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愛する魔女、メイベル
しおりを挟む王都の夜会場は、煌びやかな灯りと音楽で満ちていた。
賓客たちが談笑し、杯を掲げる中――新たに公爵家を継ぐ夫妻の姿に視線が集まる。
メイベルはドレスの裾を翻し、完璧な笑顔を浮かべていた。
その隣でアドレは、いつもの鉄面皮で人々を見下ろしている。
「……やっぱり、ご注目の的ですね」
「当然だ。お前は……公爵夫人だからな」
メイベルが照れて笑うと、アドレの瞳がわずかに柔らかく揺れた。
⸻
やがて音楽が変わり、ダンスの時間となる。
貴族たちの視線の中、アドレがすっと手を差し出した。
「……踊るぞ」
「えっ、私、そんなに上手くは……」
「心配はいらん。俺が導く」
その一言に、会場中の女性たちがどよめく。
「鉄面皮が……奥方にあんな台詞を……!」
「ずるい……羨ましい……!」
舞踏の輪の中央で、ふたりは優雅にステップを刻む。
けれど近くで見ていた影たちは、必死に声を殺していた。
「……やばい、甘すぎて視界が歪む……」
「殿下に報告できん……国防より、糖分過多で倒れる……!」
⸻
曲が終わると同時に、アドレはメイベルの手を強く握った。
そして低く、しかし会場全体に響く声で言い放った。
「……自覚があるかは知らん。だが――メイベル。お前は、俺が唯一愛する魔女だ」
「へぇぇぇっ!? ま、魔女ぁ!? な、なにそれぇーっ!?」
メイベルの素っ頓狂な声に、会場はどよめきと笑いに包まれる。
「鉄面皮公爵が! 公衆の面前で愛を告白したぞ!」
「ひゃああ、甘すぎる……!」
⸻
赤面して転げ回りそうなメイベル。
だが、アドレは鉄面皮を崩さず、ただ真剣に彼女の目を見つめ続けた。
「……だから、絶対に俺から離れるな」
その場にいた誰もが、甘すぎるその台詞に息を呑む。
⸻
メイベルは真っ赤な顔で、にへらっと笑って答えた。
「えへへ……わかりましたぁ! だって新婚ですもんね!」
――その瞬間。
会場は拍手と歓声の嵐に包まれた。
「破壊力が……規格外だ……」
「糖分で倒れる……」
「公爵夫妻……甘すぎて国がもたん……!」
壁際の影たちは揃って頭を抱え、床に崩れ落ちた。
こうして、夜会は甘すぎる“公衆イチャイチャ”で幕を閉じる。
ゴロゴロ転げ回る影たちの呻き声が、夜の廊下にこだました。
――後世の記録に残る言葉がある。
“魔女メイベル”。
本人にその自覚はない。
彼女が手作りしたオカンアートのポーチは、国家を揺るがす秘宝となり。
彼女が台所で揚げた唐揚げは、悪魔の拷問器具と恐れられた。
しかし、メイベル自身の認識はこうである。
「えへへ……ポーチはただの裁縫遊びですし、唐揚げはただの居酒屋メニューですけどね!」
――ちょっとずれた自覚。
けれど、その笑顔と料理が、人も国も未来も救った。
だから人々は、親しみと敬意を込めて呼ぶのだ。
“魔女メイベル”と。
こうして、夜会は甘すぎる公衆イチャイチャで幕を閉じました。
鉄面皮公爵と“魔女メイベル”の物語は――これにて、終わりました。
お読みいただきありがとうございます。
王子の結婚の番外編は、現在執筆中ですので、また日をあらためて公開いたしますので、よろしくお願いいたします。
『記憶喪失令嬢、捜査協力願います。──ご褒美はウザイ婚約者との婚約破棄』
連載始めました。よろしくお願いします。
『定年聖女ジェシカの第二の人生 ~冒険者はじめました~』
すでに話後半です。
この話も、よろしくお願いします。
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