義妹に婚約者を譲ったら、貧乏鉄面皮伯爵に溺愛されました。

夢窓(ゆめまど)

文字の大きさ
20 / 36

イアン、あざとかわいい

しおりを挟む
(尋問とイアン)

 牢にずらりと並ぶ皿。
 唐揚げ――それも山盛り。

「さあ、好きなだけ食いたかったら、言え!」
 アドレの冷たい声と共に、囚人たちの口から次々と秘密が吐き出されていった。

「側妃が……!」
「財務省が……!」
「貴族の名簿は……!」

 油の匂いと悲鳴が交錯し、唐揚げは今日も“悪魔の証言料”だった。



 その光景を震えながら見ていた少年がひとり。
 側妃の息子、イアン。

「……本当に……母上が……?」
 蒼白になりながら、兄アルバートの方を見上げる。

「イアン。もう隠し立てはするな」
 兄の厳しい眼差しに、イアンは震える唇を噛んだ。

 やがて、絞り出すように声をあげた。
「……兄上。僕は、兄上に忠誠を誓います。
 ……母ではなく……兄上に」

 その決意に、アルバートの瞳がわずかに揺れる。



 その夜。
 兄の隣で、イアンは初めてビールのカップを手にした。
 唐揚げを一口、かりっと噛む。

「……っ!? おいしい……!」
「ふふ。そこで一口ビールを飲んでみろ」
 アルバートが笑って差し出す。

 ごくり。
 小さな喉が泡を通し、目をぱちくりさせるイアン。

「……! あっ……すごい、唐揚げが……もっと食べたくなる……!」

「はは。そうやって大人になっていくんだ」
「えっ……じゃあ、これって……僕の大人の儀式?」
「そうだ」

 嬉しそうに笑ったその顔は、まだ幼くて、あざといほど愛らしかった。

 唐揚げを食べてほっぺを赤くしながら、イアンは私の前に駆け寄ってきた。

「メイベル様ぁ……!」

 上目遣いで見上げて、両手を胸の前でちょこんと合わせる。
 つぶらな瞳がうるうると揺れた。

「ぼ、僕も……猫ポーチ、欲しいです……」

「えっ」
 私は思わず手を止める。

 イアンは恥ずかしそうに指先をつん、と突き合わせた。

「ね……? ダメですか?
 ぼく、唐揚げいっぱい食べて、ちゃんと兄上を助ける大人になりますから……」

 甘えるような声に、私の心臓が跳ねた。
 アドレでさえわずかに眉をひそめ、殿下も思わず吹き出す。

「……あざとすぎる……」
 フリードリヒが低くつぶやいたが、耳は赤かった。

 私は顔を真っ赤にして、とうとう観念した。

「……オカンアートですけど……文句言いませんね?」

「はいっ! かわいいから欲しいですっ!」

 無邪気な笑顔に、会場中の心臓が同時にドキドキと跳ねた。



猫ポーチを手にして大はしゃぎのイアン。
 小さな肩にちょこんと掛け、ぐるりと回ってみせる。

「見てください! 似合ってますか?」

 無邪気な声に、周囲からくすくす笑いが漏れた。
 あざとさ全開なのに、誰も嫌な気持ちにならない。
 むしろ場がふわりと和んでいく。

 そんな弟の様子を見て、アルバートは肩を落として小さく苦笑した。

「……ずるい弟だな」

 誰に言うでもなくつぶやいたその声は、どこか安堵を含んでいた。

 メイベルが首をかしげる。
「殿下?」

「……あいつが“母ではなく兄を選んだ”と口にした時、私は胸が詰まった。
 だが、こうして笑っていられるなら……それでいい」

 アルバートはグラスを軽く揺らし、ぽつりと付け加えた。
「……弟は、あまりに可愛すぎて心配になる。だが――誇らしい」

 その言葉に、イアンはぱっと振り返り、頬を赤らめながら駆け寄った。

「兄上っ! 僕、ちゃんと大人になりますから!
 唐揚げも、ビールも、ポーチも……全部、大事にします!」

 アルバートは思わず吹き出し、弟の頭をくしゃりと撫でた。

「……やれやれ。本当にずるい弟だ」


王宮の奥。
 香ばしい匂いが漂い、惻妃は皿の前で蒼白になっていた。

「……っ、もう……やめて……」
 ふらふらと椅子にしがみつき、ついに叫ぶ。
「私が……! 全て仕組んだのは私です! 殿下を……王位から退けようと……!」

 その告白に、大広間は凍りついた。

 こうして側妃は罪を認め、修道院へ幽閉されることとなった。
 側妃派も、財務省の不正も一掃され、事件は決着した。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。

三月べに
恋愛
 聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思う。だって、高校時代まで若返っているのだもの。  帰れないだって? じゃあ、このまま第二の人生スタートしよう!  衣食住を確保してもらっている城で、魔法の勉強をしていたら、あらら?  何故、逆ハーが出来上がったの?

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』

鷹 綾
恋愛
王太子アルベルトは、ある日、貴族全会の満場一致によって廃嫡された。 断罪もなければ、処刑もない。 血も流れず、罪状も曖昧。 ただ「順序を飛ばした」という一点だけで、彼は王位継承の座から静かに削除される。 婚約者だった公爵令嬢エリシアは、婚約破棄の時点で王都の構造から距離を取り、隣国との長期協定を進めていく。 彼女の世界は合理で動き、感情に振り回されることはない。 一方、王太子が選んだ“新たな聖女”は、どこまでも従順で、どこまでも寄り添う存在だった。 「殿下に従わない者は、私が処理しておきます」 その甘い囁きの裏で、王都では“偶然”が重なり始める。 だが真実は語られない。 急病も、辞任も、転任も、すべては記録上の出来事。 証拠はない。 ただ王太子だけが、血に濡れた笑顔の悪夢を見る。 そして気づく。 自分のざまあは、罰ではない。 「中心ではなくなること」だと。 王都は安定し、新王は即位し、歴史は何事もなかったかのように進む。 旧王太子の名は、ただ一行の記録として残るのみ。 婚約破棄のその後に始まる、静かな因果応報。 激情ではなく“構造”が裁く、最強レベルの心理ざまあ。 これは―― 満場一致で削除された男と、最初から無関係な位置に立っていた令嬢の物語。

『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。 涙を流して見せた彼女だったが── 内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。 実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。 エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。 そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。 彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、 **「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。 「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」 利害一致の契約婚が始まった……はずが、 有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、 気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。 ――白い結婚、どこへ? 「君が笑ってくれるなら、それでいい」 不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。 一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。 婚約破棄ざまぁから始まる、 天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー! ---

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。 婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。 そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。 新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。 しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。 全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。 信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。 ******** 展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!

婚約破棄された地味伯爵令嬢は、隠れ錬金術師でした~追放された辺境でスローライフを始めたら、隣国の冷徹魔導公爵に溺愛されて最強です~

ふわふわ
恋愛
地味で目立たない伯爵令嬢・エルカミーノは、王太子カイロンとの政略婚約を強いられていた。 しかし、転生聖女ソルスティスに心を奪われたカイロンは、公開の舞踏会で婚約破棄を宣言。「地味でお前は不要!」と嘲笑う。 周囲から「悪役令嬢」の烙印を押され、辺境追放を言い渡されたエルカミーノ。 だが内心では「やったー! これで自由!」と大喜び。 実は彼女は前世の記憶を持つ天才錬金術師で、希少素材ゼロで最強ポーションを作れるチート級の才能を隠していたのだ。 追放先の辺境で、忠実なメイド・セシルと共に薬草園を開き、のんびりスローライフを始めるエルカミーノ。 作ったポーションが村人を救い、次第に評判が広がっていく。 そんな中、隣国から視察に来た冷徹で美麗な魔導公爵・ラクティスが、エルカミーノの才能に一目惚れ(?)。 「君の錬金術は国宝級だ。僕の国へ来ないか?」とスカウトし、腹黒ながらエルカミーノにだけ甘々溺愛モード全開に! 一方、王都ではソルスティスの聖魔法が効かず魔瘴病が流行。 エルカミーノのポーションなしでは国が危機に陥り、カイロンとソルスティスは後悔の渦へ……。 公開土下座、聖女の暴走と転生者バレ、国際的な陰謀…… さまざまな試練をラクティスの守護と溺愛で乗り越え、エルカミーノは大陸の救済者となり、幸せな結婚へ! **婚約破棄ざまぁ×隠れチート錬金術×辺境スローライフ×冷徹公爵の甘々溺愛** 胸キュン&スカッと満載の異世界ファンタジー、全32話完結!

婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。 そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。 それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。 だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。 ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。 アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。   こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。 甘めな話になるのは20話以降です。

処理中です...