ……なるほど。
 無関心なアドレ様と、喜んで浮かれるラリー様。
 この組み合わせなら、確かに“交換”は成立する。

 私は肩をすくめ、静かに笑った。

「ええ、そう。あなたがそれでいいなら、私は構わないわ」

 シレーヌは勝ち誇った笑みを浮かべた。
 けれど、その笑顔の奥に、すでに没落への種が潜んでいることを──彼女はまだ知らない。
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